第131話 断罪者(お尻専門)

文字数 2,516文字

「完全に撒いたか」

 暁才蔵は追ってこない様を振り向いて確認しつつ、人の気配が少ない道を選んで移動する。
 人の意識から外れる修行を駅構内で行っていたが……まさか不覚を取るとは。修行の完成度はかなり高かったが、よもや“古式”の使い手が通ろうとは!

「これも運命と言う事か。ヤツとは雌雄を決さねばな」

 しかし、未だ仕えるべき主君に巡り会えない状態では命を燃やしきれず不覚をとるやもしれん。

「……甘奈姫か」

 あの麗しい方の名を知れただけでも収穫と言う所だろう。
 琉球で最初に見たときは何やら騒がしい男と共に居たが問題ない。我が心意気を知れば己の役割を認識するハズだ!
 
「もう一度、会う必要があるな。甘奈姫に」

 明らかにヤバい思考を持つ才蔵は、シュタっ、と道路下のトンネルへ入る。
 車が一台通れる横幅しかない小さなトンネルは距離にして10メートル程しかない。

「俺だ……ああ。予定どおりに事は運んでいる」

 向こう側からスーツを着た男が電話をしながら歩いてくる。特に気にする事もないか、と才蔵はその横をすたすたとスレ違う。

「良い読みだった。国尾にも伝えてくれ。忍者は俺が止めておく」

 才蔵は足を止めると、背中会わせの形で男も足を止めた。
 ドドドド! と互いの気迫が場に臨場感を作り出す。男はスマホの通話を切った。

「下女の追手か」
「お前の存在はシオリが不安がる」

 才蔵はソバットを決めるが、男は沈むようにかわし、スマホを胸ポケットに仕舞う。
 流れる様な男のハイキック。宙に浮く才蔵は咄嗟に小手でガード。

「ぬう!?」
「用意がいいな」

 溜めの無い攻撃でも凄まじい威力を受け、才蔵は横の壁に叩きつけられた。男は追撃の前蹴りを繰り出し、才蔵は横に転がってかわす。

「なる程……七海課長が手こずるわけだ」
「お主……出来るな!」

 スーツの男は動かない。まるで、トンネルの出口を護るかの如く立ち塞がる。

「女の下着を盗むのは止めておけ。ここいらが手打ちだ」
「戯れ言!」

 ちゅど! と煙玉。狭いトンネルの内では煙がこもり、効果は絶大。馴れぬ者には暗闇と同じだ。

「所詮は凡愚よ! この暁才蔵の敵ではないわ!」

 ははは! と、才蔵は悠々と男の横を抜けようとして、ガシッ!

「え?」

 横から腕を掴まれた。煙の中、こちらを的確に捉えた男はそのまま才蔵へ向けて連打を放つ。

 ぐべぇ!? と言う悲鳴と共に才蔵は再びトンネルの中へ叩き戻される。

「ま、まぐれか!」

 激痛に悶えつつも男の追撃を想定し起き上がる。

「……」

 しかし、男は追撃してこない。それどころか煙の中にヤツの気配が全く感じられない。

「……逃げたか」

 才蔵は男が煙から脱したと考え、再度煙の中へ進む。すると、ガシッ!

「なんだ……と!?」

 再び掴まれた。男は正座し、こちらを向かぬ状態で才蔵の手を掴んだのだ。それは、意図したと言うよりも反射反応に近い動き。

「こ、これは止水か!? 某でも到達し得ない、古式の秘奥に何故貴様が――ぐぎぃぃ!?」

 男の一定範囲に入った者を打ち落とす反射迎撃によって、連打を浴びた才蔵は再びトンネルへ戻される。

「ば……馬鹿な! この暁才蔵をこれほど一方的に!」

 男は煙の中で正座し薄目を開き、トランス状態へと意図して入っていた。一般的にはゾーンと呼ばれる状態である。

「だ、だが! 貴様の敗因は某だった事よ! 別にそっちを通らなくてもいいもんね!」

 わざわざ、男の方へ意地になる必要はない。時には道を変えるのも我が忍道である!

「そこで一生置物となっておれ! サラバ!」
「ははは、まじぃ?」

 後ろへ振り替えるとそちらからも人が歩いてくる。
 それは巨漢。大きな体格に無駄無く搭載された筋肉はトンネルの通路が狭く見える。ずんずん、と重々しく進んでくるその男はスマホを片手に通話し、何故か上半身は裸だった。

「愛の意味を勘違いした忍者が居るって? おいおい、それは捨て置けねぇな。真の愛を俺が注ぎ込んでおくぜ。姉御からも許可が出てる? ほっほう! ヤりたい放題じゃん! ん? 今どこに居るのかって?」

 巨漢――国尾は才蔵の前で足を止める。

「課長と忍者を挟み撃ちだ」

 ピッ、と通話を切った。





 キィン! おめでとう。ホームランだよ。

「クソが!」

 キィン! おめでとう。ホームランだよ。

 オレ達は才蔵を取り逃した後、何故かバッティングセンターに居た。
 平日の昼間と言うことでガラガラ空いていた事もあり、全てのマシーンの前をオレらで独占している。

 キィン! おめでとう。ホームランだよ。

 その中で、一番速いマシーンの速球をものともせず連続でホームランに叩き込む七海課長は打つ度に、クソが! と悪態をついていた。

「あの……七海課長。会社に戻らなくて良いんですか?」
「こんな精神状態でまともに仕事なんて出来っかよ! 今発散してんだ! クソが!」

 キィン! おめでとう。ホームランだよ。

「クソですよ!」
「クソですよ!」
「フザケンナヨー!」

 空さんと海さんとダイヤも低速のコースに入ってバットを振っている。
 暁才蔵による女性陣の怒りを全て受け止めるバッティングセンターの店長は、七海課長にホームランを量産されて景品の心配をしていた。
 迷惑にならない所に八つ当たる。これが社会人のストレス発散方法だ!
 ちなみに空さん海さんはヒット性の当たりを打つがダイヤは空振ってばかり。

「ふむ、それではさじ加減は任せますぞ」
「誰と話してたんだ?」

 どこかへ連絡を取っていたヨシ君。例の別動隊と言うヤツか?

「課長と国尾殿が忍者を捕らえたそうです。処理は国尾殿へ一任すると」
「うわぁ……裏だとそんな事になってたのか」

 哀れ暁才蔵。深く同情するよ。特にケツ。

「七海課長。忍者、捕まったそうですよ。国尾さんに」
「そうか! ザマァ!」

 キィン! おめでとう。ホームランだよ。

「ザマァですよ!」
「ザマァですよ!」
「ジゴクニオチロー!」

 あ、ダイヤがボールを当てた。ボテボテの内野ゴロ。

 後日、ニュースで才蔵は警察に自首してきたと報道された。
 尻っ! 尻っ! 某の尻を護ってくれ! と真っ裸で交番に駆け込んで来たとか。
 ヤツの罪状に猥褻物陳列罪も追加された。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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