第161話 運命の出会い?

文字数 2,955文字

「おっと……悪いな、お前ら。座らせてもらうぜ」
「それは構いませんが……」

 七海課長はヨシ君の隣に座ってから断りを入れて来た。別にそれは気にならないのだが、七海課長らしくない。

「相当参ってます?」
「まぁな」

 既に疲れたご様子。こういう時は鬼灯先輩なんかが話を聞いてあげてるのだろう。

「心労の原因は天月さんですか?」
「あ? お前も何か狙ってんのか?」
「い、いえ! ほら、抱えるよりも少しは吐き出した方が心も楽になるでしょう?」

 相当な疑心暗鬼なってる七海課長。オレは下心など皆無である事を弁明する。

「そうですよ。詩織先輩ほど頼りがいは無いかもしれないですけど……」
「事情を知っていればサポート出来るかもしれませぬ」

 泉とヨシ君の言葉に、お前ら……、と七海課長は少し楽になった様だ。

「それでは、つきまとわれる事になった細かい経緯からお願いしますぞ」

 ヨシ君はここぞとばかりに情報を集めようとしやがる。細かい所は把握してないんだろうなぁ。
 普段ならソレを察する七海課長であるが、今は藁にもすがりたいのか、ポツリポツリと経緯を話し出した。

「あのアホと遭遇したのは三年前だ。丁度、鳳が海外に行った直後だよ」





「うおー、デケー。ナポレオンのヤツもチビのクセにやるなぁ」

 家族での旅行。フランスの首都パリにて、エトワールの凱旋門を見上げたケイは素直な感想を述べた。

「俺はエッフェル塔の方が好きだなぁ。何か姉貴みたいに威圧があってこっちは苦手だ」
「お、言うじゃねぇか愚弟。お姉さまの愛の鞭をくれてやるぜ」

 隣で生意気な口をする(ノリト)にケイはヘッドロックを極める。割れる! 割れる! と叫ぶ二人は注目を集めた。

「ケイ、止めなさい」

 姉弟の仲の良い様を見て、微笑ましながらも他の迷惑になる前に母親が止める。

「痛てて……姉貴も少しはお(しと)やかになれよな。大和撫子が誤解されっぞ!」
「あ? んなもん、今の日本には居ねぇよ。夢見てんじゃねぇぞ」
「そりゃ、姉貴が一番程遠いからな。わかるわきゃねぇよ」

 あはは、待てや! クソガキ! 頭蓋割られそうだから逃げる! といくつになっても売り言葉に買い言葉が変わらない姉弟のに母親は頭を抱えた。
 スッと父親が前に出る。

「ノリト。上に登れるみたいだぞ。行ってみようか」
「マジで? 姉貴を見下ろすチャンス」
「ケッ、ちっせー男だな。だからリョウにもボコされんだよ」
「大宮司は関係ねぇだろ!」
「器で負けてんだよ、器で」
「はいはい、そこまで。ノリト向こうから上がれるそうだ。ケイ、母さんを頼むよ」
「はーい」

 まだリョウ君には勝てないのかい? アイツターミネーターみたいに硬いんだよ。と、二人はそんな会話をしながら歩いて行った。

「ったく……」
「ケイ。ノリトの言うことも一理あるわよ」
「母さんまで言うのかよ」
「ふふ。でも、楽しみでもあるわね。ケイが連れてくる花婿さんはどんな人なのか」
「頼りがいがあって、どっしり構えて、存在するだけで全く不安にさせない年上の男」
「お父さんじゃない」
「そーだよ。ファザコンだよ。でも、その理由は母さんが一番よく解ってるだろ?」

 父が最も愛した女性は母で同様でもあるだろう。

「プロポーズはあの人からだったけどね。一度断ったら、更に言い寄ってきて、お母さんびっくりしてビンタしちゃった」
「そうなの? 父さんは抱き締めたらオーケーしてくれたって」
「あらあら。後でお父さんの口から真実を語らせるわね」

