第205話 死ぬまで後悔させてやる

文字数 2,399文字

 ケンゴの言葉に周囲はおろか、最も驚いたのはカイだった。

「は……はは。馬鹿が! 唯一の勝機を逃しやがって! その余裕を後悔させてやる!」

 おい、別の馬を連れてこい! とカイは職員に命令し、連れて来させている間にケンゴは十三回戦目の後攻をパーフェクトでクリアーする。

 十三回戦の結果。
 カイ……クリア五回。
 ケンゴ……クリア五回。

「……いつ気がつくんだ?」

 職員が連れてきた馬に乗るカイを見ながらケンゴは呟く。





「なん、だ? 今のは……鳳同志の勝ちではなかったの、か?」

 勝負の行方を一心に見守っていた面々もまだ勝負が続く有り様に疑問を抱く。

「何が起こっている?」

 勝ちだった状況で延長を選ぶケンゴの真意を計りきれない。

「……本当にお節介なヤツだ。お前」

 しかし、リンカはケンゴが最終的にはどの様に事を納めようとしているのかを理解していた。





 十四回戦目『高さレベル2』。掛け金1638万4000。

 騎乗し直したカイはすぐにトラックへ進入する事なく一度、慎重に場を見る。

 掛け金は1638万4000……クソ。まさかこんなにつり上がるとは……

「おい。わかってんのか? 今の掛け金は1638万だ。負けたらちゃんと払え――」
「行かないのか?」

 大金がのしかかる一戦。カイはケンゴにプレッシャーをかけようとするも、彼はトラックしか見ていない。

「……ちっ」

 コイツを揺さぶるのは止めだ。勝負は馬がリセットされた俺の方に分がある。

 カイはトラックへ進入する。一つ目のバーを容易く跳び越え、二つ目へ。

 これに勝てば1600万。1600万――

 三つ目を跳び越え、四つ目を跳び越えるが、僅かにバーに触れ危うくは落とす所だった。

「危っぶ――」

 危なかった。今のを落としていたら1600万を――

 五つ目のバーへ差し掛かったところでカイは馬へ停止をかけた。騎手の判断に馬は滑るように止まる。
 観ている者は、あのまま行けば十分に跳び越えられたのに、とざわめき出す。

 何やってんだ俺は……1600万だぞ! もっと慎重に行くべきだろ!

 カイは最後のバーを見る。すると、とてつもなく高く感じ、スタートを躊躇ってしまう。馬は、いかないの? とカイを気にかけるが、彼の頭の中は背にのしかかる大金のプレッシャーしかなかった。
 もし、跳び越えられなかったら……

「行かないのか?」
「……うるせぇ。一回のトラックに時間制限は――」
「いいよ」

 トラックの外から投げられるケンゴの言葉にカイは思わず視線を向ける。

「ソレ、OKでいい」
「――――」

 コイツ……どういうつもりだ?! こんな事をして何のメリットが――

 カイの疑問を他所にケンゴは後攻にてパーフェクトにて納め、十四回目は終了した。


 十四回戦の結果。
 カイ……クリア五回。
 ケンゴ……クリア五回。





 十五回戦目『高さレベル3』。掛け金3276万8000。

「……」

 カイはすぐにはスタート出来なかった。大金の重みが彼の身体を強く停止させる。

 このタイミングで高さレベルは最大。馬も疲労は殆ど無い。完璧に跳べる……そうだ、俺ならやれる。それにもし、落としたとしてもヤツの馬も消耗を――

 カイは自分がミスをしてもケンゴのミスも十分にあり得ると彼を見る。しかし、ケンゴの集中力は途切れている様子が無く、バーを落とす様は全く考えられなかった。

「行かないのか?」
「うるせぇ!」

 3200万だぞ!? そう簡単に行けるかよ。何か……何か手が――

「いいよ」

 その言葉にカイは目を見開きケンゴを見る。

「全部OKでいい」
「――なっ……」

 それだけを言うとケンゴはカイの横を抜け、トラックに入ると高さレベル3を何の問題なく全てをクリアした。

 十五回戦の結果。
 カイ……クリア五回。
 ケンゴ……クリア五回。





 十六回戦目『高さレベル1』。掛け金6553万6000。

「お、お前……イカれてんのか……?」
「何がだ?」

 戻ってきたケンゴに対してカイは震えながら告げる。

「これに負けたら、6500万だぞ! 払えんのか!?」

 絞り出す様に叫ぶカイ。その言葉に観ている観客たちは、何の事だ? と、どよめき出すがカイからすればそんな事はどうでも良かった。

(かれら)は道具じゃない。だから乗り手の心にパフォーマンスは左右される」
「な、何言ってやがる! 馬はただの道具だろうが!」
「まだ気づかないのか?」

 ケンゴはカイに近づく。すると、カイから見たケンゴはとてつもなく巨大に映った。

「お前が積み重ねて来たモノが、今お前に牙を向いてるんだろうが」
「――なに……」
「6500万だろ?」

 再び大金の重みがのしかかる。その重みはケンゴにも同様であるが、一人で戦っているカイとは違い、ケンゴには信頼を置ける相棒(タロー)がいた。

「オレはバーを落とさない。お前は落ちる未来しか見えないか?」
「――は……はは」

 カイは渇いた笑いしか出なかった。

「お前はオレの友達を傷つけ……大切な人に手を出そうとした。絶対に許さないぞ。死ぬまで後悔させてやる」

 大金に加えてケンゴから向けられる本気の怒りにカイは更なるプレッシャーを負った。
 スタートを切ると言うこと。それはもはや、失敗の未来しか見えず――

「いいよ」

 すると、ケンゴからの言葉に弾ける様に彼を見た。

「全部OKに――」
「待った! 待ってくれ!」

 カイは力無く馬から降りるとケンゴとタローの前に膝を折る。

「ギブアップする……」

 震えながら自らの敗北を宣言した。

 障害馬術、戦績。
 一回戦……カイ○
 二回戦……カイ○
 三回戦……ケンゴ○
 四回戦……ドロー
 五回戦……ケンゴ○
 六回戦……ドロー
 七回戦……ドロー
 八回戦……ドロー
 九回戦……ドロー
 十回戦……ドロー
 十一回戦……ドロー
 十二回戦……ドロー
 十三回戦……ドロー
 十四回戦……ドロー
 十五回戦……ケンゴ○

 1000円ゲーム……掛け金3276万8000。

 勝者、鳳健吾。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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