第327話 電気代ヤバそうだな

文字数 2,277文字

 ショウコを乗せたバンは、街から少し離れた丘上の住宅街を登り、更に山中の道路を進む。
 そして、『私有地』と書かれた看板横の道を曲がると砂利道の先にある一つの屋敷にたどり着いた。

「デケー屋敷だなぁ」

 バンを止めた蓮斗は屋敷を見上げて素直な感想を述べる。
 何でも屋として引っ越しの手伝いを何度か引き受けた事があるが、ここまで大きい屋敷は初めてだった。
 そして、何故か窓全てがカーテンや雨戸で塞がれている。

「変な詮索はするなよ」
「……へい」

 青野は蓮斗がエンジンを切り、外に出たのを確認してから自分も降りる。

「蓮斗は女を運べ。他の三人はバンに居ろ」
「……」
「いいか? この敷地内は治外法権のようなモノだ。主導権は全部こっちにある」
「それって……」
「もう一度言う。詮索はするな」

 それは部下も人質に取られた様な者だった。蓮斗はどんどん状況が悪くなるのを感じる。
 バンの後部座席を開けると横たわるショウコと部下三人に各々視線を向けた。


「社長……」
「指示をください……」
「暴れろって言えば、いつでも暴れますからね」

 蓮斗は車の鍵を部下の一人に投げて渡す。

「俺が合図をしたらバンを走らせろ」

 まだ気を失っているショウコを蓮斗は抱える。彼からすれば人ひとりなど容易く持ち上げられる。

「お前は余計な口を開くなよ。屋敷の中は、何時殺されても文句は言えないと思え」

 青野と主に屋敷の入り口へ向かい、バンはいつでも出れるように駐車させる。

「……」

 そして、屋敷の前にも門番の様に一人の男が休めの姿勢で立っていた。

「桃城。中に取り次いでくれ」
「……」

 門番の桃城はイアホンマイクで内部と連絡を取ると扉は重々しく開いた。

「……鋼鉄か」

 外見は普通に見えるが、厚みは二十センチもある両開きの鉄の扉は、内側に鉄の閂もあった。人力では開けるのは非効率なのか、自動開閉式のようだ。





「なんだこりゃ」

 扉を抜けるとそこは大きなエントランスとなっており、海外映画などである貴族の屋敷を彷彿とさせる階段もある。
 青野と同じ雰囲気の者が他に四人。その誰もが常人とは異なる目付きをしていた。

「……電気代ヤバそうだな」

 しかし、それよりも眼を引くのはその灯りだった。既存の証明に更に据え置きの物まで存在し、死角となる影を一切合切取り払った様な明るさだ。若干、眼をしぼめる。

「青野。任務は完了かい?」
「見れば解る」
「ほー。俺も雑誌は見たけどね。実物は更にエロいな」

 若い軽薄そうな男はショウコを品定めする様に見ると、その容姿を称えるように告げる。

「スタイルも良い。ユウマ様がハマるのも解る気がするよ」
「緑屋。我々全員が集まっているのか?」
「もち。ユウマ様にとって万全の日にしたいのだろうね」
「……」
「お前が荒谷蓮斗か?」
「あん?」

 今度はショウコを抱える蓮斗に声をかける男が居た。頬に傷があり、オールバックに髪を後ろで結んでいる。筋骨隆々の体躯で蓮斗を見る。

「常識を超えた身体能力を持つ超人体質……是非とも手合わせを願いたいモノだ」
「悪りぃが喧嘩は好きじゃなくてな。他を当たってくれ」
「残念だが、この白山にその様な事は全く持って一切合切関係がない。君が敵になったその瞬間、試させて貰おう」

 ニヤける白山に蓮斗は、何だこいつ? と怪訝な眼を向ける。

「うっふふ……ふふふ。綺麗な薄色ね……この方」

 と、ショウコの薄色の髪を高級布を扱う様に触る女が目の前に居た。眼の部分をマスクで覆い耳が片方欠けている女である。
 どいつもこいつも、近づく気配をまるで感じ取れない。

「黄木。彼女に興味は抱くな。排除されるぞ」
「手伝いくらいはぁ……させてくれないかしらねぇ……うっふふ♪」

 名残惜しそうにショウコの髪から黄木は手を離す。

「どいつもコイツも、あの夜を忘れたみたいにイカれやがって」

 と、椅子に座ってコインを弾く男は呆れた様に呟く。

「灰崎」
「状況をマトモに見つつもイカれた事をやってると認識してるのは俺らくらいか。青野」
「……元より、俺たちはまともではなかっただろうな」

 部隊は今の3倍は居た。しかし、本格的に始動する前に襲来した一人の老人によって隊長と大半の隊員が殺害されたのである。

「俺は今でも怖ぇよ。特に雨の日の夜道がな」

 灰崎が顔を正面に向けると片眼は眼帯に覆われている。その下はナイフを刺し込まれて潰れた片眼が当時の襲撃の凄まじさを物語っていた。

「……ん……んん!?」

 すると抱えているショウコの動く様子を蓮斗は感じる。そして、眼と口が使えない状況に若干、暴れだした。

「あらあら可愛い」
「動くとエロい女だなぁ。ホントよ」
「適当に手足でも折っておくかぁ?」
「タイミングとしちゃ悪くはないな」

 四人の知らない声。そして視界と口が使えない事にショウコは更に暴れる。

「あ、青野さん! 目隠しと猿ぐつわは外しても良いだろ!?」

 ぐいぐいと顔を押しやられて、彼女を落ち着かせる意味でも蓮斗はその様に提案する。

「いいぞ」

 ここまで来れば内部の人間の許可無く屋敷から出ることは出来ない。蓮斗は落とさない様にショウコを降ろすと拘束の一部を解く。

 両手と両足の拘束はそのまま。目隠しを取ると下の視線は場を見回し、青野と蓮斗を睨む。

「お前たちはどうかしている」
「……」
「自覚はある。だが、君を求めているのは我々ではない」
「なに?」

 その時、エントランスの上から声を上げる者がいた。

「お前たち、何をやっている! 拘束などして! 痣なんか残ったらどうする!?」

 全員が見上げた先にはこの屋敷で一番の権限を持つ男――黒金佑真(くろがねゆうま)が叫んでいた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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