第397話 それを今から調べるんじゃ!

文字数 1,963文字

『フェニックスとは会いましたか? ビクトリア』
「えー、呼び出しってその事ー? マザー」

 二階のPC室にて、ビクトリアは椅子に胡座をかく様に座り、マザーとの通話に応じていた。

『貴女の事です。きっと衝突していると思いましてね』
「色々と聞いてたけどさ。ありゃ、イグルーとは似ても似つかないって。本当に息子なん?」

 ビクトリアはかつて、自分達のリーダーを助けてくれた人物としてケンゴの父親と会った事があった。

『ふふ。彼はどちらかと言うとアキラさんに近いかも知れませんね』
「ふーん。アタシは母親ん方は知らないから全然面白くない。皆みたいに好きになれないよ」
『ビクトリア』

 皆、ケンゴの事を良い人だと言う。しかし、ビクトリアとしては逆に違和感があるのだ。それに――

「だって聞いてよ! アイツ……ショウコとキスに風呂まで一緒に入っておいて、隣にまだ女の子いるんだよ? 死罪でしょ! 死罪! 男の中でもクズ中のクズ! アレがイグルーの息子とかありえないっしょ! 蹴り殺しとくね!」
『ふふ。それなら安心ね』

 笑うマザーにビクトリアは、ぱぁ、と笑う。

「許可くれるの?!」
『いいえ。貴方はフェニックスとは良い仲になれるわ』
「ゲェー。ないない、絶対ない。皆、騙されるって! ミツもこの場に居ればKILLサイン出すよ!」
『ビクトリア、彼の本質を知りなさい。貴女にはそれが可能なハズです』

 より、人の感情を見定める事に長けたビクトリアは、己の身をおく武術においても嘘や擬態を見抜き、その人物の本質を的確に見抜くだろう。

「正直、アイツと“ジョーゴ”したくない」
『最後の試験の様なモノなのです。フェニックスが我々の側に必要かどうか。上部(うわべ)の情報だけでなく、その本質を貴女に判断して欲しい』
「マザーがそこまで言うならやるけどさ……アタシはアイツを『ハロウィンズ』に入れるのは絶対に嫌だからね」
『全ての結果を加味して、貴女がそう判断したならそれでも良いでしょう』

 じゃあ、早速追い出してくる。と、言ってビクトリアはマザーとの通信を切った。





「これが、ユニコ君『Mk-VII』……!」

 オレはレツの隣に並んで件の最新スーツを見せて貰っていた。
 女郎花のタンカーに乗り込んだ時の『Mk-VI』は、外装の上からフードコートを着ており、それも必要なレベルの試作品だったのだ。
 対して目の前にある『Mk-VII』は完全に素の状態で佇み、魚の開きの様に胸部から股間までが開放されている。完全にアイアン○ンスーツ。

「くふふ。タンカーの一件によるデータにより、更なる完成度となったのが『Mk-VII』ですよぉ」
「具体的にはどう変わったんだ?」
筋力補佐(マッスルサポート)の効率化、駆動時の関節部の動きの緩和、対衝撃性能は16%向上してますねぇ。くふふ」
「おお。なんか良くわからんが、凄いのか?」
「今まで以上に動きやすく、重量を感じ難くなっとるハズじゃ!」

 サマーちゃんが告げる。ちなみにショウコさんはお昼の用意で場には不在。多分、野菜をザクザク切ってる所だろう。

「フェニックス。お主にはそれを着て貰う。『Mk-VII』の骨格は『Mk-VI』をそのまま流用したのでな! 他に合わせるのが面倒じゃ!」
「本音頂きましたよ……まぁ、そのつもりで来たから任せてよ」

 さて、PS5の為に一仕事と行きますかね。

「ちなみに、コレを着て何すればいいの?」
「アタシと“ジョーゴ”すんの」

 と、マザーとの通話を終えたビクトリアさんが戻ってきた。

「上戸?」
「ジョーゴだよ。さっさと着な。蹴り殺してやるから」

 え……? ジョーゴって殺し合いの事なん? 普通に嫌なんですけど……

「ジョーゴとは組手の事じゃ」
「なんだ組手かぁ」

 聞き慣れない言葉だけど、何かの格闘技の隠語かな?

「くふふ。カツとまともに“ジョーゴ”出来るのはメストレくらいですがねぇ」
「イメトレ?」
「日本で言うところの“師範”を意味する言葉じゃ。カツは相当な腕前じゃぞ」
「へー。ちなみに、何の格闘技なの?」
「カポエラじゃな。カツは研修生(モニトール)であるが実力は“準師範(コントラ・メストレ)”に匹敵するぞ」

 つまり、話をまとめると、これからユニコ君『Mk-VII』を装備して、ビクトリアさんと“組手(ジョーゴ)”をすると。そんでもって、ビクトリアさんの腕前は“師範(メストレ)”レベルじゃないと相手にならないと。
 そして、そして、ビクトリアさんはオレを蹴り殺そうとしてると。あれ? これって結構やばくない?

「サマーちゃん……」
「なんじゃ」
「ユニコ君『Mk-VII』ってどれくらい出来るの?」
「それを今から調べるんじゃ!」
「グダグダ言ってないでさっさと着なよ。ぶっ殺してやるからさぁ」
「くふふ。カツの蹴りは岩を砕きます。『Mk-VII』無しでは確実に頭が無くなりますよぉ」
「…………」

 今日に死ぬ可能性……普通にありました。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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