第460話 これが……愛の力か!

文字数 2,065文字

「おぉぉりゃあ!」
「グガァァ!!」

 腕を振るう巨熊と拳を繰り出す蓮斗。
 正面から立ち上がった熊と格闘戦をするなど正気の沙汰ではない。
 しかし、蓮斗は常人の膂力を遥かに越えた超人体質。直立二メートルの熊とは互角に打ち合っていた。

「動くなよ」
「……グオォ」

 対して、ゲンともう1頭の熊は向かい合ったまま動かなかった。いや、熊側からすれば動けない(・・・・)と言った方が正しい。

「少しでも動けば捕るぜ」

 洗練されたゲンの気配に相対する熊は機会を伺う。





「グオオ!!」
「くぅぅ!!」

 熊の爪は差ほど鋭さはない。だが、体長二メートルに搭載された約250キロの体重と腕から産み出されるパワーによって、十分な殺傷能力を持つ武器として確立されている。

 硬ってぇぇ!

 対して蓮斗の振るうのは拳のみ。しかし、熊の持つ筋肉と毛皮によってサンドバックを何倍にも固くした物体を打ち付ける感覚に攻めあぐねていた。

 身長209センチ。体重190キロ。見た目から不釣り合いな数値は、身体の筋繊維、骨密度が常人の65倍にも及ぶ故のステータスである。
 しかし、それは良い事ばかりではない。
 エレベーターには乗れず、本気で動けば並みの服など瞬く間に破け、1日で消費するエネルギーも多い。
 更に怪我を負えば治療には時間がかかり、臓器などの移植手術には適合するモノが常人よりも更に限られる。
 それは蓮斗も理解している。だが、彼は難しい事を頭の中には残さない。

「中々……じゃねぇの!」
「ゴアアア!!」

 爪を腕で受け、服と皮膚が裂けるも動きに支障はない。熊へ繰り出す打撃は毛皮と体重に阻まれているのか、効いているのか、いまいち良くわからない。

「くっ!」
「ゴルゥゥ……」

 至近距離での打ち合いは双方痛み分けの形で一旦距離が開く。互いに呼吸を整える僅な間となった。

 打撃は効果が無いのか? この熊公は怪我を負ってて痛みもあるハズなのに、何て根性してやがる!

 昔から根性のあるヤツは手強い。蓮斗独自の喧嘩理論である。だが、今回だけは引くわけには行かない。

「蓮斗!」

 その時、ゲンが叫ぶ。

「今のお前からは腕相撲した時とは違う力を感じる。それを思いっきり解放してみろ!」
「……」

 そうだったぜ……今の俺にはハジメから教えて貰った“愛”がある!

「ゴァァァ!!」

 熊が迫る。今度は腕の攻撃だけでなく、隙あらば牙で食らいつく事も辞さない。

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 蓮斗は叫びながら拳を構える。その脳裏には多くの家族が浮かび、その中で最も近い存在の姿が光る。
 熊は間合いに入り、食らいかかっ――

「ハジメぇぇ!!」

 カッ! と蓮斗の拳が光り輝いた。それは錯覚なのだろうが、ゲンだけが理解したように笑う。ようやく気がついたか、と。

 ちなみに公民館で風呂に入っていたハジメは、くしゅん! とくしゃみをした。

 ドムゥゥ!! と肉へ打ち付けられた一撃は迫る熊の身体を仰け反らせ、大きく後退させた。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 蓮斗は更に踏み込む。その踏み込みに耐えられなくなった靴が破けるが構うことはなかった。

「愛してるぜぇぇぇ!!!!」

 ハジメは再度、へっくしょい! と、くしゃみ。

 光る拳のラッシュ。一撃一撃が先程受けたモノと同等の力を纏っており、熊はなす術もなくその拳の雨に身を晒し続ける。

「グッ……グガァ……クガァァア!!」

 それでも捕食者としての維持を見せ、全体重で蓮斗へ覆い被さる様に食らいつく。

「おおりぁぁぁぁ!!!」

 そこへ、真下からの顎へのアッパーカット。それは巨体を大きく羽上げる程の威力があり、強制的に直立状態へ戻される。

「カッ……ヒュ……」

 蓮斗の愛のブーストがかかった連打により、幾つかの臓器を破損。更に昼間に受けたジョージからの傷も相まって意識は既に失われつつあった。

「これが、俺様の愛だぜ!!」

 今宵、最も光輝く蓮斗の一撃が巨体に打ち込まれる。
 一瞬の静寂。時間が停止したかのように、蓮斗は拳を打ち付けたまま止まり、熊も動きを止めていた。

「グッ……グッオォォ……」

 そして、ゆっくりと熊の巨体が横へ倒れる。それは狙ったのかは不明だが、心臓へ衝撃を与え、その動きを停止させたのだ。

「ゼハァ……ゼハァ……」

 倒れた熊を見て、蓮斗は肩で息をすると震える己に気がつく。
 これは……今まで以上の力に身体が震えているのだ。新たな高みへ足を踏み入れた感覚を認識するように蓮斗は手の平を握り、震えを止めた。

「これが……愛の力か!」





「ふっ……」

 ゲンは若者の成長を間近で目の当たりにして、短く微笑んだ。
 蓮斗には元から何かのために力を振るう要素は備わっていたのだ。今回でそれがようやく形となって実力に出てきたのである。

「さてと、お前はどうする?」

 ゲンは己が釘つけている目の前の熊へ問う。言葉は解らなくとも状況は理解しているだろう。

「やるなら俺が相手をしてやるよ」

 物怖じしないゲンの様子。隣で倒された同格の相手。熊の決断は――

「グルゥ……」

 やってられっか。と言いたげに、のそのそと横の林から山の中へ去って行った。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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