第219話 娘を下の名前で呼ぶなぁ!!

文字数 1,960文字

「ユニコくん……らないですよ!」

 妖怪『酔いどれ甘奈』に後ろから抱きつかれた黒船は慣れた様に応じる。

「む。昼間の件を言っているのかな? その件は諦めたよ!」
「……わらひは……できるだけ、せーじゅーりょーさーんのやりたい事……させてあげたいれす……でも! せーじゅーりょーさーんの会社も……だいじれす」
「……そうかね」
「そうれすよ! みんなそうれす! わらひだけじゃないれす! だから……せーじゅーりょーさーんだけ、ひいきはできないれす!」
「ふっ……それはその通りだね! 全く! 甘奈君には本当に頭が上がらないよ!」
「あたまは上げてていいれす……わらひは……せーじゅーりょーさーんの横がすきれすから……」

 そこまで言って、体力が尽きたのか轟は黒船にもたれ掛かる様に眠りこけた。

「……電池切れですか?」
「そんな所だね」

 泉の言葉に黒船は轟を背負う様に腕を回す。

「諸君。この可愛い生物を寝かしつけて来るよ。引き続き、楽しんでくれたまえ」
「帰って来なくて良いぞー」
「ふふ。良かったわね、甘奈」

 と、持ち上げた拍子に少し目を覚ました。

「どこ……行くれす?」
「今日はもう休みたまえよ、甘奈君。明日からまた頑張ってくれればいいよ!」
「…………ごーれすよ! ごー!」
「よしきた!」
「扉開けます」

 両手が塞がっている黒船の代わりにリンカは立ち上がり、戸を開ける為に同行する。

「あ、オレも行きます。何かあった時に男手があった方が良いでしょ?」
「気が利くね、鳳君。なら君にもヘルプをお願いしようかな」

 ケンゴの参戦にリンカは少しだけ、たじろいだが、いつまでも逃げてばかりはいられないと、共に行く事にした。

「せかいが、ぶんれつしてるれす……」





 オレ達は何とも言えない四人パーティーで旅館の廊下を歩く。女性陣の部屋で轟先輩をスヤらせるのがミッションであるが……この轟先輩は予測がつかない。加えて――

「……」
「……」

 同行したのは良いけどリンカとの距離感が気まずい。どうにかして二人で話をしたいものだが……同行しておいて、行きなり彼女と二人で離れるのは失礼だろう。
 取りあえず、目の前のミッションを完遂してから考えるか……

「いつも……迷惑かけてすみましぇん」

 轟先輩が社長の背中で寝言の様に呟いた。
 その言葉に対して先頭を歩く社長はどんな表情をしたのか見えなかった。

「鳳君、鮫島君」

 前を歩く社長が声を出す。オレたちは、はい、と返事をした。

「悩むのを楽しみたまえ。それも人生だよ」

 全部見透かされている様な言葉にオレは頭が上がらない感じがした。その時、

「露天風呂が貸し切りだとはのう。ツイてないわい」
「申し訳ありません、事前に調べておくべきでした」
「気にするなよぉ、土山ちゃん。取り返しのつかないミスじゃないさ。それに予測は出来ないよ。それにしても混浴ってスゲーよね」

 通路の角を曲がって日本で上から数えた方が早い方々と遭遇した。

「ん?」

 あ、火防議員がこっちに気がついた……

「お疲れ様です! 火防先生! いやはやこんな所で出くわしますとは! 運命めいたモノを感じますな!」

 わっ! と社長が楽しそうに声を上げた。
 ホントにスゲー人だよ。ヤクザも目を合わせず避ける相手に正面から楽しそうに話しかけるんだもん。
 しかも、スヤってる実娘様を背負ってるんだから……戦争不可避!

「な、な、な、なっ」

 対して火防議員は、エンジンのかかりづらいバイクみたいに言葉が中々出ないご様子。
 多分、色々と言いたいことはあるんだろうけど、開口一番に出す言葉が渋滞してる感じだ。

「お? サメちゃんだ」
「どうも」

 リンカは同行者の一人にペコリと頭を下げる。

「あ、お疲れ様です」
「天文学的な遭遇ですね……」

 オレは土山議員と挨拶を交わした。

「どうしました!? 火防先生! 言葉が詰まってる様なので私から説明しましょう! 今二泊三日の社員旅行最中でしてね! 優秀な我が社の社員がこの旅館を選んでくれたのですよ! 露天風呂には行かれましたでしょうか!? 申し訳ない! 我々の貸し切りです! 明日は違うので時間があれば是非堪能していただければと思っております! 素晴らしい湯ですよ!」
「く、く、く、黒船ぇ~」
「おっとすみません! 現状の説明がまだでしたね! 先ほどから宴会を始めまして、甘奈君は早々に酔い潰れてしまったのですよ! 甘奈君はあまりお酒に弱いとは知りませんでした! 飲み会ではアルコールハラスメントが多い昨今! 飲むペースは個々に任せているのです! 甘奈君も普段はあまり飲まないのですが! この旅行はそれなりに楽しんでいる様ですよ! 甘奈君が楽しいと私も皆も楽しいです!」
「甘奈甘奈と……娘を下の名で呼ぶなぁ!!」

 それが現状を見て何とか絞り出した火防議員の言葉だった。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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