第318話 完璧なプランだぜ!

文字数 1,970文字

 ショウコは仮面を着け模造の青竜刀を持ち、アパートの中庭で深く集中していた。

“いいかい? 昌子。『流雲武伝』は演目として認識する物事ではない。己を捨て、過去の一部となるのだ。魔を討ち、厄を祓う。より深く、己を沈めよ”

「――――」

 演目の最中で鳴らす音楽は観客達へ彩りを持たせる為のギミックに過ぎない。
 本来なら、それらを必要としないのだが、時代に生き残る為にはある程度のウケは必要らしい。

「――やれやれ。どうも集中力に欠けるな」

 身体を動かそうとすると、彼の事が頭をよぎる。
 すると、気に入られたのか、猫が足にすり寄ってくる。危ないから退いててくれ、と頭を撫でて近くの塀の上に乗せる。

「ふー」

 舞台での演目で、初期の頃は緊張で上手く行かない事はあったがそれとはまた別だ。
 集中すればするほどケンゴさんの事が鮮明に浮かび上がる。

「……やはり、ぶっつけ本番でなくて良かった」

 これが彼に見せる場面だったらまともに舞う事は出来なかっただろう。
 ゆっくり、集中する。息を大きく吸い、小さく吐く。それを繰り返し、繰り返し……水面の波紋を少しずつ抑えて行くように――

「――――」

 身体が軽く、剣も軽い。私は舞う――





「よしよし。完全復活だ」

 オレは携帯ショップで新しいスマホを購入。最新型よりも、前に使っていた型式のちょっとバージョンアップ版だ。
 これから何年も使うわけだし、じっくり選定させてもらった。選んでから店員さんの説明や手続きやらで、入店してから二時間はかかっている。

 色々と最先端の物なんかも勧められたが、やっぱり使い慣れた型式のモノがいい。
 電話帳なども携帯ショップのサービスで全部保全されていたのでアプリも問題なく前の画面。
 更に幾つか機能が追加されているようで、それは追々確かめて行くとしよう。

「陸君から着信が入ってる」

 恐らく、ショウコさんを奪還する前の連絡だろう。着信時間もそのくらいで、直近の連絡が無い様子からヨシ君が上手く話してくれたようだ。

「先に――」

 ショウコさんに連絡。やっぱり新しい物は買ったらすぐ使いたいよね。
 コールをかけるが中々出ない。そして、切れてしまった。ちょっと嫌な予感が頭をよぎる。もう一度連絡をかけた。

「……」

 やはり出ない。すると、ギリギリで繋がった。

『すまない。集中していた』

 少し息の切れた様子が伝わってくる。本当に勤勉だなぁ。

「もう帰るから。何か欲しい物とかある?」
『ふむ。一応、○ムを買ってきてくれ』

 うーん。聞き違いかなぁ。確認しよう。

「輪ゴ○の事じゃなくて?」
『違うぞ。ゴ○の事だ。君は部屋に置いて無さそうだったからな』
「……使いきりのヤツ?」
『使いきりのヤツ』
「……何に使うの?」
『使用用途にいくつもパターンがあるのか?』
「いや……ないけど……」
『気が進まないなら私が買って来よう。無いよりもあった方が安心だろう?』
「オレが行ってきます……」
『すまないな』
「いえ……」

 オレは通話を切る。
 これってあれか……。もしかして誘ってるのか? 夜の運動に。いや……うん……強烈にショウコさん節が炸裂したな。どうしよう……今日はネカフェに泊まるか……

「……よし、買い忘れたって事にしよう」

 そんでもって、酒を飲ませて眠らせよう! ショウコさんは眠り上戸! 一口で夢の世界だったから、一缶なら一晩保つだろう! そんでもってオレは寝袋を使って外廊下で寝る! 完璧なプランだぜ!

「ジュースみたいなお酒を買って帰ろー」

 やってる事はクソヘタレだが、どうか見逃して欲しい。





「……ふむ」

 仮面を外して、ケンゴの電話に対応したショウコは、切った後も少し顔を赤める。

「いかん……いかんいかん。浮かれ過ぎだぞ。ショウコ」

 頭では解っていても行動が先行してしまう。昨晩の行動からも彼が私に対して少し立場を考えているのは解っていた。
 しかし、それは間違いだった。彼はそんなモノは関係なく助けに来てくれたのだ。

“その場所が心地良いと感じたなら事を起こす前にお父さんに連絡しなさい”

「……遅めの反抗期かもしれない」

 この気持ちは誰にも止めて欲しくない。父に相談するともしかしたら彼との同棲を外されるかもしれない。

「……自制心が試されているのか……」

 初めて芽生えた感情が確かな恋心だと認識してからいきなりアクセルを全開にした気がする。
 踏み続けて崖をダイブする前に参考情報が欲しい所だ。

「……母上に連絡して聞いてみるか……」

 人生においての大先輩ならば、きっと良きアドバイスをくれるだろう。ついで初夜についても聞いておくか。

 スマホをいじり、母の番号に合わせたところで、アパートの入り口前に一台のバンが止まった。

「なぁ! そこの姉ちゃん! ちょっと道を教えてくんねぇか!」

 運転席に座る男が窓を開けてショウコへ大声をかけた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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