第452話 下は何も身につけておりません

文字数 2,505文字

「姫! 某は暁才蔵と申す! 此度は主様より、悪熊(あくゆう)の討伐補佐を任命されたのです!」

 現れた忍者こと暁才蔵は、ユウヒちゃんに照らされたままアヤさんへ頭を垂れ、己の事情を説明する。
 だが、それよりも――

「いや……ちょっと待てよ、お前。お前は自ら檻の中へ入ったハズだろ? なんで脱獄してんだよ」

 お尻バスターから決死な思いで逃げたハズだ。もう、シャバに出たくないって思わせる程のお仕置きを食らってな。

「…………」
「おい。なんか言え」

 現在進行形で罪を重ねる才蔵は、オレの質問は耳に届いて無いって感じで、完全に無視している。このヤロウ……

「才蔵様」
「“様”付けなど……もったいなき! 才蔵と及びください! 姫!」
「私はケンゴ様と夫婦になる為にこの里へ来ました。私よりも彼の言葉を蔑ろにする行為は無礼に値すると思っていてください」

 構図だけ見ると、完全に江戸時代の一幕にしか見えん。

「も、申し訳ございませぬ! しかし、この暁才蔵……主様より、その影を見られるな、と命を受けておりまして」
「じゃあ何で出てきたんだよ」
「本物の姫君が日の本に戻られたのだ! 顔を出さねば無作法と言うモノであろう! わからぬか!!」

 わからねーよ。やっぱり、コイツは会話が通じねぇな。て言うか……

「お前、前は轟先輩の事を姫って言ってただろ。その設定はどうした」

 当時は作戦が上手く行って捕まえたが、野放しにしておくとヤバい奴なんだよ、コイツ。
 ちなみに、未だに盗まれた轟先輩の下着は行方不明だ。住所不定な才蔵の隠れ家を警察も見つける事が出来ずに、盗難された下着類の一部はまだコイツが隠している。

「わからぬか! 全くもって……わからぬか!!? うっ! 眩しっ!」

 クワッ! と眼を見開いて何故か本気でキレる才蔵。そして、ユウヒちゃんの照射に少し眼を覆う。くそっ、ムカつくなぁ、コイツ。

「人の心は人の数だけある! 故に甘奈姫も紛うことなき“姫”! それが……わからぬか!」
「いや……意味がわからんのだが……」
「言うなれば、“姫”と言っても十人十色! ツンデレ姫もいれば恥じらい姫も居るのだ! この一件が終わったら服役へ戻る前に、甘奈姫にも一度会いに行かねばと思っている。後、女児よ! ライトが眩しい!」
「ユウヒ、そのまま照らしとけ」
「うん」

 ゲンじぃの言葉にユウヒちゃんは己の役割をきっちりこなす。
 すると、アヤさんが先に前に出た。

「才蔵、貴方の主様とは?」
「神島主君の事でございます、姫」

 マジか。ジジィ……忍者と繋がってたなんて。里に居たときはそんな気配は微塵も無かったので、オレが出て行ってから関わりを持ったのだろう。

「あれは今から6年前……。ジーニアスと言う悪の組織に仕えていた我が一族の宿業『闇人(やみうど)北斎』との戦いの最中に出会ったのです」
「あー、その辺りのエピソードは今はいいや。オレらはこれから人命救助をするから、せめて邪魔しない様に引っ込んでてくんない?」

 ジジィと変態忍者との出会いはそこそこ興味のある内容であるが、今の優先順位はソレじゃない。

「そう、急くな。婿殿」
「……」

 婿……そのあたりの話は後にアヤさんとキチンとしよう。今は会話をスムーズに進める為に流して置くとする。

「此度は情報を持ってきたのだ。主様の死闘より、先程まで屋敷を見張っていた某の(まなこ)で見たモノをな」
「お、マジ?」

 正直言って、それはかなり助かる。
 ジジィと熊吉が戦った時よりも状況は動いている可能性も高かったし、何よりも敵の数がどうなっているのかが最大のネックだったのだ。

「だが……誠に……誠に心苦しいのだが、この情報は簡単に渡すわけには行かぬ」
「おいおい、どういう事だ?」

 姫だの何だの言っておいて、今さらなに言ってやがんだ。

「某とて迷っているのだ。この迷いを晴らす為にも……姫には一つ質問に答えて頂きとうございます」
「何でしょう?」

 アヤさんは何てこと無い様子で才蔵に応じる。なーんか、嫌な予感がしてきたぞ。

「その麗しき着物。その下は纏いをしておられるかどうかを教えて頂きとうございます。それで情報を与えるに足る姫がどうかわかりまする」
「?」

 何言ってんだ? コイツ? 場の皆が才蔵の質問の意味を即座には理解出来なかった。
 しかし、一番最初に意味を理解したのか、アヤさんは顔を赤くする。

「それは……回答が必要なのでしょうか?」
「是非とも!」

 むむ。なんか才蔵ごときに負けた感じになるのは嫌なのでちょっと意味を考えて見るか。
 着物の下の纏い……纏いって……おい。

「着物には下着など皆無! それこそが……真の大和撫子! 某の追い求めた本物の――」

 オレは目の前の才蔵(汚物)にシュッシュッとファブリーズを振りかける。

「ふざけた事を抜かしやがってこの変態が」

 子供も居るってのに何て事を質問しやがる。
 ぬお!? 眼によい香りが?! 何をするか! と才蔵は若干の目潰しを食らってキレていた。
 ちなみに、ユウヒちゃんと蓮斗は未だに才蔵の質問の意味を理解していない様子でキョトンとしている。ゲンじぃは、アヤさんの反応から察した様子で、才蔵を完全に犯罪者として認識していた。

「……私の事情をお教えすれば宜しいのですね?」

 と、アヤさんは恥ずかしそうにしつつも強い瞳でそう言った。

「いや……アヤさん。強い瞳で決意する事じゃ無いからね? 本当に何も言わなくて良いからね」
「私の目的はケンゴ様を無事に返す事です。少しでも不安要素を無くせるのならこの程度の羞恥心は安いものです」

 アヤさんも、かなり思い詰めてるなぁ。圭介おじさん……ちょっと真面目に育て過ぎだよぉ。
 すると、アヤさんがこそっと耳打ちしてくる。

「……本気になる必要があるので、着物の下は何も身につけておりません」
「……え?」

 そんな事を言ってくるアヤさんに驚いて少しフリーズしていると彼女は才蔵の前へ。
 そして、他には聞こえないようにその事実を伝えた。すると才蔵は、

「僅かにも疑い……申し訳ありませんでした!!!」

 と、地面に頭が埋るんじゃないかってレベルで土下座した。事が全部終わったら、取っ捕まえてお尻マスターに引き渡そう。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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