第224話 破壊の神

文字数 2,382文字

「昔……何があったのか。話してくれ」

 リンカの言葉は興味本位で踏み込んでくる様なモノではない。
 心からオレを理解しようとする意志が強く見受けられた。

「リンカちゃん……それは――」
「ずっとわかってた」

 オレの言葉を遮る様にリンカが言う。

「お前は……あたしの事を“家族”として大切にしてくれてる」
「そうなんだ……だから――」
「だったら! 家族の事を知りたいと思うのは悪いことなのか?」

 リンカはオレから眼を反らさない。引く様子もない強い瞳で見上げてくる。けれど、少しだけ震えていた。
 この事は誰にも話さなかった……いや……言えなかった。
 聞かれてもいつもはぐらかしてきた事柄。その事に踏み込んだ彼女は、拒絶される事を不安になっているかもしれない。

 君を嫌ったりはしない。

 前にも言った言葉を……同じ様に言っても今のリンカは納得しないだろう。
 今のリンカからは一人の人間としての強い意思を感じる。しかし……

 コレは……あの船の……あの取り返しのつかない地獄を……彼女が抱えるのは……あまりにも深過ぎるのだ。

 明るみに出れば全てが終わってしまう。その時になって、リンカまで巻き込んでしまうわけにはいかない。

「リンカちゃん……それは――」
「あんまり、あたしをなめるなよ」

 睨み付けてくるリンカ。しかし、これは……これだけはダメだ。

「話せないよ」
「話せ」
「ダメだ」
「ダメじゃない」

 ぬ……中々に頑固だ。それだけ本気と言う事か……

「君の為なんだ」
「あたしの為を思ってるなら! 話せよ!」
「君を巻き込めない! 解ってくれ!」

 少し声を荒げる。キツイ言い方だけど、それだけリンカの事が大事だと理解してくれれば――

「……じゃあ」

 と、リンカはオレに抱きついて来た。
 その瞬間、オレに電撃が走る。何故って? そりゃ、互いに全裸だからだよ。ここが露天風呂って事をリンカは忘れてるんですかね? 色々とヤバいんだよ!

 シリアスな脳内が、たわわの感触と素肌の密着度合いによって、抑え込んだ煩悩が今までにない化け物になって表に出てこようとしている!!
 え? こんな状況でアホかって? うるせぇ!

「リ、リンカちゃん!? 離れてくれない!?」
「……ヤダ」

 まだ、ギリギリの所で下半身の生体反応を理性で押さえている。国境を越えようとする煩悩(バケモノ)を何とか食い止めてる。弾幕薄いぞ! 何やってんのぉ! 予備隊も出せぇ! ここで食い止めるんだ!

「いや……ホントに……ホントにヤバいんだって」
「そんなの知るか……」

 国境の城壁にヒビが入る。ヤバいヤバいヤバい!! 決断の時だ! オレが犯罪者か優しいお兄さんのどちらになるのか――

「わ、わかった!」

 その言葉に、リンカは顔を上げる。

「嘘は言うなよ……」
「言わないよ」

 まずは離れて、と言うと少し名残惜しそうにリンカは離れる。ヤバかった……彼女がこれ程までに大きく成長していたとは……
 ん? 精神の事ですよ? なにか?

「じゃあ……話せ」
「わかってる。でも! 今じゃない!」

 オレの言葉にリンカは眼を点にして少しばかり呆けた。そして次は、嘘を着いたな! と睨むような眼に。

「ふざけ――」
「年末に実家に帰るから」

 怒り出すリンカの言葉を遮る様にオレは続ける。

「一緒に行こう。その時に全部話すよ」
「あ……むぅぅ……~~~~~。卑怯もの」

 と、リンカは軽くオレの胸にパンチする。
 渋々と言った所だが、提案を受け入れてくれた様で良かった。

「じゃあ――」

 そう言うとリンカはオレに背を預けて座るように再度密着してきた。前面同士程の破壊力は無いがこれも十分に煩悩が蠢く。

「リ、リンカちゃん……」
「代わりにしばらくこうする」
「いや……マズイよ! 凄くマズイ!」

 主に下半身が……

「始めて、喧嘩したかもな」
「……そうだね」

 焦るオレにそう言って笑うリンカ。
 オレは今後彼女との喧嘩する事があれば常敗になりそうだと、困った笑みを浮かべて言う。

「君には勝てないよ」





「あぁ~何かパワーが有り余るなぁ」

 旅館の一室に泊まっているロシア人――シルコフ・ライトは筋肉を鍛えに鍛え上げた殉教者だった。
 その体格はボディビルダーと言っても過言ではないが、当人はマネージャーに仕事の管理は任せており、己のステータスは全て筋力に注ぎ込む生活をしている。

「どうした? アニキ」

 マネージャー兼弟のコルシカ・ライトが暇そうにドラゴンフックをしている兄を見る。
 彼は次のプロテインCMのオンライン打ち合わせを終えた所だった。

「コルシカ。ミーは今、とてつもない虚無感に覆われている。アーロンが天月久遠との試合を中止した事にな」
「あぁ、アレはアーロンが事故ったらしいからな。アニキのせいじゃないよ?」
「勝った方を闇討ちしてぶつけるハズだったこのパワー。一体、何にぶつければ良いのだ?」

 ヤベー思考を持つ兄を制御するのもコルシカの役目。
 日本の風物詩であるオンセンに来てみたものの、のどか過ぎて退屈なのだ。
 腕立て500、スクワット500、ドラゴンフックを428回やっても内側から漲るパワーが上回り、中々解消出来ない。

「やはり日本はダメだな。このパワーをぶつける相手が誰もいない。ライオン、トラ、サイ、バッファロー、カバ……サバンナの頂点に居るミーには全てが矮小。いや……もしかしたら……この世界にはミーのパワーを受け止められるモノは存在しないのか?」
「なんだアニキ。ようやく気づいたのか?」
「え? じゃあ何? ミーって……破壊の神?」
「せーかい」

 コルシカの言葉にシルコフは意気揚々と立ち上がる。

「なんだそうだったのか! よっしゃ! コルシカ! 何か破壊しに行こうぜ! このパワーストレスを解消しにな!」
「そうだな……けどジャパンポリスは賄賂効かないし捕まると面倒だ。その影響のないモノにするか」

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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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