第319話 お尻プレデター
文字数 2,554文字
オレはコンビニに寄ると“味はジュースと変わらないアルコール!”と書かれたレモンサワーを籠に入れる。
コイツでショウコさんを眠らせて、オレは外で寝る。……なんか普通に犯罪紛いな事を計画してる気がしてきた。
オレとしては恋愛感情を持って彼女を見れないのに、あっちがヤる気で迫ってきたら今度こそ理性が消し飛ぶ自信しかない。
そうなったら後はオレの中に潜む野獣がショウコさんを襲いかかり、皆不幸になってBADENDだ。人生にコンテニューが出来ない以上、それだけは絶対に避けなければならない。
「……それにしても……なんでオレなのかねぇ」
確かに窮地を救った事はショウコさんにとって、十分な加点ポイントだろう。しかし、しかしだ! それは偶然オレだったと言うだけで、誰が出向いても同じ感情を抱いたハズだ。
多分、佐藤や田中でも同じ形になったと思われる。まぁ、そこに至るプロセスで越えなければならない壁が高すぎると言う事もあるが。(特に
「…………やっぱり、ショウコさんと、以前の接点は全く無いなぁ」
考えても考えても、彼女とは昨日の夕方に会社の食堂で出会った時がファーストコンタクトだ。まさか……ミコ婆が裏で糸を引いている?
「……んー、無いか」
流石に考えすぎか。
色々と劇的な事が重なり過ぎでショウコさんの視野が狭くなってるだけだろう。逆の立場なら、オレだって好意を抱くかもしれない。吊り橋効果ってやつは映画でよく見る。よくわからんけど。
けど、一晩過ぎればきっと冷静になり、良い距離を保ってくれるであろう!
“リンカの事を少し真剣に考えてあげて”
わかってますよ、セナさん。明日には全て片付くのだ。一夜の過ちで全てを台無しにしては意味がない。
「とにかく、今晩を乗り切るぞい!」
お前ならやれるさ、鳳健吾。いざとなったら自分で自分の首を絞め落とせ。それで犠牲はお前だけで済む。
OKオレ。それは最後の手段と行こう。
後は適当にお菓子をポイポイ。ショウコさん、魚介類はいけるかな? 干物もポイ、と諸々籠へ。ゲームでもしながら酒に誘導する作戦だ!
「――」
棚を吟味していると、ショウコさんの要望の品が視界に映った。
「……」
いや……それは必要ない。必要ないぞ、オレ。相手をラブでもないのにそんなモノは必要ない。我欲を貪るだけなら、風俗にでも行けば良いではないか。わざわざ人間関係が破綻するリクスが高い選択を取るのは社会人としてあるまじき行為だぞ!
“アレはただの運動だろう?”
と、ショウコさんも言っていたし、運動なら別に他の事でも代用が可能だ。だが……いや……うーん……必要ない必要ない必要ない必要ない――
“君と確固たる契約をしておきたい”
思わず昨晩の無自覚なエロ攻撃を思い出してしまった。アレは厳しい戦いだった。何とか踏み止まったが、今晩も同じ事が出来るだろうか?
ふわん、と頭を過ったのは美人のショウコさんが薄着で布団に横たわる様。あとおっぱい。
すると、オレの中に天使と悪魔が現れる。
天使ケンゴ。
「ダメですよ、ケンゴ。そんなモノは必要ありません。貴方にショウコさんを傷つける事は出来ないハズです」
だよなぁ。それはオレも不本意だ。
悪魔ケンゴ。
「何言ってやがる。ショウコさんが良いって言うなら合意の上だろぉ? なら買っておくのが予防線じゃねぇか!」
うっ……確かに結果的に見ればどっちも不幸にはならない……か?
天使ケンゴ。
「この悪魔の言葉に耳を貸してはいけません。これを持っているだけでいつでもヤれると心のタガが外れやすくなります」
あ、それ困る。リンカやヒカリちゃんもそう言う目で見るようなったらオシマイだし……
悪魔ケンゴ。
「だーかーらーよ! それで良いんじゃねぇか! もし、ヤる気になってコレが無かったらまーじで取り返しのつかない事になるぜぇ? 天使のヤロウはそこんトコを全く理解してねぇな!」
天使ケンゴ。
「己の心を惑わす要素はなるべく抱えない事が重要なのです。ケンゴ、忘れてはだめですよ。貴方は誰かを傷つける為に生きているのでは無いのです。悪魔の言葉に耳を貸してはなりません」
悪魔ケンゴ。
「全く、天使ちゃんはお利口ちゃんだぜ!」
天使ケンゴ。
「貴方とは本当に相成れませんね。天使、行きます」
双方の母艦からMSに乗って出撃した天使と悪魔は、ズキュン! ズキュン! とビームライ○ルを撃ちながら戦い始めた。あ、ファン○ルも飛ばしてる。お前らNTだったのか。
オレは決着が着くまで傍観を決め込もうとしていた時、棚に置かれている避妊具の箱がカタン、と倒れてしまい――
「――よう」
棚の向こう側からこちらを覗く国尾さんと目が合った。
天使と悪魔は
「鳳! 葛藤するお前にコレは手に余る!」
「どぅおおおあ!!?」
オレはそんな声を上げて思わず後退り。下がり過ぎて後ろのコピー機に腰をぶつけて尻餅をついた。店員さん騒がしくてすみません……
「ほっほう!」
ぬぅ、とデイダラボッチの様に易々と棚を越えてオレを見下ろす国尾さん。
お、お尻プレデター!? なぜここに!? はっ! まさか……愛娘の事を危惧した名倉課長が刺客として送り込んで来たのか!? やっべー! 避妊具の棚の前に立ってる所を現行犯で見られた! 何も言い訳が出来ねぇ! ヤられるっ!!
「鳳よ」
「は、はいぃ!」
ずんずんと棚を回り込んで来た国尾さんはオレの前に立ち腕を組むと見下ろす。
「ヤるならヤれ! ヤらないならヤるな! そして、中途半端に悩むのならそこに愛があるかどうかで判断するのだ!」
国尾さんはターミネーターの登場シーンのようにしゃがむと、ショウコさんの要望の品を、コト……と籠に入れてくれた。え? なにこれ……どういう意図?
「衛生的にもあった方が良いだろう。店の迷惑になるから、さっさと会計を済ませてきなさい。外で待ってるぞ」
敬語が超怖ぇぇ……。そう言うと国尾さんはガーと開く自動ドアを抜けて外に出て行った。
その後会計にそのまま籠を持っていったが何も言わずに淡々と会計作業をしてくれた女性店員の鈴村さん(首から下げている名札を見た)はプロのコンビニ店員だと思った。