第220話 よりにもよって……君の想い人か

文字数 2,660文字

「そうなんだ。社員旅行に同行してるのね」
「はい」

 通路で出くわした七人は、邪魔にならない様にナガレの誘導で少し歩いた所にある自販機の密集する場所にいた。
 ロビーだと一層の注目を集めそうなので、少し狭いが角で話す方が良いと言うナガレの提案だ。

 そんな中、ナガレは唯一の未成年であるリンカが、こんなところに居る事情を聞いていた。

「て事は……親とか来てる?」

 少しコソッとした聞き方にリンカは違和感を覚えるも、違います、と土山と一緒に火防と黒船の邂逅に立ち会っているケンゴへ視線を向ける。

「彼の身内としてです」
「え? 彼って君にとっては何? 親戚のお兄さん? 母方とかの」
「お隣さんです。小さい時から面倒を見ててくれる人で……」

 少し離れた所で、大人の話し合い、と言って火防と向かい合うケンゴを見てリンカは無意識に笑みを向ける。

「凄いお節介な人です」
「ほー。いいね。君の青春は同学年じゃなかったか」

 微笑ましく笑いながら告げるナガレ。ケンゴとは最近、ケーキ屋さんで対面した時の青年だと覚えており、しっかりした考えを持つ好青年だと感じている。

「けど、歳の差は結構大変だよぉ? 妹扱いとか、されちゃってたりするんじゃない?」
「国会議員の人は女子高校生の恋愛事情に首を突っ込むのも仕事なんです?」
「あれ? オレが議員だってバレてた?」
「テレビに何度も映れば嫌でもわかります」

 図星を突かれて少し不機嫌になったリンカにナガレは、おっとと、と腫れ物を扱うように謝る。

「ごめんごめん。この話題は無しにするよ。でも、彼の名前くらいは聞いてもセーフ?」

 ナガレもリンカと同じ方向に視線を向けた。

「鳳健吾さんです」

 その言葉にナガレは驚きの眼でリンカを見て、次に冷めた眼でケンゴを見る。

「……へぇ」

 世界は思った以上に狭いねぇ。危険な程にさ――





 生きた心地のしない状況と言うモノは人生にとっては数多くある。
 仕事のミス。終わりの見えない作業。
 しかし……目の前のソレはまるでゴ○ラとウル○ラマンの戦いと言っても良い程の迫力があった。

「黒船。お前……誰の娘に触っている」

 ゴゴゴ……と、凄まじい睨みを効かせる火防議員。腕を組んで目の前のベンチで向かい合うオレらを見てくる。
 社長はいつもの様子だ。轟先輩は社長の隣で壁に寄りかかってスヤスヤ。オレは汗がだらだら。
 凄いプレッシャーだ……ヴォェ……息できねぇ……

「貴方のご息女ですよ! 火防先生!」
「……よくもまぁ……そんな軽口を叩けるもんじゃのう」

 社長は相変わらずだ。顔色一つどころか、現状を楽しんでいらっしゃる。スゲェ胆力だ。フランスの女王とチェスしたとか言う話はガチなのかもしれない。
 しかし、社長の余裕な様はオレにも息をする余裕を持たせてくれた。

「彼女には助けられっぱなしでしてね! こうして心行くままに身体を預けてくれる事は光栄の限りですよ!」
「身体を……預ける?」

 火防議員は火が出そうな程にワナワナと震えている。拳を強く握り今にも殴りかかりそうだ! オレはチラッと土山議員を見るが、彼は特に動く気配はない。ひぇぇ……どうしよう……

「火防先生。私は大切な者には隠し事は一切しないと心に決めて生きております。特に彼女に関しては包み隠さずに話すつもりですよ」

 トーンを落とした社長の物言いに火防議員は少しだけ握る拳が緩やかになった。

「……ふん。どこまで本気だがのう」
「本気の本気ですよ! 隠し事は無いですが、黙っている事はありますけどね! 彼女の睡眠時間とか! 寝付きやすい体位とか!」
「何い!? テメェ! それはどういう――」
「うるさいれすね……」

 自ら進んで爆撃地へ飛び込んで行く社長にオレがゲボ吐きそうになっていると、轟先輩が不機嫌そうに眼を覚した。
 口調から聞く限り、ステータス異常『泥酔』はまだ解消されていないご様子。

「お、おぉ。甘奈か。その喋り方はなんだ。公人の娘たる者、羽目を外し過ぎるのは――」
「うるさいれす!」

 キッ、と可愛らしく告げる轟先輩の言葉に、ピシッ、と硬直する火防議員。
 轟先輩ってあんまり反抗期は無さそうなイメージだからなぁ。

「おとーさんは何時帰ってくるれすか? おかーさんと一緒に待っててもずっと帰ってこないれす! だからおかーさん、居なくなったれすよ!」
「か、甘奈……」

 あ、ヤベ。これ……オレは聞いてて良いのかな?

「そんなに国が好きなら……国とけっこんすればいいれす! おかーさんの誕生日……帰って来なくて……わらひの誕生日も……帰ってこないおとーさん! 嫌――」
「おっと! 甘奈君! そろそろ行こうか!」

 轟先輩の言葉を遮るように社長は彼女を抱え、立ち上がった。

「そうれした! 寝るれすよ!」
「明日に備えるのだよ! ゆっくり休まなければね!」

 その様子に火防議員は何も言わない。それどころか何かを考える様に俯いている。

「火防先生、お先に失礼します」
「……おとーさん! がんばれれす!」

 感情の波が激しく上下する轟先輩は火防議員にそう言って敬礼する。それは警察の人への挨拶ですよー。

 そんな事を言ってる場合じゃない。離脱する二人に続く様にオレも、あ、失礼しますね、と会釈しながら言うと土山議員が代わりに、ご苦労様です、と言ってくれた。
 ゴジ○の目の前に置いて行かないで! ウ○トラマン!
 すると、阿見笠議員と話をしていたリンカも後ろから追い付いてきた。





「火防。大丈夫か?」

 リンカが離れた事で二人の元に戻ったナガレは少し項垂れる火防に声をかけた。

「……全くのぅ。若いっちゅうのは無駄にエネルギーが在りやがるわい」

 対して火防は少し嬉しそうに何かモヤが晴れた様な表情をしている。
 ナガレは火防の心情をある程度察し、娘との意図しない遭遇は悪い形には収まらなかったと認識する。

「なんじゃ? 阿見笠。お前、ワシが止まるとでも思ったか?」

 火防は立ち上がるといつもより肩の荷が降りた様な表情で告げてくる。

「いいや。お前が止まるならオウカさんの時に止まってるよ。甘奈ちゃん、いい人掴まえたじゃなーい」
「ふん……人の事言えるか」

 火防は名残惜しそうに歩いていく四人の背を見るナガレに告げる。

「あの男が鳳健吾じゃ」
「……あぁ。聞いたよ」

 普段とは違うナガレの声色に土山は少しだけ悪寒を感じた。しかし、火防は、やれやれ、と嘆息を吐く。

「お前も人の親じゃのう。阿見笠」

 そう言って歩き出す火防に何も言い返せず、参ったねぇ、と阿見笠は呟いた。

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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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