第302話 私の“光”をどこへ連れていく?

文字数 2,501文字

 その後はさほど障害なく、オレとショウコさんは倉庫まで戻ってきた。

「……彼女も倒したのか」
「油断してくれたおかげでね」

 オレはサマーちゃんに通信を入れる。ショウコさんは、縛り付けて気を失って倒れているブラッ○・ウィドウをつんつんしていた。

「サマーちゃん。倉庫まで戻って来たけど迎えは来てる?」
『今、ヨシに操船を任せておる。もうちと待て』

 変に動き回るよりも、少し物陰に隠れて待つ方がよさそうだ。タンカー船に侵入してから二十分弱。予定よりも早めに帰れそう。

「油断は禁物だな」

 仮面をずらして頭に乗っけたショウコさんは赤紐で簡単に髪を結ぶ。オレは『Mk-VI』を身を包んでいるので自分でやってもらった。

「うーん……」
「どうかしたのか?」
「いやね、順調に進んでる時ほど土壇場でヤバい事が起こるんだ」

 社会人としての“あるある”なんだよなぁ。ザワザワとした予感が背中を撫でる感じ。
 今回も予定通りに行ってるのは時間だけ。ショウコさんを抱えた状態で同じ様に動けるかと言われれば難しい。

「ふむ。確かに驕りと言うモノは心に隙とミスを生む。気を引き締めよう」

 ショウコさんは胸を持ち上げる様に腕を組んで、ふんす、と仮面越しに息を吐く。
 彼女も色々な舞台で演舞をこなして来ただけあって、緊張感の抜ける瞬間は危険だと理解してくれている様だ。

『フェニックス、今クルーザーを寄せる。指定の場所へ行くのじゃ』
「オッケー」

 取り越し苦労だったか。今の通信を聞いていたショウコさんも頷いて共について来てくれる。
 ふいー、ラスボスとは会わなかったか。良き良き――

「この場に置いて、私が問う事は一つだけだ」

 その時、倉庫の入り口からコツ、と革靴が見え、そんな言葉と共にオレ達の進路を塞ぐように女郎花教理(おみなえきょうり)が現れた。

「私の“光”をどこへ連れていく?」





「フェニックス。今回の件、一つだけ助言が許されるのなら、女郎花教理とは絶対に戦うでないぞ」

 格納庫でユニコ君『Mk-VI』を装着していたオレは、サマーちゃんからそんな事を言われた。

「いや、滅茶苦茶凄いってのは解ったけど。流石に『Mk-VI』には勝てないっしょ」

 『Mk-VI』の説明を一通り受けたオレは、どんな奴でも余裕で蹴散らせると思っていた。

「そうではない。フェニックスよ。強い弱いの次元ではなく、女郎花教理自身が人類における最高峰の一つなのじゃ」
「天月よりも?」
「現時点ではな」

 マジですか。確かに過去のスポーツの経歴を見る限りは超人と言われても大袈裟ではないが、青年時代の記録だ。

「過去の話でしょ? 今はデスクワークと執務に追われてそれどころじゃ――」
「女郎花教理の運動能力は片時も衰えておらん上に更に極まっておる」

 サマーちゃんは真剣にそう言った。

「奴は身体能力においても今現在でさえ右に出る者は居らん。本人が王冠を欲さぬ故に注目されてはおらんがのぅ」
「……具体的には?」
「視力は20.0以上。500メートル圏内を不整地でも息切れ無しで全力疾走できる。持ち前の頭脳からあらゆる場面においての最適解を瞬時に導き、それを寸分違わず実行が可能じゃ」
「……」
「戦時中のラクシャス激戦区とされる中央街――通称、狙撃街(スナイパーストリート)を制圧しつつ一時間程度で横断すると言う化物じゃ。ヤツにとってすれば、1キロ圏内の狙撃は通常の撃ち合いと変わらん」
「……人間?」
「物質構成は人間(ヒューマン)じゃな。奴は自らで選定した側近者10人を同時に相手しても傷一つ負わずに素手で制圧できるじゃろう」
「……何そのチート。異世界から女神様にスキルでも貰って帰ってきたの?」
「知らん」

 へー、現実に居るんだー、そんな奴ー。何かの誇張だとも考えられるが、あらゆる情報を閲覧出来る『ハロウィズ』の調べだ。
 間違いは無いと見て良いだろう。

「……でも、やたら詳しいね」
「まぁ……わし個人にとっても無関係なヤツでは無いからのぅ」

 サマーちゃんは少し困った様に嘆息を吐く。意図は不明だが、多少は関係があるらしい。

「お主が行く所は、奴の懐じゃ。運良く出会わなくとも、船を降りて完全に離れるまで油断するでないぞ!」

 ダンジョンでランダムエンカウントの魔王みたいなモンか。しかし、実際に相対しないとヤバさは実感難い。
 まぁ、ジジィよりもヤバいヤツなんてこの世には存在しないっしょ。





「女郎花教理……」

 ショウコさんは少し同様していた。過去のトラウマの原因が目の前に居るのだ。
 やれやれ。いっちょやってやりますかね。
 オレが掌と拳を合わせて前に出ようとすると、

「道は二つだ」

 女郎花は人差し指と中指を立ててオレ達――ショウコさんに言う。

「この場に留まるか、それとも全てを失ってからここへ来るか」
「……」
「ユニユニコ。ユニニコーン。コココーン。(へいへい。ちょっと待てや。オレも居るぜ)」

 すると、女郎花はオレを指差す。

「彼女の言葉が聞こえぬ。黙っていろ」
「……コーン(……すみません)」

 確かに、ここはショウコさんにビシッと拒絶の意思を伝えて貰った方が良い。

「……」
「大丈夫。君は何も失わない」

 回答をためらう彼女の背中を押してあげた。

「私は帰る。二度と貴方とは会うつもりはない」
「汚れた世界へ帰ると言うのか?」
「私の生きる場所は貴方の側ではない」
「……絆か」

 女郎花の言葉にショウコさんは赤紐を護るように握る。

「帰る意味。君の選択はわかった。ならば私の選択を見せよう」

 と、女郎花はスマホを取り出す。オレは通話をするのであれば即座に仕掛けるつもりだったが、奴はボタンをいくつか操作するだけに留めた。

「君の帰る場所……その絆を消えても尚、ここ以外に居場所を見出せるかな?」





 黒船、名倉、轟の三人が昼食を取っている様子を付かず離れずの距離で見ている男がいた。
 すると、その男の携帯に連絡が入る。

“完遂せよ”

「……」

 男は立ち上がった。





 大きな民間ホールにて、演舞を行っている舞子に大勢の客が釘付けだった。
 そんな中、一人の人間だけは魅了とは別の視線を演目中の彼女に向けている。

“完遂せよ”

「了解」

 スマホのメッセージを確認し、懐にしまうと、変わりに銃を取り出した。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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