第256話 ちぇりお!

文字数 2,287文字

 伸びる木々によって昼間でも影の多い山道は夜になると一層に光を失う。
 その山道の途中にある霊碑。夜の山では得体の知れない影が蠢き、じっと山に入る者を選別する。
 旅館側も夜間の登山は推奨しないと看板を建てており、魑魅魍魎の存在を仄めかしていた。

「お。キットカットあったよ」
「我々で全て回収して行くべきですな」
「うーむ。今更ながら罰当たりな気がしてきたね」
「何か霊碑、光って無いっスか?」

 茨木、ヨシ君、箕輪、岩戸の四人は霊碑の前に置かれているキットカットと近くに木に巻いた反射テープを回収する。

「お、良いのが残ってるじゃん。アタシこれにしよ」

 茨木は『無双』と書かれたキットカットを手に取る。

「では我輩はこれを」

 ヨシ君は『観測』と書かれた物を取る。

「私はこれにするかな」

 『教壇』と言う、自分を連想して書いたであろう単語を箕輪は取った。

「ウチはコイツっス」

 岩戸は『猛進』と言うキットカットを見つけた。

「残りは回収ですな」
「オッケー。結構余ったし七海課長にあげよっか」
「七海さんは絶対に受け取らないと思うッス……」
「私たちが手を加えた物はもう無さそうだね。引き上げようか」

 先生ムーヴの箕輪に三人は、はーい、と返事をして折り返しへ。

「何かあんまり怖くなかったねぇ」
「いや……ヤバいのは二つ出たッスよ?」
「茨木さんのお陰だね」
「我輩も幾つか写真を撮りました。旅のアルバムが完成したら皆様に送りましょう」
「ヨシ。一応、撮った写真は一度祓っとけよー」

 そのまま載せると呪いのアルバムになるぞー、と茨木は告げる。

「知り合いに寺生まれの方が居りますゆえ。お願いしてみますぞ」
「もし、無理だったら私の同僚にも寺生まれの方が居るから声をかけてくれれば」
「ほう。それは頼もしい人脈ですな。その方のお名前をお聞きしても?」
「寺井と言う国語の先生だ」
「なんと。箕輪殿も寺井殿と接点が。そう言えば寺井殿は教員をしていると仰られていましたな」
「へー、不思議な縁だね。寺井先生は学校では思春期で暴走する生徒に懲罰を与える役回りになってるんだ」
「なるほど……それで、寺井殿の所に坊主頭の男子高校生が沢山居たわけですな」
「ヨシさんはどういう経緯で?」
「夫殿経由でですぞ」
「あ、そっか。二人は同じ部署だったね」
「こうやって人脈って奴は広がって行くんスね!」

 これがこの旅行の趣旨か! と旅行メンバーの中で唯一、新人枠として参加した岩戸は社会人として繋がっていく感覚を強く実感していた。

「おっと……」

 すると、箕輪は正面に佇む登山ウェアの幽霊を懐中電灯に捉えた。

「最後の砦と言うヤツですかな」
「プライドがあるんスかね?」

 異様な幽霊の様子に三人はあることに気がつく。

「茨木さん?」

 目の前の怪異を目の当たりにしても声を上げない茨木に三人は気になって後ろを振り向くと、彼女は居なくなっていた。

「い、茨木さん!?」
「さっきまで後ろに居たッスよ!」
「ふむ……」

 突然の茨木の失踪と目の前の幽霊。二つの事象を同時に認識した箕輪と岩戸はプチパニックになっていた。

「どうやら、ここは我輩の空手の出番ですな」

 と、ヨシ君は岩戸にカメラを預ける様に前に出ると、コキッと手を鳴らしながら幽霊に近づく。

「お二方は河川敷へ行かれよ。ここは我輩が何とか致しますぞ」
「だが! 茨木さんが!」
「そうっス! 見捨てられ無いッス!」
「流石の我輩もお二方を護りつつ、茨木殿を探すのは物理的に不可能ですぞ。その為に増援が必要なのです」

 その言葉に二人は助けを呼びに行く事を託されたと察する。

「それにお二方は、招待客。わが社として安全を確保するのは当然ですぞ。さぁ行かれよ」

 ヨシ君は、ちぇりお! と幽霊を殴った。幽霊は少し驚いた様子で怯む。

「すぐに戻る!」
「死んだらダメッスよ!」
「ほっほ。問題ありませぬぞ。ソイヤ!」

 ヨシ君の前蹴りで幽霊が吹き飛んだ隙に箕輪と岩戸は横を抜けた。





「あ、帰ってきた」

 あの四人なら大丈夫だろー。
 と特に心配もせず談話していた河川敷のオレたちは山道から駆けてくる二人に眼をやった。

「二人?」

 皆が思った疑問をリンカが口にする。

「大変だ! 茨木さんが行方不明で! ヨシさんが幽霊と戦ってる!」
「何ですって!?」

 ヨシ君の状況にツッコミを入れたくなったが、カズ先輩が行方不明と言うのは一大事件だ。

「ヤバいッス! 早く応援を!」

 岩戸さんの言葉に社長が声を上げる。

「ふむ。真鍋!」
「行けます」
「金田さん!」
「金田です」(笑顔in半ズボン)
「鳳君!」
「はい! え? オレ!?」

 思わず返事をしちゃった。

「GPS!」

 その言葉に轟先輩はノートPCを一台開くと、昼間の陣取りゲームで使ったGPS機能を即座に起動する。
 まるで戦隊モノの合体シーンを彷彿とさせる流れだ。

「私と金田さんで茨木君を捜しに行く! 真鍋と鳳君はヨシ君を頼む!」
「言われずとも」
「……了解です」

 返事しちゃったもんよぉ……反射って怖いね……

「社長、私達はどうしましょう?」

 鬼灯先輩が他に出来る事が無いかを聞いて来た。

「他は待機だ! 二次災害になりかねないのでね! 今回はスピード重視! 三十分経っても我々が戻らなかったら通報を頼むよ!」
「わかりました」
「その時は俺も行くからな」

 七海課長が闘志を漲らせて告げる。身内の事態に恐怖よりも戦意が勝っている様で凄く頼もしい。

「フッ……完全復活だね! 七海君!」
「ケッ。茶化してる暇あったらさっさと行けや」
「総員、セカンドトライだ!」

 そして四人の男たち(オレを含む)は夜の山へ。
 うーむ……普通に事件だ。これ。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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