第257話 肝試し終了

文字数 2,680文字

「最後の最後でこんな事になるなんて……」
「悲観するのは後だ、鳳。今は目の前の事態収拾に全霊をそそげ」
「はい」

 オレと真鍋課長は各々ライトを持って山道に入る。社長と田中さんはカズ先輩のGPSを追って獣道から最短距離を突っ切って行った。

「居た! ヨシ君!」

 思いのほか、早急にヨシ君を見つけた。
 山道の真ん中で登山ウェアの幽霊にアームロックをかけて、コイツめっ! とギリギリ締め上げている。

「……」
「おや? 課長に鳳殿。頼もしい増援ですな」
「ヨシ、無事だな」
「ほっほ。この程度でやられる我輩ではありませぬぞ」
「ヨシ君……もう幽霊さんを離してやって。タップしてるから」

 何かの冗談かと思ったが、マジでゴーストバスターやってた。ていうか、幽霊にプロレス技効くんだ……

「そう言うわけには行きませぬ。何せ、茨木殿が拐われましたからな。手がかりはこやつのみなので」
「て言うか……ヨシ君なんで幽霊触れるの?」
「案外、どの幽霊も触れるのだと思いますぞ。皆不気味がって触るまえに逃げるゆえ。幽霊=触れない。という方程式が定着してるモノと思われますな」

 すると、会話で僅かに緩んだ隙を幽霊が抜け出した。しかし、ヨシ君はすかさず飛びつく様に三角絞めを極めて、再び拘束する。

「茨木殿はどこにやった! ええい! 吐け! コイツめ!」

 ヨシ君、相手が人権の無い幽霊だからやりたい放題だ。幽霊さんは必死にタップしてるけど、ヨシ君は緩める気配がない。
 うーん。カズ先輩の失踪と全然関係なかったから苦しめられ損だよなぁ。

 一応は、ヨシ君の行動は理のあるモノなので、オレとしては止めるかどうか判断がつかない。
 だって幽霊だぜ? もう死んでるし、また死ぬ事ってあるのか?

 オレが困っていると真鍋課長が前に出る。

「ヨシ。北風と太陽だ」
「ふむ。しかし、課長。旅人に逃げられてしまっては服を脱がすどころではありませぬ」
「これ以上苦しめる必要はない」

 あ。幽霊の様子が少しだけ希望に満ちた様子で薄まっていく。ヨシ君は拘束を解くと、幽霊は立ち上がり、パァァァ……と薄まり始め、昇天――

「待て」

 今度は真鍋課長が幽霊をガシッ! うわ……マジで幽霊って触れんのか? ちょっとオレも触ってみたくなってきたかも。

「コイツを貰いたくなければ……」

 真鍋課長が拳を握る。圧力がやべぇ。

「知っている事を吐いてから逝け」
「ですぞ」
「……」

 ヨシ君も割り込み、パァァァ……が止まる。
 幽霊を脅す弁護士なんて世界各地捜してもこの二人だけだろうなぁ。人権って本当に大事だね。





 ヘコヘコしながら進む幽霊の案内の後にオレらは続く。今は真鍋課長が見張っているので、万が一にも逃げられないだろう。
 幽霊さんも生きてる人間は死後も怖いって理解してくれてると良いな。

「そう言えば、ヨシ君って相当にやる人だったんだね」
「我輩など、まだまだ。社長殿や課長クラスには到底及びませぬぞ」
「いや……社長と課長クラスはアレはアレで異常だから……」

 文武両道とは良く言ったものだ。名倉課長は腕っ節が強いイメージは無いけど、あの人は別のパラメーターが振りきれてるからなぁ。

「沖縄の一件以降、我輩も思う所が有りましたからな」

 それは、オレ、加賀、泉、ヨシ君で会社が企画した沖縄への短期派遣の件だった。
 会社には問題無しと言う報告をしているが、実の所はオレの古式が三人にバレて、泉と今の関係になった一件だったりする。

「我輩も出来る事は増やすべきだと思った次第ですぞ」
「はは。ヨシ君はカッコいいよ」
「ほっほ。何かあればいつでも声をかけて頂ければ」

 友情からオレとヨシ君は軽く拳を合わせる。そんな話をしていると幽霊の先導で霊碑まで案内された。

「あれは――」

 そこには、疲れた様子で座っているカズ先輩と、そんな彼女に語りかける社長に、周囲を笑顔で警戒する田中さんが居た。
 あれ? 明らかにこっちのルートよりも獣道は遠回りなのに……なんで霊碑の前に二人が居るんだ?

「茨木殿。御無事ですかな?」
「おー、ヨシ。こっちは……ちょい、アトラクションに巻き込まれたけどなー」

 疲れながらも挨拶をしてくるカズ先輩は目立った怪我もなく無事な様だ。
 しかし……山の中を走り回っても息一つ上がらない彼女が、ここまで疲れているとは。何があったんだ?

「そっちは無事だったようだね! 真鍋!」
「そちらも、御無事で何よりです」
「金田さんとローレライが居なければ危なかったな! 私の自伝『黒船危機一髪!』(仮題)に新たな物語が追加されたよ!」
「なんですか、それ」

 良く見ると、社長と田中さんも服が少しくたびれている。

「全員の無事を確認した! 甘奈君、今から戻るから通報は無しで頼むよ!」
『皆に伝えます』

 社長はスマホで轟先輩に連絡する。時間的には二十分もかからずに二人を発見できた。

「茨木殿。立てますかな?」
「ヨシ、二人は大丈夫だった?」
「問題ありませぬ。箕輪殿と岩戸殿は無事に送り届けましたぞ」
「やるじゃん」

 カズ先輩はヨシ君の手を取ると立ち上がる。しかし、フラついたので、オレが間に入ろうとするとヨシ君が肩を貸した。

「我輩達でラストですぞ。きちんとゴール致しましょう」
「だね」

 良い友情を二人から感じとり、オレは野暮な事はせずにカズ先輩はヨシ君に任せる。

「よし、もう逝け」
「真鍋! 今、パァァ……したのは幽霊かい!? 捕まえたのかい!?」
「道案内させました」
「くぅぅ! いや……しかし! こちらもこちらで捨てがたい経験が出来た!」
「満足されたようで」
「個人的には大満足だよ! ふっはっは!」

 こうしてオレ達の肝試しは終わった。
 色々と理解の及ばない事は多々あったけれど……まぁ皆、退屈はせずに済んだから良かったんじゃないかな。

「夕食はバイキングなので、各自で就寝まで自由時間とする! 明日の朝の出発に寝坊しないようにね!」

 河川敷で皆に言う社長の言葉で場は解散となった。





 騒がしかった河川敷は本来の静けさを取り戻した。
 しかし、今回の舞台となった山では掘り起こされた異形がその気配を強く現し始める。
 ソレらが旅館へと押し寄せる様に木々の間から人外を月明かりの元に現した。

“とんだくたびれ儲けだぜ。黒船のヤロウ。これを読んだ上で俺を雇いやがったな!”

 旅館へ迫る魑魅魍魎を旅館の屋根から見下ろす存在があった。

“まぁ……良い。ゲハハ! 運が悪いぜ、魍魎共! 今夜は……この鳥類最強の俺様が、この辺りの支配者なんだからなぁ!!”

 黒い羽が舞う。
 この日を境に、山で心霊的な現象を目撃する事は無くなった。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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