第483話 神ノ木ツアー
文字数 2,356文字
『雛鳥』にやって来た児童たちへ向けた、『神ノ木の里』が好きになるオレのナビによる、完全な主観ツアーである! 行く場所は気分で変わる! 山だったり、川だったり、酒造蔵だったり、適当な知り合いのお婆ちゃん家の縁側だったり! とにかくアドリブで行く! しかし、今回はツアーと言う名のデートだ!
「と、言うことで~。ご協力を~」
オレは旗を持ってアヤさんを先導し、最初に訪れたのは銃蔵である。そこにはイトコのシズカの姿があった。
「ゴ兄、アヤさん」
「おはようございます、シズカさん」
「シズカだけか? 叔母さんは?」
「
「叔母さんはいるんじゃな」
「流石に
蔵にある銃棚のNo.1の所には、昨晩、熊吉にトドメを刺したジジィのマイショットガンが納められていた。あれも結構年期モノだよなぁ。
「シズカさんは丁寧に管理されているのですね。ご立派です」
「褒められると照れるわ~」
美人なアヤさんと美少女のシズカ。外見の絵面としては一枚の絵画にしても良いくらいに輝いている。うっ! 眩しくてて失明しそう。
「そんで、ゴ兄とアヤさんは何の用? デート?」
「うむ。『神ノ木ツアー』じゃい」
「叔母さん」
「ん? シズカ。残弾の確認は終わったん――って、ケンゴにアヤか。変な旗と
射撃場に行くと茶摘みの農場員のように腰に小さな籠を持ち、落ちてる空薬莢を回収する楓叔母さんが居た。
「叔母さん~シズカから聞いたよ~。ここはそろそろクレー射撃場にするって話~」
この射撃場は銃の調整に使われるのだが、高齢化が進み、後30年もすれば里のオールド銃士隊は軒並み引退する事になる。
そうなったら射撃場は完全に機能が停止しする。
実に勿体ない。と言うばっ様の提案で、最近、クレー射撃場に転向出来ないか、叔母さんが打診されたらしい。
「まぁ隠してるワケじゃないからのぅ。しかし、今回の一件でまた数年はかかる事になる」
合法的に銃が撃てる施設を公にするのだ。管理は厳しすぎるくらいが当然である。
そこに今回の熊吉騒動だ。安全管理の面から数年開ける必要が出たらしい。
「じゃあ、銃が撃てる今が誤魔化しが効く最後の機会ってワケだ」
「ほう。言うじゃないか、ケンゴよ。アヤもワクワクして
「え? あ! すみません……不謹慎でした……」
「野暮野暮、そんな野暮は無しで! 叔母さん~。射出器あるでしょ~? 散弾銃あるでしょ~? そんで、未経験の人がワクワクして居るでしょ~? これによって、求められる解答は?」
楓叔母さんは、どの様な返答をしてくれるのか。ドキドキしながら分かりやすく待つアヤさんを見た。
「しゃーないのぅ。アヤ、ちょっち撃ってくか?」
「良いのですか?」
「射出器も丁度出しとるし、そんなワクワクアイを向けられればのぅ」
「ありがとうございます」
てなワケで、叔母さん監督の下、クレー射撃を始める。ちなみに本来なら実技と講習を得て、射撃免許を貰わなければ散弾銃は撃てない。なので始めたい人は正式な手順を警察に相談してね!
更新は三年ごとにある。その時ジジィは、毎回、実技で20点以上を叩き出すらしい。オリンピック行け。
「アヤさんって、海外でも銃を撃ってたの?」
「拳銃を嗜む事はありましたが、散弾銃は未経験でした」
クレー射撃にて、アヤさんは初回こそ外したものの、数発撃つ間にはコツを掴んだ様子だった。
持ち前の動体視力と集中力はオートAIMの様に一発も外さずクレーを霧散させる。生まれながらにリアルチートを積んでるとは思ったけど、これ程とはなぁ。
長年、銃を撃つ人間を見て来た叔母さんからしても、そこらにはない才覚であるらしく、今でコレなら、きちんと指導を積めばオリンピックの代表選手にも十分に手が届く逸材らしい。
まぁ、アヤじゃしな。こんくらいは出来るじゃろ。
と、叔母さんはあんまり驚いている感じではなかったけど。
「勝手な想像だけどさ。アヤさんは弓術の方が得意かと思ってたよ」
「アーチュリーも嗜みます。スポーツ全般は一通り経験しておりましたが、クレー射撃は初めてでした」
「どのスポーツもいい線行ったんじゃない? アヤさんって運動神経もピカイチだし」
「学生の頃はよく助っ人をお願いされました」
「見てて楽しいくらいにセンスもあるよ。その道でプロになろうとかは考えなかったの?」
「どれも、本心からやろうとは思えなかったのです。そのような不純な気持ちでは、真摯にやっている方々に失礼だと思いまして」
それは、凡人であるオレには見えない視点である。
色んな選択肢を取れる人間は“見えている道”よりも、“見えない道”を選択する場合が多い。
それは才覚故の満身かそれとも挑戦か。
何にせよ、天才の見ている世界は凡人とは一線を画する。故に個の中では突出し、輝きを見せて注目されるのだ。
アヤさんもそんな天才の枠に十分に収まるのだか、そこに親しみが生まれるのは、彼女は歩く道を決めているからなのだろう。
「圭介おじさんは何か言わなかった?」
「父は私に明確な道を示しませんでした。いつも、やりたいことをやりなさい、とだけ仰り微笑むのです。今思えば、あれが父の厳しさなのかもしれません」
「圭介おじさんらしいね」
「はい」
アヤさんは圭介おじさんの話をする時が一番嬉しそうだ。それだけ、家族を大切にしているのだろうけど、それが酷い呪縛となる事もある。
しかし、今はワクワクするアヤさんとのデートに集中しよう。
「お次はどちらへ?」
「移動でーす。でも退屈はしないので安心してネ」
「ふふ。わかりました」