第475話 無作法と言うもの
文字数 2,076文字
時に事故(リンカ)。時に相手の意思(ショウコさん)。押し付けられる事もあったなぁ(ダイヤとショウコさん)。
けど、どれも言うなればオレの意思とは関係ないタッチなのである。
ん? 死ねよって? まぁ、冷静に考えてくれよ紳士の諸君。そこまでされてオレはDを捨てれて無いんだぜ?
いいかい? 女性の胸を触ると言う行為の結末は二択しかないんだ。
ブタ箱か、そのまま人生をゴールインするか。
あれあれ? オレはそのどちらにもなっていないなぁ? これはおかしな事態ですよ?
リンカのケースは……まぁ、オレに好意があったからと言う事で許してくれたのだろう。過去からの信頼を積み重ねた事によるギリギリ許されるラインだ。
ダイヤのケースは……ありゃ、家族に対するスキンシップの延長だ。その辺りを勘違いして、あんな事になってしまった。事故だよ、事ー故。
ショウコさんのケースは……彼女にその手の知識が欠けていた事もあって仕方ないと言える。今後は起こらない事なのだ。許せ。
それでは、アヤさんの場合は?
状況の意図を読め! オレに残された僅かな理性を総動員し、この場で最適となる解答を導き出すのだ!
……結構、着物越しでも掴めるモンだなぁ……やっべ……柔らかい……
「ケンゴ様……先ほどは私の醜態故に……機会を損なってしまいました。ですので……今度はケンゴ様の望むままにお願いしたします」
互いの身体を毛布で包むアヤさんから上目遣いでそう言われる。
火照る顔。それはこれから起こるとされる夜の営みを想定しての熱なのだと、至近距離でも感じられる。
なんと言うか……そう言う雰囲気になると、マジでフェロモンみたいなモノが出るんだな。普通にヤベーですよ!
それでもオレは、すぅ……と意識を心に向け、今現在切れる手札を確認する。
『ヤル』『キス』『抱きしめる』『寝る』
オレの手札、雑魚過ぎんだろ……とりあえず、心音を聞くと言う名目で続けているパイタッチは外そう。
ん? あ、あれ?
「……んっ……ケンゴ様……」
やべぇ……手が離れないどころか、モミモミし出しやがりましたよ。あれれ? この感触は……下着を着けてないのかな?
いや……今はそんな事を考えてる場合じゃねぇ!! 完全に脳のコントロールを外れた行動を身体が取り始めているのだ!!
あ、やばいぞ、コレ。今までの経験上、理性が消し飛ぶ果ては強制シャットダウンだった。
しかし、今回は完全に意識と身体が分離して一人歩きを始めてやがる!? 勝手にオートAI積んでんじゃねぇ! オレの身体ぁ!!
「アヤさん……嫌なら――」
「……全て……受け入れます」
その言葉にオレの身体はアヤさんを敷いた段ボールの上に優しく押し倒す。
おい! 止めろ! 身体よ、オレの言うことを聞け! 聞かんかぁ!
乱れる髪。はだける和服。やっぱりノーブラだったよ! アヤさんは本気の時に下着は着けないって言ってたモンなぁ……多分下も履いてない。
「来て……ください……」
抱っこして、と言いたげに両手を差し出すアヤさん。それはエロとキュートが極限まで引き上がった仕草。
そんな様を見せつけられて、
アヤさんが拒絶の意識を少しでも出してくれれば、オレの身体にも活を入れる事が出来る。けど……受け入れちゃってくれてるから、隙がねぇ……駄目だ……脳と身体が
ここは密室。外からのトラブルも期待出来ない。オレのオレも、フル稼動。
完全に詰んだ!
この何でも受け入れてくれるアヤさんに男が考えてうる全ての欲望を吐き出すまで、3、2、1――
「――――? ~~~!!!?」
その時、アヤさんは跳ねるようにオレに抱きついて来た。
それは夜のニャンニャンの類いの所作ではなく、ガチに何かに怯えての行動である。
その勢いたるや。覆い被さるオレを逆に押し倒す勢いだ。
「あ、アヤさん? どうし――」
「ち、近く! 近くに! アレが居ました!」
オレはアヤさんが眼を背けつつも的確に指を指すソレを見る。
黒光りに不自然なダッシュを行う、地球上で最も早く進化を終えた昆虫、その名も――
「ゴキブ――」
「その名前を……言わないでください」
ぱしっ、とオレの口に手を当てるアヤさんは本気の本気でソレを認識したく無い様だ。余裕無く、キッと睨んでくる。可愛い。
しかし無慈悲にもGは、カササッ! とオレ達に近づいてくる。
「~~~ひっ!! に、逃げて! 逃げてください!」
悲鳴を上げないあたり流石だ。
本当に心が強い子だよ。しかし、オレに抱きついたまま、じたばたしてる所を見るに、腰は抜けてるみたいだ。
なにこの可愛い生物。ずっと見てたい。
「ケ、ケンゴ様! 微笑ましく笑っている場合ではありません! お願いです! 早く……早く離れて! アレから離れて!」
オレも身体のコントロールは取り戻せたし、アヤさんも、ひぃぃ~ん、と涙眼になってきたので人類の大先輩にはお帰り願う事にした。