第406話 この魔女め
文字数 1,940文字
「カツよ。そんなに舌打ちするなら、ショウコとフェニックスに着いて行けばよかろう?」
縁側で足だけ垂らして仰向けになるビクトリアは、ユニコ君『Mk-VII』の調整に勤しむサマーから意見される。
「苦手なんだよね“ミス・グリーン”は。何て言うかサ、心臓を握られる的な」
より、感受性の強いビクトリアは店主も含めて『スイレンの雑貨店』の雰囲気はどうも苦手なのだ。
「サマーこそ、何で届け物をショウコの名義人にしたのさ」
「ショウコの方が“グリーン”に気に入られると思ってのう。受取りに行って変な条件を突きつけられるのは目に見えとる」
「生け贄じゃん」
「フェニックスも共におるし、大事にはならんわい」
「ホントさぁ。皆、あの男のどこが良いのか、さっぱりわかんないなぁ。アタシは」
「自分にとって波長の合わんヤツは何をしても嫌悪に駆られるからのぅ。まぁ、カツはその距離で良いと思うぞ」
カチカチとプログラムを調整するサマー。ビクトリアは寝そべったまま、彼女を見る。
「ちなみに何を頼んだの?」
「ちと、ワシの遺伝子上の“親”についてじゃ」
「『ジーニアス』のデータ? 研究所事、吹き飛んだんじゃ無かったっけ?」
「ワシの血を使ってグリーンに頼んだのじゃ。なに、タダの血液検査じゃ。『ジーニアス』には捕捉されん」
それでも万全に万全を期して、最も足のつかない情報屋にお願いしたのである。
「血の繋がった両親かぁ。アタシには縁の無い話だね。家族はアンタたち」
「わしもじゃ。フェニックスものぅ」
「……アイツは除外」
「ふっふっふ」
当面はビクトリアの態度は軟化する事はない様子にサマーは笑った。
「イッヒッヒ。信用を証明出来ないなら、また後日頼むよ」
スイレンさんにそう言われてオレは、ぬぅ……と唸るしかない。明らかに妨害されてるのは解るんだけど、確証も無いワケで老人と言う事もあり強引に詰め寄るのは……
「御老体、一つ教えて欲しい」
すると、ショウコさんが老婆と向き合う。
「イッヒッヒ。なんだい?」
「私宛に届いた荷物は一体何なんだ?」
「イッヒッヒ。検査結果だよ」
「検査結果?」
意外にも教えてくれる様だ。
「サマー・ラインホルトの両親についてさ。血縁上の人間を調べ上げたんだねぇ。イッヒッヒ」
おいおい。めっちゃ重要な資料じゃん。PS5のうんぬんを抜きにしてでも持ち帰らないと行けないぞ。
「……御老体。貴女が何となく妨害しているのは知っている。正直、迷惑極まりない」
「イッヒッヒ。余生の短い老人の戯言だと思ってもらっても構わないよ」
そうは言うが、まだ半世紀は生きそうな婆さんだよなぁ。
「サマーを連れてきな。あの娘以外に手渡すつもりはないよ」
「……それは許容させてもらう」
すると、ショウコさんが真面目に婆さんと向き合う。ショウコさーん。真面目に向き合う必要は無いですよー。
「サマーが私に頼んだのだ。重要な資料の受取人として。なら、私はその信頼に応えなければならない」
「イッヒッヒ。強い眼をしているねぇ。とてもとても強い眼さ」
なんか、ジブ○みたいな事を言い出したぞ、この婆さん。
「どうすれば資料を渡してくれるんだ?」
「アンタが信頼に足ると証明してくれれば、すぐにでも渡すよ。イッヒッヒ」
「条件の提示を」
「そうさね。それじゃ、写真でも撮らせて貰おうかね。イッヒッヒ」
「ちょっとちょっと、お婆ちゃん」
上手く行きそうだったので傍観者を気取っていたが、流石に口を挟む。
「確か証明出来ないのはこっちの落ち度だけどさ。店内のジャミング切ってよ。サマーちゃんに連絡するからさ」
「イッヒッヒ。ジャミングって何の事だい?」
ぬぅ……シラを切るか、この魔女め。
「うぅ……暴力かい? こんな転んだら死ぬような老人を痛めつけようなんて……ごほっごほっ……」
うわぁ、面倒くさいなぁ。しかし、婆さんの条件が無茶苦茶なのは誰が見ても明らかだ。最初に許容すると、もっと無理難題を押しつけられるかもしれん。ここは、引いてはダメ――
「わかった。写真を撮られれば良いんだな」
「イッヒッヒ。そうさ」
オレの懸念をよそに、ショウコさんは使命感に燃える眼をしている。
「いいの? ショウコさん」
「何も魂を抜かれるワケじゃない。それに写真を撮られるのは慣れてる」
そりゃ、プロですものね。やれやれ。
「わかったよ。でも変な事されそうになったら、流石に帰るからね」
「イッヒッヒ。話はまとまった様だね」
なーんかなぁ。婆さんの手の平で転がされた感は否めないが、スムーズに事が運ぶならソレに越した事はないか。
「次は鮫島嬢だねぇ。イッヒッヒ」
と、婆さんはリンカへ向き直る。そう言えば、リンカもここに用事があって来たんだっけか。一体、どういう要件なんだろうか。