第283話 ハロウィンズ
文字数 3,624文字
内装はまだまだ綺麗で、築10年は経っていないだろう。
「この家って、君たちの家?」
「ここは職場、だ!」
「くふふ。我々が寝泊まりするのは別です」
「ここに住んでおるのはわしだけじゃ!」
保護者はドコなんだろうなぁ。しかし、サマーちゃんは顔立ちは日本人だが、髪の色やオッドアイは明らかに西洋の血が入っている。
一番奥の部屋をサマーちゃんが開けると、パチッと電気を着けた。
カーテンどころか、雨戸も閉めたその部屋は至る所にコードが伸びている。二部屋を使った広さではあるものの、五台あるPCと、その配線とモニターのせいで狭く感じた。
空気悪そう……あ、空気清浄機ある。ダイソンの結構良いヤツ
「ここはやはり落ち着くのぅ」
一番モニターの多い隅のPCの席にサマーちゃんは座って回転椅子の上で胡座をかいた。傍らには初期登場時に装備していたジャック・オー・ランタンの被り物と、ゴキジェットバズーカが置いてある。
その隣の席にレツが座り、近くの席の椅子をテツがオレの分も引っ張って来てくれた。
「さて。 まずは自己紹介からじゃな!」
くるっと椅子に座ったサマーちゃんの言葉にテツとレツが喋り出す。
「小生は
意外と本名は普通だな。テツよ。
「くふふ。拙者は
レツは本名、無茶苦茶カッコいいじゃねーか! 偽名じゃねぇのか?
「そして、わし! サマー・ラインホルトがここのリーダーじゃ! 外では“ナツ”と呼べい!」
そんでもって腕を組んで偉そうなサマーちゃんがリーダーね。これって大丈夫なのかなぁ。姫プでもされてない?
「くふふ。ミツとカツはマザーの所へ出張なのが悔やまれますねぇ」
まだ居んのかよ。
それにしても、経歴が明らかに穏やかじゃないが幼女と、それを囲むオッサン二人かぁ。世間体的にどうなのよ、コレ。
「オレは鳳健吾です。テツから話を聞いてると思うけど……」
「知っておる! 初代を装備して城之内と殺り合うとは! 初代には防弾防刃加工がされておらんのに、良く死ななかったな!」
やべぇ。あの時の一撃、マジで致命傷だったんか。
「初代はこの商店街のシンボルにして守護者! 持ち出すなど本来は言語道断であるが……伝説に違わぬ大立ち回りは、褪せていたユニコ君に息を吹き返す所業じゃったぞ!」
褒めてくれてるのか。オレとしては顔バレしないように必死なだけだったんだけど。
「それでこっちから質問をいい?」
オレはとにかく、ここの情報が欲しい。
『ハロウィンズ』。現状を知った赤羽さんが、頼れ、と言った彼らにショウコさんを奪還する力はあるのだろうか。
「『ハロウィンズ』ってなに?」
オレの質問にサマーちゃんが、VRゴーグルをぽいっと投げてくる。
「着けろ」
「え?」
「手間を省くため、だ!」
「くふふ。驚きますよ」
横二人はさっさとVRゴーグルを着けていた。サマーちゃんも、すちゃっと装着。オレも少し戸惑ったが装着した。
「うぉ!?」
ゴーグルをつけると、そこは世紀末。
荒れた大地とヒャッハーと走り回るモヒカンバイクがブロローとしていた。
「そう驚くでない! ただのVRじゃ!」
サマーちゃんが原付に乗って、ぶろろー、キッ! とやってくる。見た目が現実世界と全く変わってないので世界観をモロにぶち壊していた。ヘルメット被ってるの偉い。
「くふふ。これは、ナツが自ら組み上げたワールドプログラム」
と、横からケン○ロウのような服装でマッチョなレツが現れる。
「世界広しと言え、ど! これ程のプログラムを個人で組めるの、は! ナツ以外はいな、い!」
テツはサウ○ーが乗ってたあの訳わかんねぇデカイ車に乗ってやってきた。こっちもマッチョで顔だけテツ。
お前らは楽しんでんなぁ。
「そして、フェニックスよ!」
「あ、オレの名前。それなんだ」
「貴様のアバターは無い! 故に代用じゃ!」
と、サマーちゃんはポン、と隣に鏡を出してオレの姿を見せてくれた。そこにはサ○ザーのパレードで火炎放射器を持っていた、モヒカングラサンが写っていた。あの、汚物は消毒だー! って人。
「この火炎放射器使えるの?」
「使えるぞ」
カチッ。ゴォォォォー。なんかすげ。火力やば。じゃ! なくて!