 あー、こっちが正史か。とケイは納得する。





 父親は俺の事を目にいれたい程に可愛がっていた。知り合いの道場に通わせたり、男口調を許容しているのも、悪い虫を少しでも寄らせない為なのだと理解している。

 俺も家族を支える父と母を心から尊敬しており、反抗期は微塵も起きなかった。
 そして、父の代わりに母を護るのは俺の役目だと思っている。

「ケイ、何て書いてるかわかる?」
「わかんない」

 俺は母と凱旋門の内側に書かれた文字を見上げていた。
 七海家にとってフランス語は父以外には理解の及ばぬ言語だ。パンフレットも全部フランス語。
 父が弟と戻るまで雰囲気だけを楽しむか……

「戦歴ですよ」

 その時、横から声をかける男がいた。
 帽子にサングラス。ラフな格好で地味な見た目だが、体幹を見るにそれなりに鍛えてるとわかる。

「フランスの戦歴。とりわけ、あのナポレオンの記録が載っているのです」
「へー、そうなの?」
「はい」

 日本語で話しかけて来たからか母は安心して会話を始めた。俺は警戒心を緩めずにいる。いざとなれば(こいつ)でいいか、と母の側に。
 男は凱旋門をガイドし母親は上機嫌だった。母も楽しそうだし、まぁ悪いヤツじゃないか、と着かず離れずで傍観を決め込む。

「日本語上手ですね」
「血は日本人ですよ。育ちはフランスです。名は天月新次郎と言います」
「――え?」
「は?」

 その名前は前回のオリンピックで、フランス代表として陸上の三種目に出場した日本人の名前だった。
 三種目全て金メダル。内、世界新記録が二つと言う超人。フランス国内は勿論、日本でも話題の人物である。
 今もスポーツ界隈では最前線を走る“時の人”であり、フランスの英雄としても女王から表彰されていた。

「嘘だろ」
「はは。確かにそう思われてもしょうがないですね。何故、こんなところに? と言うのは俺からすれば良く向けられる視線です」

 ケイの疑惑な視線に慣れた様に笑う天月。

「正直な所、少々スランプでして。奮い立つ為に先人の威を借りようと」

 日本で言う願掛けみたいなモノです、と凱旋門に来た経緯を簡単に語る。

「苦労されてるんですね」
「頂と言うのは、他の注目を一点に集めます。普段はなんて事はないんですが、調子の波は人並みにありまして」

 と、俺を見てくる。グラサン越しでわかんねぇが、どういう視線だ?

「お名前をお聞きしても?」
「七海――」
七海恵(ななみけい)だ」

 俺は少し妙な予感がしたので母の前に出て自分だけ名乗る。

「七海……恵さん」
「悪いが家族旅行中なんでな。もう行く――」

 その時、天月は近づいてくると片膝をついて俺の手に手を差し出した。

「七海……いや、ケイさん。俺と付き合ってくれませんか?」

 その様をプロポーズだと思った取り巻き外人どもは、オー! と声を上げた。うぇ……

「貴女に俺の魂が反応しました。俺との未来を考えてもらえませんか?」
「考えねぇよ。まずは、その分けんかんねぇ地位を全部捨てて、一から平社員やって俺と同じ所に来てから言えや」

 俺は笑顔で出来もしない無理難題で返す。平たく言えば、お前はお断り、と言う事なのだ。俺はこういうヤツが一番嫌い。

「……なるほど。不躾でした。確かに貴女に相応しい身分と言うのはフランスには存在しませんね」
「ああ、そうだよ。わかったら大人しく次のオリンピックに向けてコツコツ走ってろ」
「わかりました! ケイさん! また、お会いしましょう!」

 何かに納得したように去っていく天月。
 あら勿体無い、と母。
 どうした? と降りてきた父。
 姉貴また何かやったのかー? と弟。

「面倒なのに絡まれただけだ」

 俺はこの時はすぐに天月の事は忘れたが、半年後に本社の一回ロビーで面接を受けに現れたヤツを見かけた時は、マジかコイツ、と社長に他の支部に飛ばしてもらった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み