第77話 宇宙人君

文字数 2,264文字

「選ばれたのは君だ」

 ハリウッドスターの佐々木さんに沸き立つ祭り会場。数いる来客の中で選ばれたのは、あたしらしい。スポットライトの光が結構強烈……

「一応、聞きますけど……何に?」
「なんだ、聞いてなかったのかい? 君は俺に一つだけお願いする権利を得たんだ」
「はぁ……」

 あたしは狐のお面越しに困惑した。回りは彼の一挙動一挙動を逃すまいと、スマホを向けている。後でYouTuberに上がるんだろうなぁ。狐のお面だけは絶対に死守。

「無かった事にしてください」
「それは場が盛り下がる」
「じゃあ、譲渡します。あっちのお子さんに」

 近くにいる家族連れの女の子へ手をかざす。良く分かってない女の子は、? と首をかしげた。

「あの子は番号のバッチを着けてないよ」
「あたしも着けてませんが?」
「君は着けてただろう? 番号は220だったよ」

 めんどくさい。じゃあ、番号を着けた人を――

「俺は君を指名した。だから、譲渡はNGだ」
「……」

 そうだった。この手合いには何を言っても意味がないんだった。

「ツレを待たせてるので」
「大丈夫。俺が言えばツレも納得するさ」
「いえ、本当にいいので」

 一度ペコリと、頭を下げてスタスタと歩き出す。スポットライト、ついてくるな。

「まぁ、待ちなよ」

 佐々木さんがあたしの手を取る。いい加減に! と怒りが沸くが、彼はあたしを抱き寄せた。

「悪いようにはしないって。俺は君に楽しんで貰いたいだけだ」

 キャーと黄色い声援。この人が、くしゃみをするだけで騒ぎそうなオーディエンスだ。

「いえ……ホントにいいんで」
「皆が見てるから恥ずかしいんだろう? 大丈夫、俺が側にいるよ」

 人によってはもの凄く痺れるシーンなのかもしれないけど、あたしからすれば迷惑極まりない。

「……離してくれません?」
「なら君のお面と交換だ」

 彼の日本語も怪しくなってきた。言葉のキャッチボールって知ってます?

「本当に迷惑なんで離してください」
「なら、素顔で俺に言ってくれ」

 そう言って佐々木はあたしのお面に手を触れようとする。抵抗するあたし。素顔がネットで晒されるのは何としても避けねばならない。

「ほんっと……ほんとに!」
「はっはっは。シャイだなぁ」

 ホント何なのこの人。あたしは倒れる態勢で抱き寄せられているので、上半身でしか抵抗できない。
 彼の手がお面を掬い上げる様に触れ――

「待てい!!」

 その時、場に良く通る声が響いた。全員がソレに注目する。無論あたしも。

「その子を離してもらおうか!」

 客たちのスマホとスポットライトがソレを映す。その場に現れたのは――

「君は何者だ?」

 佐々木が問う。あたしは、額に手を当てる。

「ショッ○ーの怪人、クモ男……だ!」





 オレは会場に着くと箕輪さんのツレである奥さんと合流。中々の美人さんでどうやって引っ掛けたのか気になりつつも、挨拶を交わした所でイベントが始まった。

「すみません、オレもツレ捜すんで」

 と、言って目的を達成した箕輪さんと別れる。ステージに現れたハリウッド俳優、佐々木光之助のトークをBGMにリンカを捜して右往左往。入り口で待ち合わせれば良かったか、と連絡を入れようとした所で、

『彼女です』

 カッとスポットライトがリンカを照らした。
 やべ、全然話を聞いてなかった。何で選ばれたんだ? リンカも困惑してスポットライトを眩しそうに手で遮る。オレは少し様子を見ることに。

 すると、あからさまに嫌がってる彼女にしつこい佐々木君。なんだ、コイツ。日本語理解してねぇのか?
 去ろうとするリンカを強引に抱き寄せて、お面を取ろうとした所で、流石にマズイと考えクモ男へ変身する。

「待てい!」

 叫ぶオレ。全ての意識が一瞬で向けられつつも、怯む事はない。

「その子を離してもらおうか!」
「君は何者だ?」

 リンカはオレに気づいた様子でお面の上からでも額に手を当てる。

「ショッ○ーの怪人、クモ男……だ!」

 ざわめく会場。あれって、前の仮面ライ○ーか? いや、ただ真似してるだけでしょ。などと聞こえてくるが、本人なんですよ~

「クモ男ね……知り合いかい?」
「……一応」

 佐々木君はリンカからそう聞くと、彼女の態勢を起こし、自身の後ろへ回す。

「悪いけど、クモ男さん。彼女は今夜僕と付き合うことになってる」
「え? そうなの?」

 思わずキャラを忘れてリンカを見る。

「そんなわけねーだろ」
「違うってさ」
「照れてるだけだよ」

 頭の中、宇宙人かコイツ。目の前で否定されてるのに日本語が理解出来ていない。流石はハリウッド俳優。思考がワンランク上を行ってやがる。

「彼女もそう言ってますし、連れて行きますね」

 一応は大スターに対して紳士的にそう言ってリンカに近づくが、佐々木君は手を横に伸ばして遮った。

「聞こえなかったのかい? 彼女は僕といるんだ」

 お前も聞こえなかったのか? その彼女はお前を否定してんだよ。

「どうしてもと言うなら力強くでどうぞ、クモ男さん」

 本気でリンカを護る目。いやいや……コイツマジか。ここまで言葉を交わせない奴が居るん? 脳内メーカーで調べると佐々木君の頭の中はカオスな事になってそう。

「えーっと……」

 困惑するオレにリンカは、やれ、と親指を立てて首の前を横切らせる。
 ちょっと怒ってる? まぁ、許可ももらったし、宇宙人君には肉体言語で解ってもらうしかあるまい。

『えーっと佐々木さん? 聞こえてます? そろそろお時間ですが……』

 司会者の声も聞こえぬ様子。観客も結末を見守ってるし、プログラムの次の催しは佐々木VSクモ男に差し替えだな。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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