第295話 ユニコ君の呪いかよ

文字数 2,485文字

 カーシャと女郎花の出会いは今から5年前。
 女郎花が『プラント』を創設し、僅か10年で急成長を遂げている最中だった。

「貴方は?」

 自警団の隠れ蓑である電気のないバーに女郎花は現れた。

 停戦が解除された『ラクシャス』では命を削る様な緊張感は常につきまとった。
 昼間の移動はご法度。特に戦線を割る中央街には多くの罠や狙撃手が配置されており、歩けば殺してくれと言っているモノだった。

 『ラクシャス』の国軍と政府は多方面からの攻撃と圧力により機能を失い、国としての自衛手段は完全に失われた。
 生き残った軍人や民間人で国を捨てる者も多かった。しかし、カーシャの様に国を離れぬ者達は、武器を取り自警団として一定の生活区域を維持する選択を取る。

「私は女郎花教理と言う者だ。自警団と話がしたい」
「理由が無ければ話はしないわ」

 電気の落ちたバーでナイフを研ぎながら、ゲイル、ジェットと会話をしていたカーシャは入ってきた女郎花に対して警戒する。

「貴方がどこの誰か知らないし、知る気もない。観光なら他国の占領した地区に行くと良いわ。海や自然は本当に綺麗な国だから」

 と、ゲイルが女郎花の排除に立ち上がり、ジェットは噛んでいるガムをぷーと膨らませ、彼を見る。

「私はこの戦争を終わらせに来た。その為に君たちの力が必要だ」

 そう言うと女郎花は近寄って来たゲイルに名刺を渡すと踵を返す。

「まずは他国の戦闘行為を停戦をさせる。その後、今の話に乗るのなら連絡を」

 それだけを言って女郎花は去って行った。
 カーシャはゲイルから名刺を受け取ると、稀に現れるイカれ野郎だと考え適当にポケットに仕舞う。

 そう言えば、このバーに来るには中央街を通らなければ後は海路しかない。しかし、海路も敵軍が目を光らせており、即座に沈没させられる。
 あの男はどこから来たのだろうか? と少し考えたが二度と会うこともない男の事を考えても仕方ないと特に気にはしなかった。
 ただ念のために拠点は移動した。

 その1ヶ月後、停戦協定が結ばれたと通信を傍受した者達から情報を貰った。あの時の男が言った通りになったのだ。
 ただの偶然か? それとも……

「……」

 カーシャは名刺の番号に連絡を入れた。





 ユニコ君『Mk-VI』。
 それは最新の伸縮素材を用いた防弾性を考えられて作られた次世代のマッスルスーツだった。
 幾度と試作を繰り返し、ようやく形となったのが『Mk-VI』であるが、それでもまだまだ試作段階。装着者に合わせた筋力の触れ幅を正確に読み取るAIを組み上げている最中だった。

 タイプはユニコ君であるものの、その外見はスマートなシルエットに象徴の1本角がフードから突き出ている。
 サマーとリアルタイムにやり取りする為にフルフェイスであるが、最新のVR技術によって、通常の視界と同じ視野角を再現している。

「……」

 外見は明らかな変質者である『Mk-VI』。しかし、カーシャとしては雰囲気が変わったことに警戒心が強くなる。

 流雲昌子の結び紐を見た瞬間、強い感情を感じた。これは……怒りですか。

「……ユニコーン?(……彼女に何をした?)」

 相変わらず何を言っているのか聞き取れない。しかし、やることは変わらない。

「ここは通しません」

 『Mk-VI』が地面に落ちた赤紐を拾う。明らかな隙。カーシャは頭部へ諸手のナイフを突き出す。

「――」

 『Mk-VI』は来るのが解っていたかのように視線は向けず、パシッとナイフを持つ手首を掴んだ。

 掴まれた……しかし、終わりです。

 カーシャは掴まれる寸前で反対の手にナイフを投げ持ち変えていた。これは決まる――

「――――」

 『Mk-VI』は手を掴んだまま、引くように身体を沈め、狙われた頭部を一挙動の限界まで後ろへ下げる。
 ナイフの切っ先はギリギリ届かない。

“相手の重心を探るのに長い鍛練もソレを見切る眼もいらん。ただ、相手の身体に触れていれば良い。そして、自分と相手の身体が伸びきったら、次は縮むしかない。そこを払う。それが――”

「ユニコーン(地崩し)」

 カーシャが更に踏み込もうとした瞬間、軸足を払われ、逆に片膝を地面につける形となった。

「――」

 状況に理解が及ぶまで僅か二秒。
 まるで『Mk-VI』に頭を垂れる様な姿勢で顔を上げた。

「……」

 『Mk-VI』が何を考えているのかまるで解らない。
 殺意も闘志も無い攻撃ほど防げないモノはない。不気味すぎる気配。得体の知れないモノとして『Mk-VI』が映る。

「ユニコーン……(悪いな……)」

 『Mk-VI』はカーシャの肩に手を置いた。

「ッ!!」

 カーシャは停止していた思考は再度フル起動。全身を満遍なく駆動させ、バネの様に身体を浮き上がらせると『Mk-VI』の顔面へナイフを跳ね上げる。

“物質が最もエネルギーを使うのは停止状態からの起動だ。それは人間も同じ。最も壊れやすい瞬間だ”

 カーシャの立ち上がりの動きに合わせて『Mk-VI』は肩に乗せている手に僅かに力を入れた。

「ユニコーン(形抜き)」

 ナイフは『Mk-VI』に届かなかった。カーシャのナイフを持つ腕は肩を外され、ダランと機能を失ったのである。

「!!?」

 何が起こった!?

 不意に動かなくなった腕に肩を外されたと気づくよりも速く、『Mk-VI』の腕が首に絡み付いてくる。

 フロント・チョーク。今度は完全に決まっていた。

「うぐぐぐ……」

 カーシャはまだ動く片手で抵抗するも、それはあって無いようなモノ。次第に視界はブラックアウトしていく。

 気がつけば態勢を崩され、そして肩を外された。何を……一体……この男は……何……者……

「お……前……は……何だ?」
「ユニユニユニニニコーン(山奥のジジィに鍛えられた一般人だ)」

 最後まで『Mk-VI』とは会話を交わせなかったカーシャの意識はそこで途絶えた。

「……サマーちゃん。この音声どうにかならないの?」
『わしにも良く解らんのだ。何故か音声はユとコしか発声されんようでのう』

 ユニコ君の呪いかよ。
 ケンゴはそう思いつつ意識を失ったカーシャを近くの壁へ寄りかからせた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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