第127話 『忍殺』『猛虎!』『王龍!』『提督』『俯瞰』『一番艦』

文字数 2,168文字

「そう言えば知ってる? リン」

 昼休み。昨晩の心霊騒動にて、お弁当を用意出来なかったあたしは久しぶりに購買でパンを買って食べていた。

「最近、忍者が出没してるらしいよ」
「……なにそれ」

 あまりに唐突なヒカリの言葉に眉をひそめる。

「ほら、これ」

 ヒカリはスマホから話題の記事を見せてきた。

 “現代に忍者!? 迷惑行為な覆面男!”

 と言う見出しと、屋根の上で腕を組んで背筋をピンと伸ばし立っている覆面男のローアングル写真が一面を飾っていた。

「……コラ画像でしょ? 誰かの悪ふざけ」
「いや、本物らしいわよ。本物の変質者。ほら動画」

 ヒカリはYouTuberにupされた忍者を追いかける警察の動画を見せる。

『そこの男! 止まれ!』
『疾風迅雷! 拙者を捕まえるなど、500年……いや、100年早いわ!』

 腕を組んだまま、前屈みの物凄いスピードで走る忍者を警察が追いかける動画。
 色々とツッコミ所のある動画だが、あたしとしては何で年を言い直したんだろうと思った。

「で、何して追いかけられてるの? 忍者」
「下着ドロ」
「うわぁ……」

 動画の忍者の後ろポケットにはヒラヒラと見える女性物の下着。
 そして、タタンッ! と屋根の上に忍者は登ると家の向こう側に姿を消す。警察はぜーぜー言いながら、被疑者は西に逃亡――と無線も使い、かなりの人数で追っている事がわかった。
 並外れた身体能力。只者ではない様子が短い動画でもわかる。身体能力の高い変質者ってタチが悪いなぁ。

「なんでも、愛ゆえの行動とか、姫は失われたとかワケわかんない事言ってるって」
「共感できる人類はいるのかな?」

 どっから湧いたんだろう。別世界からでも帰還したんだろうか。

「最初は沖縄で目撃されて、段々北上して、今はわたし達の地域で目撃情報があるらしいよ」
「何で台風みたいに日本を横断しているんだろう……」
「パパが一人で絶対に出歩くなって言うくらいだから、放課後のホームルームで箕輪先生が何か言うかも。警察も周辺のパトロールを増員するって」

 警察官の父親を持つヒカリは、その辺りの情報は一般よりも早く伝わる。特に娘の生活圏の安全は優先的に確保したいのだろう。

「それなら安心だね」
「でも、目撃証言があってから何度も撒かれてるみたいだし。ちゃんと逮捕されるまでは油断は出来ないよ」

 リンも気をつけなよ。と言う親友の言葉。
 何せよ早く逮捕されれば良いな。と、あたしは購買で一番人気のないコッペパンを口に運んだ。





 早速、駅まで出向いたオレたちはスーツは目立つので上着だけ私服(社長の私物、文字記載Tシャツ)を着て駅に着ていた。

「今度こそだね、海」

 『猛虎!』とプリントされたTシャツの空さんが言う。

「そうだね、空」

 『王龍!』とプリントされたTシャツの海さんが言う。

「ヤロウ、ようやく出やがったか」

 『忍殺』とプリントされたTシャツを着た七海課長は殺気立つ。

「殺意高けぇなこのパーティ」

 オレはダイヤとヨシ君の他に木刀を装備した空さん海さんを増員してもらい、何故か七海課長も共に来ていた。

「あの……七海課長。仕事はよろしいので?」
「俺一人、半日抜けても課には支障はねぇよ。社長の許可も貰ってるしな」

“それは最優先の案件だな! 七海君、GOだ! あの時盗まれた下着の中で、何故か甘奈君の物だけ帰ってきてない! その事実も問いただしてくれ! 君も気になるだろう甘奈君! なぜ自分の下着だけが無いのか?!”
“しゃ、社長! あんまり大声で下着下着と連呼しないでくださいっ!”

「今度こそ、ぶっ殺す」
「いや……殺すのはマズイでしょ」

 パンッと手を打ち付ける七海課長は『忍殺』の文字も含めて完全にスレイヤーをインストールしている。慈悲は無いだろう。

「甘いよ、鳳君」
「そーそー、ヤツに沖縄で遭遇した時はきちんとブタ箱に叩き込んだのです」

 空さん海さんが左右対称の様でオレに言ってくる。

「確かに警察に連行される所まで見届けましたからなぁ。抜け出したのでしょう」
「普通にヤバい奴じゃん」
「ニンジャ、ヤルよ。ヴェイグと同じくらい、パルクールジョーズね」

 ダイヤはヨシ君に言われてYouTuberにある例の忍者マンの動画を見ていた。

「向こうにも似通った者が?」
「ああ。同僚のインディアンにパルクールの選手がいてな。多少の動きじゃダイヤは見慣れてる」

 ヴェイグが居れば忍者を取り逃がす事は無いかもな。
 休みの日に会社の面子でビーチに行くとき奴だけ、別ルートで行く、とか言って同時に別々で出発して車で出たオレらよりも早く現地に居てパラソル準備してたし。

「ウチに手を出して只では済まさねぇ」
「「同意です」」
「我が社の女性陣は頼もしいですな。フィジカルは十分ですぞ」
「暴走したら止めらんねぇぞこれ」

 この中で一番、位の高い七海課長が殺る気なのだ。フィジカル的にもオレやヨシ君じゃ止めらんねぇ。空さん海さんの木刀も下手すりゃ職質案件だぞ。

「その辺りは何とか致しますぞ。鳳殿は冷静に場を見極めてくださいませ」
「さらっと重要なポジションにされてる……」

 取りあえず、駅の中へオレらは向かう。
 ちなみにオレのTシャツには『提督』、ヨシ君には『俯瞰』、ダイヤには『一番艦』と言う文字がプリントされている。

 こんなTシャツ、社長はどこで手に入れたんだ?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み