第75話 女子トークだよん
文字数 2,277文字
リンカは集合場所をステージ会場と言われていたが、佐々木の一件から近づきたくなかった。
LINEでケンゴには連絡を入れたが、既読はつかず連絡を待つか、せめて近くまで行くか悩む。
「お、そこにいるのは鮫島か?」
「箕輪先生?」
知った声に視線を向けると意外や意外。クラス担任の
「こんばんは」
「こんばんは。夏を満喫してるねぇ」
「先生もお祭りに?」
中央公園はいろんな所からアクセス出来る事もあり、知り合いと出会う可能性は十分にあった。
「宿題を諦めてる奴らを見つけてケツを叩くためだ。鮫島は心配無さそうだな」
「一週間前に終わらせてあります」
「お前と谷高は本当に手間がかからんよ。皆、お前らみたいなら良いんだけどな……」
毎年、一人か二人はポカする生徒がいる。
「そんで、だいぶ洒落てるが誰かと一緒か?」
キョウコはリンカの浴衣姿を見てツレが居るのかと辺りを見回す。
「はい」
「谷高か?」
「いえ、知り合いの人です」
「成人?」
「そうですけど」
「未成年がこんな時間に一人でうろつくのは正直見過ごせないが、同伴者が成人ならギリオーケーにしよう」
キョウコは、あまり堅苦しくない先生としてクラスでも親しみがある。皆の姉の様な存在だ。
「今はツレと待ち合わせか?」
「はい。けど……ちょっと問題が」
「オッケー話してみなさい」
リンカは、先生と一緒なら問題は無いかな、と信頼できる大人と共に会場に行くことにした。
「会場で待ち合わせなんですけど、一人じゃ行きづらくて……」
「なんだそんなことか。先生が一緒に行こうか?」
「よろしくお願いします」
ドンッと木が揺れる程の正拳突き。
カッと首を刈る手刀。
鍛練された四肢を武器とするベ○ダー(佐藤)とト○ーパー(田中)の猛攻は生半可ではない。
「お前ら……本気かよ!」
「神は言っている……ここで死ぬ
「人殺しは遊びじゃねぇんだよ!」
ガチで喉とか
「――っ!」
決めに行った所に膝を立ててやがった。危うく顔面が潰れる所を転がってかわす。
「ちっ!」
「おら!」
追撃のト○ーパー(田中)のサッカーボールキック――を抱え込む様に掴んで、流れる様に軸足に手を伸ばす。
と、しようとした所でベ○ダー(佐藤)の踏みつけが見えたので手を離し更に横へ転がる。
「ふざけんなよ、お前ら。強すぎだろうが!」
謎に噛み合う連携。一対二では部が悪すぎる。
「姉さんの地獄のシゴキに耐えた結果だ」
「アレを越える地獄は……そうそう無いぜ!」
姉さん……何者だ? とにかく、ここは一旦逃げるのが吉だが……奴らお面+暗がりにも関わらず、的確にこっちを捉えやがる。
「安心しろ鳳。お前はよくやったよ。俺らの心の平穏の糧になるんだからな!」
アホほど無意味な死じゃねぇか! しかし、奴らに隙が無い。視界から消えようにも立ち回りも獲物を追い込む猟師のソレだ。
「――ん? おい、君たち何をしてる!」
すると、祭りを警邏している組合の人がオレ達を見つけた。オレに向いている二人の意識が一瞬外れる。
「あ!」
「鳳!」
その隙をついてオレは茂みへ逃走。あばよ。
「おい、お面をつけてこんな所で何をしてるんだ!」
「あ、いや……これは――」
ジェ○イに連行されてろ。オレは死地から脱すると人混みへと逃げ込んだ。
「……」
「いた?」
「いえ」
あたしと箕輪先生は一層、人の多くなるステージ会場に足を運んでいた。中まで入って一緒に彼の姿を捜すがまだ来ていない様子。
「人が多くなって来てるな。何かあるのか?」
道中で『魔法少女リリン』のお面を買った先生にあたしは、多分これです、と会場の催しプログラムを広げて佐々木効果である事を教えてあげた。
「こんな所に大物が来たもんだな」
「やっぱり、凄い人なんですか?」
「鮫島はもっとニュースと世間を見なさい」
普段から時事は把握しておきなさい、と先生に指摘される。
「今、凄い話題の人だよ。ほら映画の『ワールドアドベンチャー』は知ってる? それで主役やってた俳優さん」
それは興行収入もトップ入りする程に有名な映画である。そのスクリーンの主役を張ってた人とは……確かに映画館のポスターとかであの顔は見た気がする。
「それよりも待ち合わせの人ってなに? 鮫島の彼氏?」
「……知り合いの人です」
「ほほう」
あたしの口調から何かを察した様に、キラッと顎に手を当てて納得する先生。
「学生同士だとブレーキが外れる事が多いが、相手が成人なら先生応援するよ」
「……なんの話ですか?」
「女子トークだよん。まぁ、何かあったら遠慮なく先生に相談しなさい。うちの旦那は弁護士だからね」
「わかりました」
『箕輪』と『弁護士』言うキーワードが当てはまる人はそうそう居ないので、多分あの人だろう。
すると、スマホが揺れたのを感じ取り出した。LINEメッセージが更新されている。
今どこ? と彼から。あたしは、会場、と返す。
「あっちゃー……」
すると先生も自分のスマホを見ていた。何か気まずそうにしている。
「悪い鮫島。ちょっと先生、電話してくる。すぐ戻るから」
「はい」
と、先生はスマホを耳に当てながら少し静かな場所へ移動して行った。
「……」
あたしは出来るだけ場から離れず、イベント待機している人達の中に紛れて座る。すると、途端にステージのライトが光った。
『皆さん、お待たせしました!』
少し早めにイベントが始まった。