第275話 アダムが楽園を追放された理由
文字数 2,713文字
「――」
近づく彼女から距離を取るように後ろに下がり、追い詰められたので今度は下に座るように距離を取る。
しかし、当然ながらすぐに間は無くなった。
「何故逃げる?」
ショウコさんはオレを上から見下ろす様に、身体で光を遮る様に告げる。豊満な胸が薄い寝間着越しに注目的に映った。
「逃げてる……のかなぁ?」
「ああ。逃げてるぞ」
隅に追い詰められたと言う事もあるだろう。上からと下から向ける互いの視線はまるで繋がった様に逸らす事は出来なかった。
「今は――」
ショウコさんの瞳が近づいてくる。そして、
「二人きりだ」
身体を預ける様に近づいた彼女はオレにキスをしていた。
「――――」
……何故?
オレの頭の中では、その考えしか浮かばなかった。
何で……こんな事になった? 何で彼女はオレにキスをする? きっと……彼女の内心は相当な覚悟があったハズだ。それを……オレは……オレの心は――
“お前は元々ぶっ壊れてんだ”
まるで停止したかの様に何も感じない……
「…………」
オレは咄嗟に密着するショウコさんの肩に手を置いて、剥がす様に遠ざけた。
唇が触れ合うキスは一秒もなかっただろう。
何かの間違いかとも思ったが、伸びきった手に伝わる彼女の体温が、それは違うと感じさせる。
「……」
彼女と眼が合わせられない。
オレは顔を下に向けながら、どうしようかなぁ……と次の言葉を考える。
「ケンゴさん」
「はい……」
オレは顔を下に向けながら返事をする。
「私は何か間違えただろうか?」
まるで変わらない淡々とした彼女の口調に違和感を感じた。
「男女の関係はキスをする事で、“責任”と言うモノが発生し、深まると聞いていたのだが」
「……」
オレはそっと顔をあげると、きょとんと、こちらを見る彼女が眼に映る。
キスをしたと言うのに、それ相当の羞恥心のような反応が何も感じられない。酔いも覚めている様に見えるし、完全に
「君の様子を見るに失敗したようだな」
「……どこから聞いたの? その話」
「夜のドラマでやっていたぞ」
わー。これは……あれだ。彼女の行動に性的な意味は多分ない。
積極性があるにしては何か行動がおかしいと思ったのだが……確信を得るために聞いてみるとしよう。
「ショウコさん。この後は……何をしようとしてる?」
「そうだな。キスは失敗みたいだから、次は胸でも使おうかと思う」
そう言いつつ、寝間着のボタンを外しにかかったので、オレはその手を掴んで止める。
「何故止める?」
「脱がないで。いい? 脱がなくていいからね」
離すよ? と言って手を離すとボタンの手が止まった。少しさらけた谷間が性欲を誘う。
ノーブラかぁ。これはやべぇな……
「……失念していた。君は胸が苦手か。大きいと不便なことばかりだな」
「! いや! そんなことは無いよ! 胸――は……好き……はい」
ショウコさんが少しがっかりした様子だったので、そんな事は無いと慌てて否定するものの、勝手に墓穴を掘った気がする。
「じゃあ、触る?」
自身の胸を持ち上げ、首をかしげつつの、触る? はとんでもない破壊力があった。
オレの理性ゲージは賢者モードによって強固な耐性プロテクトがあるにも関わらず一部が消し飛んだ。
彼女に襲いかかるまでの残り理性80%――
「う……うぐぐ」
これは……なんだ……? チャンス……なのかぁ? 目の前にある禁断の果実。この誘惑に耐えてこそ、人は神の国に居られたのだろう。
アダムが楽園を追放された理由がわかっちまったぜ……
「ふむ」
すると、ショウコさんはオレの手を取ると、おもむろに自身の胸を掴ませた。
「好きなのに何故我慢する? 理解が出来ないぞ?」
理解が、出来ないのは、ショウコさんです。
オレは途切れ途切れに言葉が脳内で飛び回って、口からは発射されなかった。
そして、人には触覚と言う五感があり、手に触れた物をおもむろに確かめる生物なのだ。
ふわふわだぁ。マシュマロみたーい。リンカの時は咄嗟に手を引いたから揉むまでに至らなかった。服の上からこれってヤバくなーい? ヤバーいよ、ゲージが……
バリンッと理性ゲージ残り70%になる。
「んっ……」
「!」
思わず遠慮を捨てて揉んでいたが、ショウコさんの短い声に思わず手を離す。
底なし沼のようにハマる所だった。おっぱいとは何て恐ろしいんだ……手を離した後も環境ダメージの様に理性ゲージを削りやがる。
理性ゲージ残り60%。賢者プロテクトがあるとは言え、結構もっていかれたな……
「すまない。少し知らない感覚に驚いてな」
「……ショウコさんってキスした事はある?」
「あるぞ」
良かった。色々と経験済みかぁ。
「今、君とやったな」
今のファーストかぁ……
「…………こうやって胸を触らせた事は?」
「今回が初めてだ。さっきも言っただろう? 私は処女だぞ?」
自慢げに胸の下で腕を組むショウコさん。この人、自分の行動の意味を理解しているのかなぁ。
「ふむ。キスは済んで胸も触ったな」
「……」
「次はセッ――」
「ショウコさん」
オレは少し義務的な彼女に告げる。
「別にそこまで身体を張らなくでも、この件を途中で投げ出したりしないよ?」
オレは本心からそう言う。
彼女の男に対する行動の危険性は追々説明するとして、今はオレが中途半端な事はしないと知って貰う事にした。
「だが、タダほど信用に置けないモノは無いと言うぞ?」
「じゃあ……さっきのキスとタッチで手を打つよ」
ショウコさんの土俵に踏み込む。そうすれば、少しはズレた会話が成立するハズだ。
「私としては先程の二つにそんなに価値があるとは思えないのだが」
「いや……ショウコさんが思ってる以上に価値があるからね……」
「ふむ……」
と、考えるショウコさん。数秒ほど頭の中で成立して、考えをまめた様子でオレを見る。
「君が良いならそう言うことにしよう」
ふぃー。これにて戦闘終了。解散解散。みんなお疲れぃ。理性ゲージも半分以上は残ってるなぁ。最後の最後でどっと疲れたが、その分安眠できるぞ。
「じゃあ、オレはもう寝るね」
「ああ。私も寝るとしよう」
今日で何とかショウコさんとの距離感は掴めた気がする。
オレは思った以上に疲れていたのか、すぐに意識は夢の中へ――
「……んぁ?」
オレは思った以上に心地よい感覚に逆に目を覚ました。
なんだか、全体的に暖かい。程よい温度に程よく柔らかい何かを抱きしめて――
「すぅ……すぅ……」
「……」
ショウコさんを抱き枕にするように共に眠っていた。
理性ゲージ残り30%(賢者プロテクト停止中)。