第351話 ミーティア
文字数 2,202文字
互いに互いの身体を預ける。映画などで危機的状況に手を伸ばしたりするが、これは映画ではない。ちなみにAVでもない。
全て現実なのです!
「じゃあ……いくよ?」
「頼む」
オレはびっくりさせない為に一言断ってからボディーソープをつけた手でショウコさんの背中を触る。
少し、ビクッとした反応と彼女の体温を手の平から感じ取り、オレの煩悩は猛烈に加熱されていく。
「んっ……」
「……」
ショウコさんの感じる声が耳に入る。しかし、オレは手を止めず一気にやることにした。ちょっとずつは間違いなく理性が崩壊する。一気にやって、一気に駆け抜ける!
ぬるぬる――
「あっ……んん……」
「……」
聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない。ぬるぬる――
「はん……んんっく……」
「……」
これは壺これは壺これは壺これは壺。ぬるぬる――
「うっ……ふぅ……ふぅ……」
「……」
ボクはね。今、とっても綺麗なモノを磨いているんだヨー。ちょっとだけゴメンネー。精神を幼児後退させないと理性がもたないんダヨー。ぬるぬる―
「ああっ……んんん……んっふぅ……ふぅ……」
「……」
そして、全面を満遍なく塗り終わった。シャワーヘッドを手に取ると泡を洗い流す。その際に流れる泡を追って、お尻に視線が行ったがシャワーで自分の目を攻撃して潰す。
「ありがとう。気持ち良かった」
「ドウイタシマシテ。マタノゴライテンヲ」
「ふふ。どうしたんだ?」
極限まで感情を消したオレの声にショウコさんは笑う。そして、
「次は前から頼む」
「どわーっ!!?」
振り向くショウコさんにそんな声が出た。思わずシャワーヘッドを落とし、咄嗟に目隠しをする。
直撃弾!? クッソォ! スラスターを少しやられた! 限界だ! 次はかわしきれないぞ!!
オレの中の
「……すまない。だらしない身体を見せて驚かしてしまったな」
「! いやいやいや! そんなことは全く無いよ!」
寧ろ極上品です。
「でも君は目隠しをしている。見るに耐えないと言う事だろう?」
「いや……その……ですね……」
逆なんですよね。
すると、ショウコさんの立ち上がる気配。そして、手を優しく掴まれて目隠しを自然と取られる。
「きっと、君は私を傷つけまいとしてくれるのだろう? しかし、それで君が苦しむのは私にとっては不本意だ」
そう言う上目遣いのショウコさんと目が合う。
濡れた身体。充満する彼女の匂い。異性を魅了するには十分すぎるシチュエーション。
オレの中の熱は更に加熱。理性は……肉体を離れ、その先にある虹の空間を見た。
さらばオレ。次に目が覚めた時は取り返しの付かない事になっているだろう。
“なんだ。帰って来たんだ”
「――――待った」
「ん?」
急速に再構築。
咄嗟に出た言葉にショウコさんが首を傾げる。しかし、オレの中に一つの疑問が生まれていた。
何故……虹の彼方にリンカが腕を組んで立ってるんだ? しかも、いつもの怪訝な眼でオレを見ていた。何やってんだ? お前。みたいな感じで。
馬鹿な……オレは……アレなのか? 彼女に罵倒される事に……快楽を覚えている? 本能が……全てのエロスの更に先……深層心理がソレ求めている変態だということとととかかかか――
「! ケンゴさん!?」
葛藤。思考。ユニコ君。菩薩。理性。ユニコ君。色欲。リンカ。ショウコさん。ユニコ君。
そして、熱限界。あらゆる情報が虹の彼方からやってきて、許容量を越えたオレの脳は
後は……
「あ、見てよリン。流れ星」
研修の最後の夜。
天体観測のプログラムで外に出ていたヒカリは、キラリッ、と流れた星空を指差す。
「え? どこ?」
「ほら、あそこ」
キラリッ。と夜空に一筋の光を一瞬だけ残した瞬間をリンカも眼で捉えた。
「おー」
「宇宙は大忙しよねー」
「ただ通過してるだけだよ。地球外の事だし。あんまり気にしなくて良いでしょ」
「消えるまでに願いを三回言うと叶うらしいよ?」
「それって無理じゃない?」
「だよねー。しかも、言えても叶うとは限らないし」
昔ながらの“流れ星あるある”。見えてから消えるまでに一秒もない中で言える事など限られる。
「……まぁでも」
もし本当に願いが叶うなら、彼とずっと一緒にいる未来を一番に望むだろう。
「全員、そろそろ、部屋に戻るように。班長は最後のレクリエーションをやるから食堂へ集まってくれ」
箕輪の指示に生徒たちは、はーい、と返事をしてぞろぞろと運動場から撤収を始めた。
「…………」
「ん? リン、どうしたの?」
「いや……何となく。さっきの流れ星……お隣さんな気がして」
「ええ? ちょっと、ちょっとぉ。ケン兄のこと好き過ぎでしょ~」
「うっ……確かに……ちょっと考えすぎかなぁ」
リードを離した犬の様に、たー、と走って行って、何かくわえて帰ってくるのがお隣さんだ。眼を離すと何を持って帰ってくるのかわかったものではないのである。
「少しは落ち着いていると良いけど」
それでも昔から何も変わらない彼であった事は何よりも嬉しかった。