「いや! こんなのはどうでも良いんだ。質問! オレの質問の答え!」
「わしら『ハロウィンズ』とは、言うなればハッカー集団じゃ!」
薄々感じていたが……世紀末と全く関係ないな。
すると、今度は世紀末の世界が切り替わり、足元に平面にした世界地図が現れる。
「『ハロウィンズ』は諜報部門と実働部門に分かれておる!」
「くふふ。実働部門はどれもが実力者揃いにして、現役の特殊部隊所属から伝説級まで様々」
「その者の中で、も! 『エージェントカラーズ』と呼ばれる者たち、は! マザーの次に発言力を持、つ!」
「統括する“マザー”を筆頭に世界各地で活動するわしらを電脳世界で捉える事は不可能じゃ!」
バァン! と言うジョジョみたいに文字が背景に浮かぶ。自由自在なのはちょっと楽しそう。
何となく想定していた通りの者達だった。オレは火炎放射器を担いで質問を続ける。
「例えば、どんな事が出来るんだ?」
「貴様の口座に1億振り込んだり出来るぞ」
「うぉ!? マジ!?」
「カルト教団『ブラッドボーン』の資金洗浄の金じゃがな! 捕まっても良いならやってやるぞい?」
サマーちゃんは笑いながら、原付をブォン! ブォン! と吹かす。
「くふふ。過剰な事はマザーに控える用に言われていますからねぇ」
「まぁ、今やっとるのは匿名でロ○アのプーの居所をウ○ライナにリークするくらいじゃな。さっさと戦争を終わらせんと、株価と物価がアホな事になるでのぅ」
「転売業者も成敗、だ!」
「一斉検挙は今年一番スッとしたわい!」
「くふふ。今年のハロウィンのハッピーメールはホワイト○ウスとイギ○ス王室だけでよろしいので?」
「CIAにも送る予定じゃ!」
「あの! あのー!」
オレはどんどん流されそうだったので、ここいらで話を戻す。
「君たちがデジタルワールドに強いのはわかった。そこで捜して欲しい人が居るんだけど」
赤羽さんが頼れと言ったのは、彼らが人捜しにはうってつけだったからだろう。
非合法にがっつりダイブしてる面子だが、迅速にショウコさんを見つけるにはこれ以上の適任はいない。
「名前は?」
「流れる雲に“流雲”で日が二つ重なってる昌と子供の子で“昌子”」
「2秒待て」
早すぎてコワッ。
2秒後。VR世界にショウコさんの情報が空に浮かぶ。例の動画もマーベル映画が始まる時みたいなダイジェストで現れた。
「おお。中々のB、だ!」
「くふふ。中韓で活躍する“流雲家”の宗家ですねぇ」
「おっぱいデケー。しかし、厄祓いとは。この世には神も悪魔もおらんと言うのに物好きじゃのぅ」
ショウコさんの情報はネット上でもそこまで多くはないらしい。視界に収まる範囲だ。
「モデルもやっておるか。最近はストーカーに追われてたようじゃな」
サマーちゃんは、最近のショウコさんのスマホのやりとりも表示する。少しでも情報が欲しいのでプライバシーについては目を瞑る事にしよう。
「ショウコのキーワードで検索を拾ったが、これも関係あるかのぅ?」
ポン、と陸君と名倉課長のショートメールが表示された。
「……どういう事だ!」
そのやりとりに、オレは思わず叫ぶ。
陸君から、ショウコさんが拐われたと知りながら名倉課長は動く様子がない。それどころか、傍観を決め込む様子だ。
「知り合いの会話かのぅ?」
「……ああ。父親と会社の先輩だ」
何でだ? 名倉課長が現状を強く訴えれば警察は動いてくれるかもしれないのに。
「フェニックスよ。考えるのは構わんが、人を捜しているのなら一秒も惜しいのではないか?」
「あ、ああ」
名倉課長の動きは今は置いておく。オレは更なるキーワードをサマーちゃんに伝えた。
「
それはショウコさんが話してくれた過去に誘拐した犯人の名前である。きっと関係があるハズ。
「きっと、そいつなら今回の件に何か絡んで――」
すると、サマーちゃんとテツとレツは驚いた様子で聞き返してくる。
「女郎花教理……いま、そう言ったか?」
「え? あ、ああ……」
「ふくく。これは……少々大きな案件になりそうですねぇ」
「何ということ、だ! まさか、それ程の事態だと、は!」
サマーちゃんは原付を降りると、いつの間にか後ろに現れていた椅子に座る。
「なるほど……エージェントカラーズが、わしらを頼れと言った理由ではあるのぅ」
上空からショウコさんの情報が消えると今度は女郎花教理の情報が広がった。
それは、ショウコさんとは比べ物にならない程に膨大な量。視界に収まりきらず、空を埋め尽くす。
「女郎花教理は平たく言えば史上に残る“英雄”じゃ」