第110話 会社の血流

文字数 2,398文字

「で、ここが2課だ。基本的には営業で、説明会なんかもここの担当」

 本社二階フロアを丸々使用するのは営業による人員が多い2課である。とにかく人の出入りと電話対応によって常に誰かが声を出していた。

「皆サン、忙しソウデース」
「社内で一番動いてる課だからな。会社の血液みたいなモンだよ」

 オレはそっと課長席を見る。名倉課長は留守の様だ。あの人苦手なんだよなぁ。お、加賀は外回りか。

「ナンカ普通デース」
「……お前は何を期待してたんだ?」
「モット、バトルロワイヤルみたいナ、潰して潰し合いをシテルと思ったヨ」
「競争心を煽るやり方は業績は上がるが、組織の寿命と質を落とすらしいぞ」

 2課の詳しいシステムは知らないがノルマがあるわけではなく、競い合うと言うよりも協力し合っている。
 それを上手く制御しているのが、会社で一番のキレ者とされる名倉課長なのだ。

 すると、ダイヤの姿にちらほら気づいた2課の面々に注目を浴び始めたのでそろそろおいとましますか。

「次行く――」
「こんにちは、鳳君」

 そこへ名倉課長が廊下から姿を表した。手を後ろで組み、細目が印象的な長身の中年である。所用から丁度戻ってきた所みたいだ。

「お疲れ様です。名倉課長」

 オレは丁寧に一礼する。

「ふむ。社長のおっしゃられていた海外支部の方ですね? 今は社内をご案内中ですか?」
「はい」
「ダイヤ・フォスター、デース! ニックス、このジェントルマンは、ナニ者デース?」
「とりあえず、仁王立ちして腕は組むな」

 ボスだけど……ボスじゃねぇんだよ。

「おや、これは失礼。2課の課長、名倉と申します。こちらをどうぞ」

 そんなダイヤの様子に名倉課長は名刺を差し出すと彼女は自然と受け取った。名刺を受け取るのが当然のような雰囲気と流れを一瞬で作り出したのだ。

「鳳君。本来なら君が彼女を紹介するべきですよ」
「! すみません……」
「些細な礼節が信頼性につながります。気をつけるように」
「No! ニックスは悪くナイネ!」

 オレに護るように抱きつくダイヤ。胸が当たっているが、それどころではない。

「すみません、名倉課長。彼女はあまり日本の様式に馴れてなくて……」
「構いませんよ。国が違えば習慣や文化も違います。しかし、それをよく思わない者もいるかもしれません」

 そうならない様にするのが君の役目ですよ、と細目を僅かに開ける名倉課長から、言われずとも理解させられる。

「気を付けます……」
「結構」
「ニックス、Mr.ナクラはクラウザーと同じオフィサーデスカ?」

 クラウザーとは海外支部長の事である。ダイヤの直接的な上司に当たる人物。

「そうだよ。あまり失礼のないように――」
「鳳君。案内をするのは宜しいですが、貴方は本社の評判を担っていると言う事をお忘れなく」

 親しき中にも礼儀あり、と言いたげな眼。

「はい……」
「結構。Mr.ダイヤ、此度の滞在が有益なモノになるよう願っていますよ」

 そう言って名倉課長は、ニコっと笑うと2課のオフィスへ入って行った。

「イイ人デース」
「そうだな……」

 丁寧で、課内でも人気がある名倉課長。
 しかし、オレとしては腹の億まで見透かされてる様で話すのは若干苦手だった。きちんと克服しなければならない課題である。

「次は1課に行くぞ」
「ア、ニックス。一つクエスチョン、イイデス?」
「なんか気になる事でも?」
「フォーオフィスのヒトと会わないネ」

 基本的に、オレらの会社では所属している課と名前の書かれたカードを首から下げている。ダイヤの場合は名前だけの簡易な物だが。

「4課は……ちょっと特殊でな。追々説明するから、今は1課から」
「OKヨ」
「後、もう放してくれ」





 1課は三階にあり、資料倉庫と同じフロアにオフィスがある。
 オレは向かいながら、七海課長をあまり刺激しないように言及してから1課を覗く。

「来たか」
「来タヨ」
「おい。何でお前が答えた?」

 オレとダイヤの顔を見るなり、七海課長はデスクを立ち上がると歩いてきた。
 オフィス内では集中して作業をしている者が多々いるので、騒がしいダイヤの性格を考慮しての動きだ。

「七海課長。こちら――」

 ピシッ、と七海課長は手の平を向けて言葉を止めると、ピッも資料倉庫に親指を向け、来い、と首を動かす。

「ニックス。何のジェスチャーデス?」
「……」

 鬼灯先輩の事は耳に入ってるだろう。3課から帰還したであろう泉もこっちを見てたし。1課の他の面子のハラハラした視線も頂いた。どうなるのか全く予想がつかねえ!

「とにかくいう通りするぞ」
「OK」

 嘘か真か。七海課長は素手でコンクリートを砕くと言う。嘘であって欲しいなぁ……

「コイツを見ろ」

 七海課長は資料倉庫の簡易テーブルに積まれた山のような資料に目線を向けた。

「コイツを全部片付けておいてくれ。わかんねぇのは杉田に聞け。おい! 杉田!」
「ウッス」

 横に広い体格の本日の倉庫番である杉田さんが、ぬっと姿を現す。

「あ、ども」
「ウッス、鳳。と、うおー、な巨乳美女」
「ドモ! ダイヤ・フォス――」
「お前は俺とこっちに来い」

 ダイヤとオレに別々の指示を出す七海課長。分断された! しかし、オレに七海課長に意見する度胸はない。

「大丈夫ヨ、ニックス。ノープロブレムネ」

 ダイヤは強い瞳でオレにそう言うと七海課長の後に続いた。あの女……キスでなんとかなると思ってやがるな。

「まぁ……七海課長なら大丈夫か」
「鳳、お前、今年の女運は絶頂だな。そろそろ下り始めるから気をつけろー」

 杉田さんは社内の至るところに隠しているお菓子――キットカットを一つオレにくれた。

「言うほど、渦の中心は穏やかじゃないですけどね……」

 女難による心労が絶えん。おみくじを引ていたら、間違いなくヤバい事が書かれていただろう。

「またエペやろうぜ。最近はガスにハマっててよ」
「あ、いいっすね」

 ちなみに杉田さんはオレのゲーム友達である。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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