第215話 JK連れて来やがって、コノヤロウ!

文字数 2,763文字

 あたしは夕食時と言うモノは、お母さんと時に彼の料理を一つの丸机に用意して、テレビや何気ない談話をしながら過ごす事が日常だった。
 故に……目の前の光景は少しだけ馴染みが無いモノだった。

 長いテーブルに大勢が座り、食事を囲む。壁や隔てもないのに、各所では近くの人達と食事が始まるまで談話を始めている。
 まるで朝のホームルームが始まる教室の様な賑やかさ。
 遠足なんかで約束してたグループで集まって弁当は食べたりしたことはあったが、それが社会人の規模になると……こうなるとは!

「どうしたの? リンカちゃん?」

 甘奈さんに勧められる席に座り、場の雰囲気にぼーっと酔っていると横に座る泉さんが話しかけてくれた。

「なんか……少し雰囲気が凄くて」
「雰囲気? あ、そっか。高校生はまだ馴染みが無いもんね。普段はセナさんと二人?」

 泉さんはあたしの食卓事情を察してくれた。

「こんな大きなテーブルで、しかも食事の用意をしなくても出てくるのに違和感が……」
「夕食はリンカちゃんが用意してるんだっけ」
「ほう! 鮫島家の食事は君が?」

 と、正面に座る社長さんが意気揚々と聞いてくる。『滝沢カントリー』では同じグループで回ったけど、あまり話す機会はなかった。
 社長さんからは威圧感はあまり感じず、声には思わず耳を傾けそうになるオーラを身に宿していた。

「そうです。母が忙しいものですから」
「若いのに立派だね! 今は世の中が便利になり、大人でさえ自らで料理には手を出さない。そんな中、君のような子が居るとまだまだ若い世代には希望に溢れていると思えるよ!」
「は、はい……」
「社長。リンカさん困ってますよ」

 社長さんの隣に座る姫野さんが言う。
 ちなみにあたしと社長さんは席の一番前なので、話せるのは片側の人だけだ。

「若い内は何事も経験だよ! とは言え、全てをこちらに合わせる必要はない! 鮫島君も、言いたいことが言えずに苦悩する事もあるかもしれないが、この旅行で少しでも胸の内をさらけ出せる友を増やして行って欲しい」

 社長さんのオーラが、生徒に気を遣う先生の様な雰囲気に変わった。
 聞き入る様な口調から親しみ易さへ。
 いつもさりげなく気を遣う彼の雰囲気を社長さんから感じとり、思わず笑みが浮かんだ。

「はい。ありがとうございます」
「良い笑顔だ。それを守り通すよ! この旅行でね!」
「凄い垂らし発言ですねー」
「これがノータイムで出てくるんだよなー」

 姫野さんと泉さんが呆れる横で、ふっはっは! と社長さんは腕を組んで笑っていた。

「でも昔、鳳と一緒にBBQに来たじゃない? 覚えてる?」

 と、泉さんは過去に彼が初めて会社の行事にあたしを連れて行った時の事を口にする。

「えっと……正直な所、あまり小さ過ぎて覚えて無いんです。多分、見えるモノ全部が未知に見えてて……」

 薄らとモヤのかかるような記憶しか残っていない。シオリさんの事も認識して居なかった程に終始彼にべったりだった――

“最初はここに座ってね”

 カンナさんのそんな声に、視線の端に彼の姿が映り、ふとそちらへ眼を向ける。
 すると、彼とも目が合う。宇宙と最初の出会いから、今までの事が走馬灯に様に流れ、

「~~~~」

 先程の露天風呂の事が最新のモノとして脳内に表示されて、思わず眼を反らした。
 どんな顔をすれば解らない。他の人に相談も出来ない分、今はどうしようもなかった。

「失礼します」
「よし、来たね。加賀君。ここはラッキーな席だよー」
「テンション高いっすね。姫さん」

 そう言って、彼の同期である加賀さんが姫野さんの隣に座る。

「全員、揃ったようだね!」

 加賀さんと彼の着席を見て社長さんが立ち上がった。





「いやはや。何とも一日目から飽きる事の無い行事の連続。神旅行だね!」
「内、半分は止む終えないトラブルですけど……」

 食事が始まり、乾杯は各々の席で行われていた。オレは周囲の席では末席であるので、鍋の管理とよそう係を引き受ける。

「悪いね、鳳。後でアタシが代わるからさ」
「気にしなくて良いですよ」

 カズ先輩が気を使ってくれる。しかし、オレとしてはこう言う細々した地味な作業は好きなので進んで引き受けていただろう。

「国尾主任~飲みますかい~?」
「おや? すまないね! 箕輪弁護士!」

 大人の中に混じった中学生に見える樹さんへ、隣に座るビィラン顔の箕輪さんがビールを注ぐ。端から見れば結構ヤバい構図だ。

「ん? 不思議そうな眼をしているね、鳳君! 私のちんちくりんな身体がアルコールに対応しているのか気になるのかい? 言っておくが、私はアルコールの濾過装置だよ! いくら飲んでも酔わない体質なのサ! これら国尾家の遺伝の様なモノでね! 肝臓の性能が人類の水準を大幅に上回っているらしい! その為、売却したときの相場は普段よりも割高でね! 金に困ったら売るよ! 私は!」

 一目見ただけで臓器売買の話まで膨らむとは思わなかった……。
 流石は国尾さんの姉君。思考が世界と直結しておられる。

「箕輪君も、はい」
「あ、こりゃすみませんね~、轟の姉さん」

 轟先輩の晩酌に箕輪さんは申し訳なさそうにグラスを出す。

「大体、真ん中に飲む人が集まった感じですか?」
「うん。賑やかになると思ってね」

 カズ先輩は、アルコール度数が低めのウーロンハイをちびちび飲む。オレはよそった鍋料理を樹さん、轟先輩、カズ先輩の順に手渡した。

「美味しいね」
「外れ無しですね」
「実に美味だよ」

 満足な三人。オレもレモンハイを飲みながら鍋料理を堪能する。

「鳳。丁度良いから色々と話して貰おうか」
「何をです?」

 正面に座るカズ先輩が少し酔った口調でオレを見る。カズ先輩は結構な美人さんでもあり、怯まずに眼を合わせてくるので、少しドキっとしたのは内緒だ。

「鮫島の事だよ。身内なら誰でも良いとは言え、巨乳JK連れて来やがって、コノヤロウ!」

 持ち前の高い身長から、座ってても上から見下ろす事がカズ先輩には可能だ。
 ふぇ……結構威圧感あるよぉ……しかも、もう酔ってる……

「ふむ。それは私も気になってた所だよ! 何故、成人男性に女子高生との関わりがあるのかを! ここはエ○同人の世界では……ない!!」

 樹さんまでノッて来た。
 いや、オレも男なんでその辺りの知識はありますよ。この場では絶対に言いませんが。

「鳳君」

 轟先輩の声。攻め上がってくる戦乙女(バルキリー)の侵攻に対して女神の諌める声に期待する。

「私も聞いてて良い?」

 女神は戦乙女(バルキリー)勢力だった……

「……別につまらない話ですよ?」
「腹を割って話す場だし。気にするなよー」

 うぃ~、とオヤジみたいな様子でカズ先輩が促す。
 この席に座った故の宿命か……

 オレは事案にならない様に最新の注意を払いながら少し捏造も交えつつリンカとのなり染めを語った。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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