第325話 40秒で支度したまえ

文字数 2,401文字

「ん? おっおっ! 行けそうかい?」

 国尾は己のマッスルに問いかけるとグォン! と身体を起こした。特注のプロテインバーが満遍なく効いたらしい。

「ふむ……やはり、か」

 自身の身体がより高次元へ登った様を感じ取れる。やはり……ただ鍛えるだけではダメか。時に痛め付けなければ愛は実感出来ないと認識する。

「彼とヤり合えば更なる高みへイけるか……」

 国尾は蓮斗から貰った名刺を胸ポケットに仕舞うと首をコキっと鳴らしアパートの敷地で話しているケンゴと赤羽へ歩み寄る。





「度しがたいな」
「オレもこんな強行手段を一日に二度もやられるとは思いませんでしたよ」

 赤羽さんはジャックを気にかける様に抱えながらオレの話を聞いていた。

「白昼堂々、人を躊躇無く拐うのは正気の沙汰ではない。女郎花教理の様に国外へ連れ出そうとするのなら、多生の目は気にかけないがね」

 誘拐の仕方もどこか、突発的と言うか……女郎花の時に比べて雑な感じだった。

「ケンゴ君。君は主犯の一人と戦ったのだろう? どんな様子だった?」
「どんな、と言いますと?」
「君の思った事を教えてくれれば良い」
「……」

 舌打ち男が使ったのは間違いなく『古式』だ。考えられるのは、昔ジジィと戦って技を知っている人から継いだか、それよりももっと近い存在――

「……赤羽さん。貴方は事情を知っていると思うので言います。恐らく『国選処刑人』が動いてます」
「“神島”は機能していないのでは無いのかい?」
「祖父は引退し、ソレを正式に引き継いだ人は居ません。居ませんが……」

 祖父はある日突然、職務を降りたらしい。その際に多くの反発や排除する動きがあったそうだが、三つの楔を国に打ち込む事で黙らせたと言う。

「突如として空いた穴を国が埋めた可能性があります」
「……どこにでもあるお国の事情だね」
「そうなんですか?」
「君が知らないだけで、どの国にも一つや二つはそう言う組織があるんだよ」

 流石ハロウィンズ幹部。その辺りの事情はオレよりも明るいようだ。

「だが、彼の事を調べた時にマザーから絶対に“神島”には近づくなと言われた。ハロウィンズが日本から脱さなければならなくなると」
「……」

 ジジィ……そんなにヤバい人間だったのか。ただの猟銃マニアの老害じゃなかった。

「そんな彼がやっていた事を引き継いだ者、または組織があったとして、この一件に関わっていると?」
「恐らくは……」
「だとすれば少し規模が小さくないかい?」

 言われてみればそうだ。国の裏の裏側を歩くと言われている者達がこんな誘拐に駆り出されるのは違和感しかない。
 しかも『古式』を持っていながら不殺を主に動いていた。『空気打ち』で心臓を止める事もできただろうに。

 すると、ジャックが目を覚ました。少し困惑した様子でオレと赤羽さんを見ると、その腕から降りようと暴れる。

「あちらの詳しい事情はどうでも良い」

 赤羽さんはジャックを降ろして続けた。

「私の敷地に入り込み、身内の傷つけた事は度しがたい。きっちり姿を捉えて清算させる」
「……国が相手かも知れませんよ?」
「私からすればよくある事だよ」

 よくあってたまるかい。
 しかし、オレの回りにヤバい人多すぎない? リンカやヒカリちゃんが何だか遠い存在に……

「ほっほう! 鳳よ。無事か?」
「国尾さん」

 どうやら彼も再起動した様だ。しかし、国尾さんも負けることがあるんだなぁ。

「安心しろ、鳳。もうすぐ定時だ。イケるぜ」

 そういや、もうそんな時間か。
 国尾さんの制限(リミッター)が外れてオレも背後を気を付けなくてはならなくなる時間に突入する。

「君は……」
「国尾正義といいます! こっちが名刺です」
「……ふむ。ヨシ君と同じ所属だね」
「ヨシは後輩です! 信用できる筋だと思って頂ければ! ほっほう!」

 赤羽さんは国尾さんを味方認定してくれた様だ。オレは改めてスマホを取り出す。
 サマーちゃんにショウコさんの居所を調べて貰わねば。

「待ちたまえ、鳳君」

 すると、赤羽さんに止められた。

「サマー達に連絡する必要はない。これは我々の間で起きた事だ。我々の中に留める」
「ですが、ショウコさんがどこに連れて行かれたのか……」
「地元を探すのにわざわざ世界地図を見る必要はない。私にツテがある」

 と、自分のスマホを操作する赤羽さん。
 おお頼もしい。ハロウィンズ以外のコネを持っている様子だ。

「国尾くん。車は出せるかい?」
「ほっほう! なんなら援軍も用意出来ますよ!」
「ふむ。では頼む」
「おーまかせ!」

 と、国尾さんもスマホで連絡を始めた。
 オレは特にやることが無いので棒立ち。ジャックが近くに寄ってきて、オレの足を、ポンポン、と前足で叩く。取りあえず、イラっとしたので腹を撫で回す刑に処す。

「ああ、私だ。久しいなウィッチグリーン。君に頼みがある。前にハントレスの件で借りがあっただろう? それと相殺で良い。一人の女性の居場所を調べて欲しい。誘拐されてね。犯人は国かそれに属する者たちだ」

 色々と物騒な単語が幾つか出たけど、改めて考えるとヤバいのにショウコさんは拐われたなぁ。
 しかし、狂愛メールのヤツが誘拐を指示したなら国を動かす程のヤツって事か? それに……女郎花の様に崇拝的なモノでなかったら……暴行に及ぶ可能性もあるかもしれない。
 今更ながらオレの中にも焦りが生まれる。悠長に話している場合ではなかったかもしれない。

 すると、赤羽さんと国尾さんは同時に通話を終える。

「ナビを寄越すそうだ。40秒で支度したまえ」
「ほっほう! やったな鳳! レジェンドが来てくれるぜぇ! 後、信用出来るマッスラーが二人来るよ!」

 赤羽さんの件もスピード過ぎて衝撃だが、国尾さんの方が滅茶苦茶気になる。
 ウィッチグリーンにレジェンド。もう、情報量が多くてお腹一杯です。

「ショウコさん……多分すぐに帰れるよ」

 とにかく、色々とスピード勝負なのは変わらないのだ。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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