第306話 嘘おっしゃいな!

文字数 2,346文字

「じっ様」
「なんだ?」
「『古式』に奥義とか無いんか?」
「んなモンあるか」

 この時、オレは『古式』を武術か何かと勘違いしていた。

「元は弱者が生き残る術だ」
「じゃあ、自分よりも強い奴と出会うたら?」
「逃げえ」
「逃げれられん状況なら?」
「土下座して命乞いせぇ」
「それも通じん相手じゃったら?」
「いい加減にせぇ」

 と、ジジィはオレの頭を小突く。揚げ足を取るな、と言う事らしい。

「そんときは大人しく死ね」
「酷いのー」
「本来ならそう言うのと戦う事が間違いだ」
「でも奥の手とかはあるんじゃろ?」
「遠くから矢を射て」
「そう言うことじゃなくて!」
「じっ様や。意地悪せんと教えてやらんね」

 すると、ばっ様がお菓子とお茶を持って現れた。

「教えても理解は出来ん」
「頑張る!」
「……なら、今日から正拳突きを1日千回せぇや」
「なんじゃそれ!」
「それが奥義だ」
「嘘だぁ!」
「いや、ケンちゃんや。じっ様の言うことはマジでやで」
「えぇ!?」
「まぁ、騙されたと思ってやってみい」

 ばっ様の言葉も手伝ってオレはジジィに言われた事を里に居る間は毎日続けた。そして10年後、改めて問う。

「じっ様。いつになったらこれが奥義になるんだ?」
「それが奥義だ」
「……は?」
「その正拳を相手に何度も叩き込むと、どんな敵でも倒れる」
「ばっ様ー!」
「ケンちゃんや。じっ様は嘘言っとらんで」
「嘘おっしゃいな!」

 オレはその日から日課正拳1000本を止めた。






 皆が凄い凄いと評価する女郎花教理(おみなえきょうり)
 見てる限りだとそこまでのオーラは無い。まだジジィの方が怖いと感じるだろう。

 オレは歩いてくる女郎花に対し片膝をついて様子を窺う。

「貴様は決して船から降ろさん」
「ユニニコーンユココンユニユニユニ。ココーンココココーン(無断乗船は悪いと思ってるんでね。迷惑をかける前にさっさと降りますよ)」
「ふざけた事だ」

 まぁ……オレもこの音声はどうにかして欲しい。

「ユニ……(まぁ……)」

 オレは近づいてくる女郎花へ滑る様に蟹バサミでその脚を狙う。

「幼稚だ」

 女郎花はスッと横にかわす。生身ならそれで終わりだろう。しかし、『Mk-VI』ならここから次に動ける。

『無茶を要求しおって!』

 サマーちゃんは悪態を付きつつもオレの意図を汲んでくれる。腹筋と背筋、そして脚部の筋力を補助し、仰向けに近い状態から脚を女郎花へ跳ね上げる。

「ふん」

 女郎花は、余裕でかわす。オレは空ぶった反動を利用し、身体を起こすと蜘蛛の様な低い姿勢を目の前で取る。

「……」

 オレの目線は下。女郎花の見下ろす視線が背中に刺さる。さて――

「ユニコーン(何手まで読める?)」

 女郎花は見下ろすだけで攻めて来ない。オレとしてはどっちでも良かったので、こちらから攻める。
 その姿勢のまま足を狙って腕を伸ばすと、逆に女郎花はオレの顔面に蹴りに来た。
 横へ転がってオレは避けつつ、残っている軸足を取る――

「くだらん」

 女郎花は軸足でジャンプし、オレの削ぎ手をかわす。爪先で重心を取り、かかとを蹴って跳んだか? どんな反射神経だよ。けど――

「ユニユニコーン(こっちは決まった)」

 脚の筋力によって無理やり立ち上がると、タックルが決まる。

「そんなモノに意味はない」

 腕の力を入れ、コンマ1秒後には拘束が完了する瞬間、女郎花はタックルの勢いを殺さずに、そのままオレの身体を振り回して引き剥がした。

「ユニニコ……(おいおい……)」

 力を入れるタイミングを完璧に捕まれてる。だが、どれもコンマ数秒の力加減を完璧に見切らなければ完全に決まっていた。

「スポーツカーと同じだ」

 女郎花は態勢を整えるオレに言う。

「最高時速がどれだけ速くとも、カーブではスピードを落とさねばならん。私を掴まえたくば、もっと工夫せよ」
「ユニコーン(ご高説どうも)」

 さて……今のでオレが組み技を狙っていると刷り込めただろう。

「ユニユニユニユニ(もう一回付き合って貰うぜ)」

 女郎花は手袋を懐から取り出すと手にはめる。その最中、低い姿勢からサンボタックルにて迫る。

「はぁ……」

 呆れたヤツのため息。組みつけないと思っているのだろうが――

「ユニコ(残念)」

 脚部の筋力を最大にして強制停止。タイミングを計っていた女郎花は相変わらず平然としているが、先ほどと同じようにオレを引き剥がすつもりで差し出した手を取る事に成功した。

「ユニココココーン――(男とダンスの趣味はないが――)」

 女郎花の腕を引っ張る。純粋なパワーなら間違いなく『Mk-VI』の方が上。組み付けばその時点で詰みだと奴も理解しているハズ。

「……」

 案の定、女郎花は引っ張る手を抵抗する。その瞬間、地面に繋がれた鎖を連想させる程に奴は微動だにしなかった。
 コイツ……重心の動かし方がバカみたいに上手い。けど――

「ユニコーン(それでも詰みだ)」

 『地崩れ』。一つの紐のように伸びきった身体が緩む瞬間に相手の体を崩す――

「なるほど」

 その時、オレは足場が消えた様な感覚を覚えて思わず膝をつく。

「――ユニ……コン……(なん……だと……)」

 逆に『地崩し』を食らった……?

「人体の欠点を上手く突いた技だ。貴様に伝えた者は、さぞ高い練度を持った技術者なのだろうな」

 女郎花はオレの掴んだ手を逆に掴み返す。
 ヤツと繋がっているのは掴んでいる手の一点だけ。だと言うのに、オレは膝立から起き上がれず押さえつけられている。グギギ……

「貴様は技の練度が足りぬ。もし、腕を掴んだ瞬間に別の動作を混ぜるか、引き寄せるなどと言う、わかりやすい動作でなければ、結果は逆だったであろうな」

 これは合気道か? 全然動けない……下手に動けば腕を折られる。うごご……

「妙なスーツだ。まずは顔を見せろ」

 女郎花の手がオレの顔へと伸びる。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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