第343話 世界が滅んでもあり得ない
文字数 2,282文字
ショウコを拐った首謀者が居ることは少し考えれば解る事である。
ソイツがどれだけ彼女に執着していたか。そして、これだけの事を平然と犯したヤツがマトモであるハズは無いと言う事も――
「馬鹿がよ! 俺に敵うわけ無いだろうが!!」
確実にナイフは刺さった。ユウマは勝ち誇った様にケンゴにそう言っていると、その顔面に打ち下ろしの右ストレートがめり込む。
「がふぇぇ!?」
ナイフを手放す程の威力にユウマは床に叩きつけられ、嗚咽と共に這いつくばった。
「全く……危ねぇ事しやがって」
そう言いながらケンゴは落ちたナイフを拾い上げる。
「な……なっなっ! 何で生きてんだよぉ!」
深々とナイフで刺されたにも関わらず、平然とするケンゴにはユウマだけではなくショウコも困惑する。
「ナイフってのは簡単に調達出来るからな。こう言う時の備えってヤツは社会人としての嗜みだぜ? 覚えとけ」
ケンゴは屋敷へ来る前に赤羽から防刃ベストを受け取っていた。他のマッチョは着れないし茨木も、いらなーい、と言ったので自分だけが着ることにしたのである。
「ショウコさん。来るのが遅れて本当にごめんね」
ケンゴはスパイダーマスクを少し上げて顔を見せると安心させる。
そして、ショウコの拘束をナイフで解くと猿ぐつわも外して自分の上着をかけてあげた。
「ケンゴさん……大丈夫なのか?」
「平気平気。ちょっとチクンとしたけど、全然通ってないよ」
ケンゴは少し服を上げて、ユウマが刺した箇所が無事である事を見せる。
すると、ショウコはケンゴに抱きついた。
「本当に……死んだかと……思った」
助かった安堵ではなく、心配する言葉にケンゴは微笑む。
「てめぇ……何やってんだ……俺のショウコと何やってんだよぉぉ!!」
ショウコさんを救出し、ハグを貰いました。最後はちょっとびっくりさせちゃったが、油断してたオレも悪い。
「てめえ……何やってんだ……俺のショウコと何やってんだよぉぉ!!」
と、何かさっきから叫んでるヤツが居るな。オレはマスクを下ろしてスパイ○ーマンになる。
「何って……ハグ」
「そんな事は聞いてねぇ!」
こいつも会話が成り立たない系男子か? 日本人が誤解されるからお前は国外には出るな。
「ショウコはな! 俺のモノなんだよ! 勝手に持って行くんじゃねぇ!」
「そうなの?」
「世界が滅んでもあり得ない」
だ、そうだ。まぁ、コイツがストーカー事件の首謀者だろう。
「
「ハッ!」
野郎が笑う。オレは何か愉快な事でも言ったっけ?
「警察ごときに俺が捕まえられるワケ無いだろうが! 馬鹿か! 少しは考えろ! オレは黒金だぞ! そこらの凡人とは違うって――聞けよぉ! 俺の話ぃ!!」
チッ。長々と叫ぶので無視してショウコさんと部屋を出ようとしたらバレた。
「あー、はいはい。続きはポリスメンに説明してね。後、近い内に訴えの督促状が届くからそっちもヨロ」
こちらも相当に暴れまわったが、オレはナイフで襲われたワケだし、ソレをショウコさんも見ている。誘拐の件と合わせて、懲役に行け。
「ふっざっけんな――」
野郎は殴りかかって来ようとしてたので、オレは拳を握って腕を振り上げた。
すると、ひっ! と野郎は怯む。やれやれ。
「お前が余計な事をしなければスパイダー○ンはもう帰る。それじゃ」
ショウコさんを部屋から出すと剣道マンの赤羽さんに少しビクッとする。声をかけられると理解してくれた。まぁ、事情を知らなければ只の不審者だしなオレら。
「何なんだよ……何なんだよ! お前は!」
と、野郎の問い。オレは向き直るとビシッと言い放つ。
「通りすがりのスパイダ――」
「私の彼氏だ」
ショウコさんの淡々セリフが割り込まれた。オレの……決め台詞……
「だから、お前には微塵も可能性はない」
「…………ふざけんな……」
お、まだ喚くのか? 少しうんざりしてきたぞ。こう言うのは構うほど面倒な事になる。もう無視無視。
「さぁ、ショウコさん。帰りましょう。屋敷は完全に制圧したので」
「えらく暴れたな」
「ふざけんな! ふざけんな!! ふざけんな!!! どいつもこいつも! シズカもジジィも! ふざけんなよ!」
シズカ。その単語にオレは反応する。ショウコさんを赤羽さんへ少し預けて踵を返した。
「シズカって誰の事だ?」
「なんだよ……お前には関係ねぇだろ!! アイツは俺のモノだったんだ! 中学生の癖に俺を下に見やがって!! こっちが結婚しやるって言ったのに拒絶するなんておかしいだろうが!」
「お前か!!」
オレは野郎を再度殴っていた。先程よりも本気の一撃。コイツがシズカを狙ったロリコン野郎だったとは!
「な、なっ……お前! さっきは殴らないって言っただろ! 嘘つくんじゃねぇよ!」
「状況によるんだよ。良いか、一つだけ言っておくぞ。ショウコさんの代わりにシズカに手を出そうとしたら……どこにいても
「は、はぁ!? お前には何も関係ねぇ事だろうが!!」
「シズカはオレのイトコだ」
その言葉が意外と効いたのか、野郎は絶望したような顔になり、へなへなと力が抜ける。
「シ、シズカの……身内……? てことは……神島の……あのジジィの身内……それに……オレは……ナイフを……」
何か怖いくらいに滅茶苦茶効いてるな。まぁ、それはあちらさんの事情なので知らねっと。
「ケンゴさん。帰ろう」
ショウコさんの声にオレは見えずとも微笑み、皆と共に屋敷を後にした。