第339話 人類の叡智たる階段

文字数 2,377文字

「やはり上かな?」

 オレと赤羽さんは、遮るように現れた眼帯の男を見て、目的のモノが階段を登った先にあると確信した。

「そうだとしても先には行かせん」

 むむ。こいつ……結構出来るな。雰囲気もそれなりのモノを宿している。あの舌打ち男と同等かそれ以上かもしれない。

「スパイダー○ン、ちょっと良いかな?」
「何でしょう?」
「彼を何とか出来るかい?」
「……多分、無理です」

 眼帯男は相当な実力者。正直、オレは勝てない相手だ。何より――

「躊躇なく殺りに来ますよ」

 その雰囲気をひしひしと感じる。

「お二人さん。目的は上かい?」

 ずいっと背後から紙袋の大見さんがハンマーを肩に担ぎながらオレらの援護に来る。他は……なんかマッチメイクはそれなりに決まった様子だ。

「とうせんぼ、が結構厄介でして」
「ふむ。よし」

 すると、大見さんはしゃがむと赤羽さんの足首を持つ。

「三、二、一で行きますよ?」

 オレは、何が? とクエスチョンを浮かべて居ると、三、二、一! と大見さんは赤羽さんを投げ上げた。
 そんなバカな。と言うレベルで赤羽さんは飛ぶと二階の手摺にスマートに着地した。

「おお、凄いな彼。投げるタイミングで跳躍を合わせたようだ」
「マジですか」

 どうやら大見さんのリフト上げに赤羽さんも合わせたらしい。バッ○マンかよ。

「次は君だ!」
「オレは良いです」
「まぁまぁ」
「いやいや! ホントに良いですから! 親から貰った両足と! 人類の叡智たる階段を使って上に行きますからぁぁぁぁぁ!!」

 オレも足首を掴まれるとそのまま強引に投げられると、激突に近い形で二階の柵にしがみつく。あっぶ! あっぶっ! 足をばたばた。

「手間が増えたか」

 眼帯男がこちらを見て階段を上がってくる。ほら意味ない!

「我々は我々の勝負と行こうか」

 しかし、大見さんの投げたハンマーが眼帯男の進行先を阻害する様に壁にめり込む。マッスラー怖ぇー。車とかも平気で投げて来そうだもの。

「……」
「君の眼は半分曇っている。私が話を聞こう」

 と、大見さんはそんな事を言いながら眼帯男へ一歩踏み出す。彼は片眼が無いんですけどね。

「我々はあっちだな」

 と、赤羽さんが引き上げてくれて通路の奥を一緒に見る。そこには舌打ち男が一つの部屋の前に立っていた。

「アイツです」

 そう言うと赤羽さんはすたすたと歩いていく。
 ふむ……オレはフリーと言うことでよろしいか。





「我々は死人である」

 国の裏側で集められた12人の死人は、表では死んだ者達だった。

「諸君らには家族、友人、掛け替えのないモノがあったであろう? しかし、それを捨てたわけではないのだ」

 隊長は俺達にそう言った。

「必要なのだよ。我々が、闇を見張るモノ――『国選処刑人』が」

 あらゆる者に対して殺意与奪の権利を持つ12人。特別などではない。そもそも、俺達は存在さえもしないのだから。

「諸君。日本を護ろうではないか」

 そう言った隊長は化物の様に強かった。俺達が束になってかかっても殺れるかどうかの存在。そして、並みならぬ愛国者でもあった。

「この国に『国選処刑人』は必要ない」

 雨の降る夜に奇襲を受けた俺達は隊長の死体にそう言う一人の老人を見た。
 その時、理解した。俺達のやろうとした事など、この老人からすればママゴトに等しかったのだと――

「お前らもそうか?」

 老人は、地の底から響く声でそう言うと、ゆらりと歩み寄ってくる。
 『間切』と『空気打ち』。それにより、俺は心臓を打たれて一瞬で動きを止められた。
 全く反応出来なかった。何とか停止する心臓を動かす事に集中するも、意識は次第に薄れていく。
 そして、次に目を覚ました時、生き残っていたのは俺達の五人だけだった。

「ハハハ……“本物”かよ……」

 放心する緑屋は笑う。

「痛い……痛い……なんで……私は……うう……」

 耳を抑えて踞る黄木は子供のように震えていた。

「一人……一人だけだった……」

 白山は力なく座り込み、ぶつぶつと呟く。

「これで……終わり……だと……。それなら俺は……なんの為に……」

 片眼にナイフが刺さった灰崎は仰向けに動かない。

「次に『国選処刑人』などふざけた旗を掲げるなら皆殺しだと、森のヤツに伝えとけ」

 そう言って老人は雨の降る闇に消えて行った。

 国のために全てを捨てた。しかし、俺達のやろうとしていた事は何の意味はなかった。

 無意味、無価値に居ない存在として消える。

 最初から決まっていたかのように、現れた『国選処刑人(ほんもの)』に解らされたのだ。
 その後、暗部を知る病院で治療を受けている所に彼が来た。

「君たちに価値を与える。私の所に来なさい」

 黒金さんにそう言われて、俺達は救われたのだ。
 なら……俺達のやることは一つだけ。
 彼の恩義に報いる。無価値に消えるだけだった俺達を救い上げてくれた黒金さんに偽り無い忠義を尽くすのだ。

「すまない。今はこれしか手が思い付かないのだ」

 黒金さんの息子さんが『国選処刑人』の身内に手を出し、直々に処刑宣言を受けたと告げて来た。

「息子は馬鹿な真似をした。しかし……それでも息子なのだ。君たちにとっては触れたくない過去だろうが……」
「任せてください」

 俺達はきっと誰も断らなかった。

「『国選処刑人』から息子を護ってくれ」

 内容でなはい。黒金さんが心底頼ってくれた事に俺達は命を賭してでもその恩義に報いるつもりだ。





「彼の“望み”を成就する事こそ、俺達の存在意義だ」

 青野は歩いてくる赤羽とケンゴに立ち塞がる様に告げる。

「間違ってるのは解ってるさ」

 緑屋はイントと向き合う。

「価値を認められたのだ!」

 白山は松林に強い口調で相対する。

「ようやく心から誇れるのよ」

 黄木は口元を抑えつつ茨木を見る。

「これは義務ではなく忠義だ」

 灰崎は階段を降りつつ大見を見る。
 誰一人として黒金を裏切る事など考えてはいない。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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