第388話 オオトリケンゴ

文字数 2,505文字

「女郎花社長。彼が海外支部の現地へ行き、その立ち上げに尽力した鳳君です」

 どうやら、海外転勤の関係で呼ばれたらしい。確かに社内で一番の話題は海外支部の事だ。その先駆者でもあるオレはその手の話題には結構呼ばれたりする。

「ドウモ。ワタクシ、オオトリケンゴ、トモウシマス。オミナエ、シャチョー」

 オレはロボットの様な口調で喋る。そして声色を変えて名刺を差し出した。
 人は基本的にイントネーションで他人の声を判別する。女郎花とはタンカー船で音声が故障したユニコ君『Mk-VI』越しで少しの会話をしたので念には念を入れるのだ。

「女郎花教理だ。よろしく、鳳君」

 よくもまぁ……何でもない様子で目の前に立てるな。この誘拐犯が! 思ったが、ヨロシクオネガイシマス、とロボを貫く。

「ふふ。鳳君、緊張してる?」
「大丈夫。女郎花社長は優しい人だよ?」

 ふわわぁ……鬼灯先輩と轟先輩の優しさに癒されるぅ……
 しかし、美人先輩二人の加護に身を任せてはならない。女郎花は、思考や洞察力においても相当なヤツなのだ。サマーちゃん曰く、人類最高峰。隙は見せない様にしなくては。

「ダイジョウブデス」
「ふっはっは! 鳳君! 緊張し過ぎだよ!」
「うーん。大丈夫じゃ無さそうです」
「普段はもっと親しみ易いのですが……」
「いや、私も仕事中に呼び出してすまなかった」

 社長、先輩方々。本当にすみません。女郎花、テメーには謝らねぇぞ。

「御社ヘヨウコソ。存分二拝見ナサッテクダサイ」
「そうさせて貰うよ」

 話せて良かった、と握手を求められたのでそれくらいは応じてやった。大人として、必要最低限なマナーは守らないとね!

「ふむ」
「……あのー」

 手を離して貰えませんかね?

「すまない。鳳君、『プラント』に派遣で来た時は是非とも声をかけてくれたまえ」
「モチロンデス」

 ようやく手を離してくれた。流石に握手しただけで、激闘を繰り広げたユニコ君『Mk-VI』の中身がオレだったとは解るまい。

「では、次は1課に行きましょうか!」
「ああ」

 そう言って、社長と女郎花は去って行った。去り際に轟先輩が軽く会釈して後に続く。

「ハァァァ……」
「ふふ。緊張した?」

 三人の姿がエレベーターに消えたのを確認してから、オレは大きく息を吐くと、鬼灯先輩が労いの言葉をかけてくれる。

「そりゃ……ヒヤヒヤモノですよ。下手したら会社に迷惑がかかりますからね」

 バレないかどうかが。

「女郎花社長は、生物学の権威でもある様よ。歴史には間違いなく名の残る偉人になると言われているの。鳳君も、彼と握手をした人物として名前が残るかもしれないわね」

 ホント、表向きはクリーンな中年実業家だよ、あのヤロウは。今も腹の底では何を考えてんのか解ったモンじゃねぇ。
 昼休みにヨシ君と塩を巻こう。

「仕事に戻ります」
「ええ。対応をありがとうね」

 いえいえ、と言いつつオレは席に戻った。





 昼休み。リンカは校舎の裏の階段でお昼を食べていた。いつも一緒のヒカリは、本日は別のグループとお昼を食べている。

「うーん。まさか、こんな所でまた巡り合うなんて……」

 ヒカリの持ってきた雑誌を横目に朝の話を思い出していた。

 『スイレンの雑貨店』。
 それは、魔女が運営する店。中はアンティーク物ばかりだったが、“億”の部屋にはヤバい物が多々存在する。後、罠も張られている。

「回収はしたけど……」

 ヒカリの持ってきた雑誌を、参考までに貸して、と言ってなんとか手元に手に入れた。まだ、他のクラスメイトには見せていなかった様で紙一重だった。

「確かにコスプレ衣装も扱ってるって言ってたなぁ」

 お婆さんのイッヒッヒッヒ、と言う笑い方は今でも覚えている。あの時は、阿見笠さんと真鍋さんが偶然来てくれたから何とかなったが、明日に行く際にはどうしようか……

「……どういうつもりだったんだろう」

 参加させて貰った社員旅行の最後で、阿見笠さんは彼と話していた。
 初めてだった。彼があんなに怯えた表情で他人を見ていたのは。その時は咄嗟に手を取って場を後にしたが、今思えば、彼とは深い接点があるのかもしれない。

「……でも、絶対に良くない方だ」

 止め止め。一人では答えの出しようもない話題を考えるのは時間の無駄だ。今は――

「明日、一緒に来てくれる人かぁ」

 魔女の店に一緒に突撃してくれる人を選定せねばならない。

「お母さんは……絶対からかわれる」

 あらあら~。とか言って自分も写真を持ち出してお婆さんと一緒にカシャカシャする未来が見える。

「ヒカリは無理だから……ダイキはどうかなぁ」

 土曜日時間ある? とダイキにLINEを送って見た。すると、どうしたの? とすぐに返信。行きたい所があるから付き添えない? と返す。

「うーむ。でもダイキは……一緒に巻き込まれそうな気がする……」

 童顔で美形なダイキは逆に言いくるめられて女装させられてカシャカシャされそう。
 最近は何かあったのか、それなりに男の子らしくなっていたが、それでも中身はあんまり変わらないのである。

“ごめん。土曜日は部活”
“いいよ。こっちこそ、急にごめんね”

 ダイキも無理と。後は……うーん。一瞬、切実な大宮司先輩を思い付いたが、学校の関係者の人には知られたくないなぁ。

 リンカは何気に雑誌を取ると開いて中を確認する。すると、やっぱりあった。
 バニースーツと女教師とメイド服(ミニスカ)の写真が。しかも、他よりも少し大きめのフレームが使われている。

「まずいなぁ……大量生産される前に何とかしないと……」

 ヒカリの話では、店頭に置いてあった物を借りて来たらしい。やっぱり、一人で行って交渉するかなぁ……いやでも……また、何かしらの罠を仕掛けてるかもしれない。
 何かあった際に味方になってくれる同伴者は欲しい所だ。

「……」

 無論、ケンゴの事も候補にあった。しかし、

「こんな形で見て欲しく無いなぁ」

 すると、LINEにダイキから追加のメッセージが入る。

“ケン兄ちゃんには相談した?”
“お隣さんには都合が悪い”

 と返す。まぁ下着選びとか思って貰えれば納得してくれるだろう。

“それなら、お母さんはどう?”
“カレンさんの事?”
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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