第463話 当たるよ、絶対に

文字数 2,487文字

 オレと熊吉の行動原理はきっと違う。
 コイツは復讐の為に里へ戻ってきた。それに対してオレは――

“譲治お爺様が、お怪我をなさいました”

 アヤさんから、その言葉を聞かされて最初に思ったのは、嘘だぁ、だった。
 大袈裟に言ってるだけ。そう思って帰省したのだが――

“テメェ……何しに帰って来やがった?”

 ジジィは怪我を負っていた。それも片腕を使えなくなる程の深傷を……
 何でもない様子でジジィはオレに捲し立てたが、顔色や、らしくない興奮状態から相当に無理をしてるとわかった。
 ジジィは下手をすれば死んでいた。大袈裟かもしれないが、オレの脳裏にはもう二度と帰らない父さんと母さんの姿がよぎったのだ。

「安心しろ、熊吉。オレは逃げたりしない」

 だからお前も逃げてくれるな。
 オレの家族を奪おうとしたお前は……ここで確実に始末する。
 あの船では泣くことしか出来なかった。けど、今は違う。

「お前がオレの大切な家族(もの)を脅かすなら……絶対にここで殺す」

 コイツは本当にやる。そう思ったからこそ出た言葉だった。





「あのバカヤロウ」

 ゲンは母屋方面を振り返りながら悪態をつく。
 ケンゴは最初からこのつもりだったのだ。
 熊吉は片腕を負傷していた。本気で走れば逃げきれない事もない。それでも、離脱しないと言うことは、決着(ケリ)をつけるつもりなのだ。
 アイツは……何も出来ずに父と母を失ったのだから……

「戻ります! ゲンお爺様と蓮斗さんはユウヒさんとコエさんを!」
「待て! アヤ!」

 アヤはゲンの制止を聞かずに母屋へ戻って言った。

「どうする、じっちゃん!? 俺らも戻るか?!」

 蓮斗の腕の傷。精神的にも限界のユウヒとコエ。そして、更なる熊が現れる可能性――

「一旦、公民館に帰るぞ! 俺とロクで引き返す!」

 今は負傷者と疲労した女児二人を安全な場所に送り届けるのが先だ。





 解ってるさ。こんなのは間違ってる。
 でも、オレには無視出来ない。“あの船”では何も出来なかった。幼かったから……などと言う言葉は何の慰めにもなっていない。
 だからオレは決めたんだ。
 もし、オレの家族を危険にさらす様なヤツが現れたら、持てる全ての力を使って終わらせてやると。
 もしも、その代償が命なら――くれてやるよ!

「ゴァァァア!!」
「……」

 やっぱり、命とかはやり過ぎだと思うので今の心得は無しで。動く度に出血し、咆哮も力が失われつつある。適当に挑発し続ければ勝手に力尽きるだろ、コイツ。

「ケンゴ様!」

 アヤさんが戻って来ちゃったよ。彼女も結構クタクタのハズなのにゲンじぃは何やってんのぉ!

「グオオオ!!」

 アヤさんへ襲いかかる熊吉。刀を持ってるから優先順位はそっちが上か。

「背中を見せるとは。嘗められたモンだな!」

 オレはその背中に追撃。嘗めるなよ! ファブリーズはまだ使えるんだぜ!
 すると、熊吉がギロリとオレを見る。なぬ! コイツ! フェイントを――

「グゴァァ!!」

 と、オレを誘い、切り返す熊吉の牙が迫る。しかし、間一髪! オレは膝蹴りで熊吉の下顎を打ち上げて強制的に閉じさせた。
 あっぶねぇぇぇ!! この熊公! フェイントなんて使うんじゃねぇよ!

「グオオア!!」
「っテメェ……」

 しかし、乱雑に振り回した腕に吹き飛ばされるも、『流力』で衝撃を軽減。しかし、勢いは止まらず地面を少し滑る。

「ケンゴ様!」
「グオオオ!!」

 熊吉はアヤさんへ襲いかかるが、彼女は巧みな体捌きでふわりふわりとかわす。
 人は最も疲労している時が一番無駄の無い動きをする。今のアヤさんは動きが洗練されていた。

「っ!」
「オオガァ!!」

 しかし、熊吉のラストブーストも相当だ。アヤさんを捉えて腕で吹き飛ばす。てめぇ! 嫁入り前の彼女に何してくれてんだ!

 アヤさんはオレの側に着地。怪我は無い様子だが、身体は小刻みに震えている。

「……すみません。ケンゴ様。私には……貴方様を……」

 彼女もここに来る事はオレの意思を無駄にする行為だと理解しているようだ。

「気にしてないよ。オレがヤツを引き付けるから、君は母屋へ走って――」
「ガオオオ!!」

 まぁ、的が一つになったら熊吉はこっちに来るよね。しかも、ヤロウ、片腕が使えないのに、突進して来やがった! 三足で走れんのかよ、テメェー。

 アヤさんは鞘に収まったままの刀で熊吉の突進を受け止め、オレはそんなアヤさんを受け止めつつナイフを投擲。二人仲良く吹っ飛ばされ、塀に激突する。

「痛てて……大丈夫? アヤさん……」
「はい……」

 200キロを越えるであろう熊吉の体当たり。『流力』の間が取れなかったとは言え、直撃でもないのに、このダメージは改めてヤバイな。

「ゴオオオ!!」

 しかし、熊吉はもっと悶えていた。何故なら、オレの投げたナイフがジジィに潰された眼に再度刺ささっていたからだ。
 加賀やヨシ君たちとちょくちょくダーツに行っててよかった。





「グウウゥ……」

 倒れない……
 アヤはここまでやっても止まる事の無い熊吉に恐怖を抱き始めた。
 刀は先ほどの突撃を受け止めた事で刀身が曲がってしまっただろう。ケンゴもナイフは熊吉に刺さっており、二人は武器を失った。

 何か……何か、決定的な――

 この土壇場でアヤの視界は驚く程に広がり、近くに落ちている猟銃に気がつく。

 アレは――

 昼間に熊吉達と交戦したジョージが払い落とされた猟銃(もの)。今まで目の前の戦いに必死で気がつかなかったのだ。
 アヤは立ち上がると真っ先に気づいた故に自分が手にとって熊吉へ構える。

「グォォォオオ!!」

 しかし、熊吉はここで三足状態へ。的が小さくなり、突進の構えだった。

「――」

 これを外せば本当に終わりだ。しかし、今撃った所で熊吉の頭部を射抜く可能性は限りなく低い。
 先ほど、突進を受け止めた衝撃と恐怖で手も震えている。照準がブレる――

「大丈夫」

 と、その震えを抑えるようにケンゴが後ろから銃身を安定させる様に手を添えた。

「グオオオアアア!!」

 熊吉が最後の雄叫びを上げて突進してくる。

「当たるよ、絶対に」

 ケンゴのその言葉に震えが止まった。
 銃声が『神ノ木の里』の夜に響く――
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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