第344話 家族だボケ
文字数 2,692文字
結果としてはこちらの圧勝。うーむ。相手は国の精鋭のハズ何だけどなぁ。パワーバランスが何かおかしいぞ。
「ほっほう! 鳳よ。ミッションコンプリートだな!」
すると、例の超人クンを抑えに行った国尾さんが目の前に立っていた。肩には歴戦の戦友のように超人クンに肩を貸している。
「って言っても、オレは最後に首謀者を殴っただけですけどね」
「私はスッとしたぞ」
「美味しい所を全部持って行きやがってよ、コイツ~」
カズ先輩にアームロックを決められる。マッチョメン達は各々で道具を片付けて帰る準備を始めていた。
どうするー? サウナ行くー? などと話している。
すると、超人クンが国尾さんの肩から離れるとオレ達(ショウコさん)の前に膝をついて土下座する。
「本当にすまなかった!!」
その様子に部下三人も並び、同じように土下座した。
「何も知らなかったなんて言い訳にはならねぇ! 今回の一件は間違いなく俺のせいだ!」
「無茶するなよ、
「いいや……ここはきっちり謝らせてくれ。罰は全て……この荒谷蓮斗が受ける!」
国尾さんの静止も振り切り頭を下げ続ける。
確かに彼も誘拐犯の一人。部下たちの話では戦ってくれたそうだが、こっちとしては関係の無い話だ。
「これでプラスマイナスゼロで良い」
と、ショウコさんは超人クンにそう言う。
「お前が暴れなければ助けは間に合わなかったかもしれない。だからお前のやったことは許すよ」
「……本当に……本当にかたじけねぇ!!」
ちょっと古くさいよなぁ、超人クン。まぁ、こっちとしては一番の被害者であるショウコさんが許すと言うなら文句はない。
「はいはーい。色々と話がまとまった所で問題が一つあるんだけどサ」
カズ先輩が手を上げる。
「帰りの足は定員オーバーなんだよねぇ」
「あ」
そう言えばそうだ。ハマーとハーレーにはギリギリの人数でやってきたんだった。
「どうする? 歩く?」
「私は構わない」
「いやいや! ショウコさんは服破れてるし! 優先して車に乗ってよ!」
ハーレーとバイクはマッスラーの物だし、最悪、オレとカズ先輩で歩けば良い。町からは相当な距離だが、タクシーでも拾える場所に出れば何とか――
「ん? ほっほう!!」
すると、国尾さんのセンサーが何かに反応した。
砂利道をタイヤが進む音。遠くから一台の乗用車が走ってくる。
総員、覆面を被り直す。増援か? アベ○ジャーズの様に全員が屋敷へ来る車へ注目した。負ける気がしねぇ。
「……」
ゆっくり止まった黒色の高級車からは一人の中年男が降りてくる。スーツにそれなりの雰囲気を持つ男は戦闘員の様には見えない。中年男は場を一瞥する。
破壊された鉄の扉。散らばる分解された銃。玄関の脇で縛られて気を失っている門番。パンクした
やべ。これ完璧にオレらが悪モンじゃん。
「お下がりを」
と、更に車から出てきた二人が中年男を護るように前に出る。こちらもスーツ。耳にイアホンをつけている所を見るとSP風味を感じる。
「話をする」
中年男がそう言うとスーツ二人は道を開ける。中々に地位の高い……て言うか、この屋敷に来る時点である程度は察してたりする。
「私は
ほほう。それなりの人格者らしい。それか、何か事情を知っているのかもしれない。さて、ベストな対応が出来るのは――
「私が拐われたのを皆が助けてくれた」
この中で唯一、覆面をしていないショウコさんが前に出て話す。
「黒金佑真。ソイツの一方的な欲望のせいでこれだけの事態となった。屋敷には至る所にカメラがあった。ソレを見れば誰が正しい事をしているのか解るだろう」
「……そうか」
すると中年男は、ザッ、ザッと歩いてくるとショウコさんに頭を下げる。
「本当に申し訳なかった!!」
「青野。生きてるか?」
「……くっ……灰崎か?」
スタンガンによって気を失っていた青野は、まだ痺れる意識を何とか維持しつつ会話を始める。
「動けるかい? 青野」
「――黒金さん」
灰崎の後ろに立つマサトを見て青野は立ち上がろうとするも身体はまだ痺れて上手く動かせない。
「座ったままで良い」
「……すみません」
「ユウマはどうしている?」
「恐らく、部屋の中です」
マサトはそれだけを聞くとユウマの部屋へ入っていく。
中では布団にくるまってベッドの上で震えているユウマが居た。
「ユウマ」
「父さん……俺……殺される……『神島』に……い、嫌だ……」
弱々しい様に対し、マサトは殴られて腫れているユウマの頬を更に強く叩いた。
「お前は自分が何をしたのか解っているのか?」
「何って……」
「彼らは『国選処刑人』などではないし、お前の手足でもない。一人の人間だ。いつから、人の人生を好き勝手出来る程、偉くなったのだ?」
「……だって……俺は黒金――」
「絶縁だ」
「え……?」
「この国にお前の居場所はない」
マサトはそれだけを言うと背を向ける。
「明日には国を出れる様に手配する。死にたくなかったら黒金などに頼らず、自分一人で生きて行きなさい」
「…………はい」
ユウマもそれが自分に対する父が出来る最後の事だと理解し、ただただ泣いた。
「青野」
「はい。任せてください」
灰崎の肩を借りて立ち上がった青野は部屋から出てきたマサトの言いたいことを察していた。
「もうユウマは黒金ではない。国の外で生きる息子を自立するまで離れて見守っててくれないか?」
「構いませんよ」
「すまん」
どちらかと言うと、これからの黒金陣営の方が大変だろう。今回の騒動に『神島』はどんな判断を下すのか――
「と、言うことがあったのよ」
『そうか』
ミコトは事の全てを『神島』に報告していた。
「今回の件はどう考えてる?」
『何がだ?』
「お咎めは無し?」
『お前、何か勘違いをしてねぇか?』
『神島』は電話越しで告げる。
『ワシが許せんのは古い体制にしがみつき、ソレを有益だと見る阿呆な考えだけだ』
「でも、シズカの件は動いたでしょ?」
『あれは個人の問題で『神島』は関係ない。弁護士など面倒だからな。手っ取り早く脅してシズカから遠ざけただけだ』
「あら、そうなの?」
『ワシは自分を一度も特別な人間だと思った事はない。護るべきモノを護る為に使える手段を選んでいるだけだ』
彼の護るモノ。それはどれ程の範囲なのか。ミコトは興味本位で聞いてみる。
「護るモノって?」
『家族だボケ』
と、通話は切れた。
「兄さんも、とんだ孫馬鹿ね」
ツー、ツー、ツー、と鳴る音にミコトは、やれやれと微笑みながらそう言った。