第69話 夏の風物詩+隣の女の子
文字数 2,109文字
約束の日、夕刻。仕事が押して昼間は出勤となったケンゴはアパートに居なかった。
「うーん……」
リンカはどの服で行くか悩んでいた。
人混みを行くわけだし動きづらい服装はなぁ……でも、少しは意識して貰いたい……いつもと違う格好を……
「ただいま~」
「おかえりなさい」
いつもより早い帰宅の母を出迎えた。朝出る時にはなかった少し大き目の荷物を持って帰ってくる。
「あら。ケンゴ君は仕事なの~?」
「もう帰って来るって」
先ほどLINEでメッセージを受け取っている。
「そう。楽しみね~」
「別に……いつも通り二人で遊んで帰ってくるだけ」
スーツを着替え始めるセナは何着か広げていあった服を見て察する。
「何を着ていくの~?」
「動きやすい服」
「あらあら。お母さんに良いアイディアがあるんだけど~」
リンカは頭に疑問詞を浮かべるとセナは持って帰ってきた大きめの荷物を開けた。
一課へのヘルプが終わったオレは、今日の事を知る(て言うか無理やり聞き出された)七海課長に、終礼は良いから帰れ、と言われてありがたく帰らせてもらった。
「夏祭りか……昔はよく行ったな」
“おにいちゃん、早く早く!”
目の前の煌びやかな魅力と祭りの雰囲気にテンションMAXのリンカはオレの手を引っ張って騒いでいた。大人財力で、わたアメを買ってやると大人しくなったので毎回一番に買ってやったっけか。
「それがもう高校生か」
身体も大人っぽくなって、考え方も自立したモノになっているだろう。
故に! 今のリンカの中でオレはお兄さんなのか親父なのかを今回で見定めねば!
「……親父扱いは
ランクの下がる見られ方をしていると思うと少しだけテンションが下がる。
祭りの影響か、少しだけ人の多い駅を出るとアパートへ。建物が見えるといつもながら安心するのは、やっぱりここが家なんだと思えるからだろう。
階段を上がり、鮫島家の前を通って自分の部屋へ。スーツを脱いでハンガーにかけると、ささっと着替えていざ出陣!
「――はは」
色々と考えていても、これから楽しい所に出向くと言う状況にテンションは上がる。
うーん、子供だ。と自分でも思いつつも、夏の暑さや人混みの不便などすぐに気にならなくなるだろう。
「こんばんはー」
鮫島家のインターホンを鳴らす。は~い、とセナさんの声。どうやらご帰宅されていたご様子。
「準備は万端~?」
「稼働率100%です」
扉を開けたセナさんに真面目にそう言い返すと奥からリンカが少しだけ顔を出す。
ほら~出てきなさい~、と言うセナさんに言われてリンカは姿を出した。
その身体は夏の風物詩である浴衣に包まれている。
涼しげな水色と白に彩られ、散りばめられる花柄は実に素晴らしい。しかし、少々……
「……なんだよ」
恥ずかしそうに浴衣を着ているリンカは、じっとオレを睨んでくる。
「リンカちゃん……おっぱい、きつくない?」
「……」
帯で強調される胸部を指摘するとリンカは近づいてきて、
「ばかが!」
と、ローキックをかました。いてっ、と声を出すオレ。意外と痛いんだよなぁ、これ。
そんなオレらの様子をセナさんは微笑ましく見ていた。
祭り会場での待ち合わせは前のようにトラブルに見舞われる可能性があるので、今回は共に家から出発。
しかし、いきなり言葉をミスった為に不機嫌な浴衣姿のリンカとの間には会話は無い。
「……浴衣似合ってるよ」
「最初にどこを見た?」
「……」
「どこを見たんだ? おら」
「……おっぱいです」
「けっ、クズが」
下手に会話を挟むと、どんどん好感度が下がってる気がする。バットイベント真っ逆さまだ。祭りの雰囲気で気分が回復してくれれば良いが……
「……盆休み。何してたんだ?」
腫れ物を触るかのようにあたふたしていると、リンカから話題を振ってくれた。
「ちょっと実家の方に頼られてね。イトコの面倒を見てた」
帰り際に遭遇したシズカに関しては既に証明済み。
「……帰るのか?」
「どこに?」
「田舎」
「ないない。盆休みも終わったし、イトコが来たのも突発的な事だったしさ」
それに最終的に解決したのはオレじゃなくて嵐君だ。オレにはシズカの心を動かすことは出来なかったので、彼には感謝しかない。
「……イトコ同士って……け、結婚できるって知ってるか?」
「知ってるよ?」
七海課長と同じ事言ってるなぁ。この話題は何かしらのキーワードでも共通しているのだろうか。
「凄く……可愛かったじゃん。お前のイトコ……」
「まぁ……ガチョウが白鳥を産んだよね。親戚の中でも一際、目立つよ」
でも……シズカは恋愛するのに少し苦労しそうだ。
「お前はどうなんだ……? そのイトコと……」
「ん? いやいや、ないない。シズカとは絶対にそんなことはありません」
まぁ、中身は男の子なわけで、オレよりもリンカやヒカリちゃんの方に健全に欲情する。オレとしてもシズカをその様には見ていない。て言うか見れない。
「そ、そうか……そうなんだ」
完全に否定するとリンカは少しだけ嬉しそうだ。その様子に少しはお兄ちゃん好感度は回復しただろうか。
すると人並みが増え、浴衣を着た者達がちらほら。
祭り会場が見えてきた。