第316話 仕事サボってデートかい!

文字数 2,427文字

『女郎花教理。あの男が17年前にお前を拐った犯人だったと?』
「そうだ。……今まで黙っていてごめんなさい」

 ショウコは名倉へ連絡をしていた。
 自分のせいで父は狙われた。その事をきちんと説明しなければならない。

『怒ってはいないよ。お前は優しいからね。きっと、何か理由があったのだろう?』
「……助けて貰ったんだ。一度だけ」
『そうか。しかし、そうだとしても相手は少々やり過ぎだね』
「私もその件に関しては擁護する気はない。父上の思う通りに対応してくれて構わない。私も出来る限り指示に従う」
『襲撃者の外国人は専門家に任せているよ。私としては示談で済ませても良いが、お前に二度と手出しをしないように確約を取らせるつもりだ』
「その件は……多分もう大丈夫だ」

 ケンゴから最後に女郎花の様子が変わったとショウコは聞いている。

『ショウコ。不確かな事を鵜呑みにしてはいけないよ。お前の今後がかかっているからね。襲撃者は黙秘を貫いているが、女郎花教理にはきちんと目の前に出てきてもらう』
「難しいと思うけどな」
『お父さんが嘘を言った事はあるかい?』

 その言葉にショウコは思わず笑った。

「多分、ない」

 その返答に電話越しの名倉も微笑んでいる様子を感じ取れる。

「父上、一つ教えてくれ」
『なんだい?』
「私が拐われた時、他に任せたそうだが……仕事はそんなに忙しかったのか?」
『そんな事はないよ』
「じゃあ……」
『彼は信用できるからね』

 名倉の言う彼とは、ケンゴの事だった。

『お前は一人で戦うだろうと思っていた。きっと止めても無駄だっただろう。だから、彼に任せた』

 最初に彼に引き合わせて貰う事を父に相談した時から、私の彼に対する気持ちを、私よりも理解していたのかもしれない。

「……父上には叶わないよ」
『いずれ越えなさい』

 簡単では無さそうだ。

『舞子も実家の方との関係を修復できたそうだ』
「そうなの?」
『ああ。だから、あちらに帰っても問題は無いだろう。どうするね?』
「私はまだ日本にいるよ」

 ショウコはフルアーマーユニコ君を感心しながら見ているケンゴを見る。

『そうか。なら後で母さんにも連絡して声を聞かせてあげなさい』
「わかった」

 父との通話を切ると母へ連絡した。





 オレとショウコさんは『ハロウィンズ』と別れ、電車にて帰宅。
 濃い半日だった……。時刻は昼を少し過ぎたあたりで、電車内には取引先へ向かうサラリーマンの姿が多々見える。

「苦労をかけた」
「気にしなくていいよ。オレが勝手にやった事だからさ」

 しかし、冷静に考えるととんでもない事をしたよなぁ。
 相手は戦争を終わらせて国を立て直す程の偉人であり、こっちは蟻んこ同然の凡人。
 『ハロウィンズ』が協力してくれたとは言え……誰も死なず、無事に戻ってこれたのは本当に奇跡に近いだろう。
 アイア○マンスーツもどき着て、大立ち回りしたなど誰も信じてはくれないだろうが。

「ヨシ君が会社に報告してくれてるハズだから、今後の動きとかは追って連絡が――」

 と、オレはスマホを殺られた事を思い出した。
 そうだった! ブ○ック・ウィドウに壊されたままだった! うーむ。今日中に調達に行くべきか……

「どうかしたのか?」
「あ、いやね。スマホをあの女の人に壊されてね」
「それはいかんな。すぐに調達に行くべきだ」
「うーん。ショウコさんには一応、アパートに待機してて欲しいんだけどね」
「なぜだ?」

 オレはサマーちゃんと話した内容をショウコさんにも語る。
 ストーカーの犯人は女郎花教理の可能性が低い事と、何かしら仕掛けてくるかもしれないと言うこと。

「明日にはサマーちゃんが全部調べあげてくれるそうだがら、それでゲームセットだと思うよ。変に抵抗されてもヨシ君達が息の根を止めるだろうから」

 4課は法律界隈でも精鋭が揃っている。て言うか、真鍋課長と鷹さんとが居る時点で企業が持つにしては過剰戦力なんだよなぁ。
 荒事も得意な面子も控えてるし、男子特効を持つ、ほっほう! もいるし……

「だから、出来ればアパートに居てくれれば安心安全なんだけど」
「……そう言う事なら従おう」

 ショウコさんは相変わらず淡々と受け答えるが、今の少しシュンとしたのを感じた。

「なんか……ごめんね」
「いや……君には随分と迷惑をかけたからな。これ以上は私もわがままは控える」
「色々と用事が済んだらさ、夜までゲームでもしようよ。“厄祓い”の舞は凄く楽しみだったりするからさ」
「ふむ……だったら、君がスマートフォンを調達に行ってる間に少し慣らしておくか」

 そうこう話していると最寄りの駅に着いたので下車する。少し多い人波に任せて改札を抜けた。

「ん? 鳳じゃん」

 すると後ろから声をかけられた。





「カズ先輩?」
「よっす、よっす。奇遇だねー」

 他の老若男女の中でも一際飛び出した身長を持つポニテ美人のカズ先輩は手を上げながら近づいて来た。

「お疲れ様です」
「お疲れ。って、そっちは私服じゃんよ。なに? 今日は休み?」
「急な用事で休みにして貰いました。カズ先輩は取引ですか?」
「これから説明会。姫と加賀が資料忘れたってんで、持っていくとこ」

 重そうな紙袋を軽々と持ち上げて見せてくる。彼女は七海課長とタメを張るフィジカルを持つ人間なのだ。

「そんでそっちは課長の娘さん?」
「流雲昌子といいます」
「ども。アタシは茨木和奏(いばらぎわかな)。カズって呼んでちょ」

 カズ先輩はショウコさんと自己紹介を交わすとオレにスッと寄ってくる。

「……おいおい。おいおーい。仕事サボってデートかい!」
「い、色々ありまして……」

 バンバン、とオレの肩を叩くカズ先輩。痛てて……

「まぁ、深くは聞かないよ。アタシは仕事中だし、明日にでも聞かせてねー」

 バーイ、と手を上げてオレ達とは別の方角へ歩いて行った。
 そのカズ先輩を見送ったショウコさんは一言。

「彼女、相当にできるな」
「会社でも屈指のバーサーカーだよ……」

 国尾さんと同レベルで野放しが一番危険な人物かもしれない。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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