第550話 “掃除”に行って来マース
文字数 2,705文字
『ハロウィンズ』日本支部には支部のメンバーが全員集まっていた。
「これでよし。サマー、マザーはアレルギーとかは何も無いのか?」
「うむ。マザーは戦地上がりじゃからな。そう言ったモノは特にない」
『ハロウィンズ』の統率者である、マザーが唐突に来日すると言うことになった。
理由は恩人とされる人物が怪我をしたと言う一報を受けての事。
護衛にコード“ブルー”を連れて地図に無い里へ赴き、今はこちらに向かっている最中だった。
そんな事から日本支部の面々は万全を機して全員が集合した。無論、ショウコも対面する事になり、一人一品ずつ夕飯を作る事を取り決めている。
「私はサラダで、サマーはだし巻き卵焼きか」
「なめるなよ、ショウコ! だし巻き卵は奥が深い! 味付けもさることながら、綺麗に巻く為には長年の熟練が必要なのじゃ!」
「くふふ。フライ返しではなく、お箸で巻ける様になれば更なる次元にいけますよ、ナツ」
「むっ! デザートにプリンアラモードを仕立てたレツ! いつの日か必ずお前も越えてやるぞ!」
「くふふ。プリンは外国人に人気ですねぇ」
プリンやクリームを一から作って果物以外は全て手作りのデザート。レツは意外にもお菓子作りが趣味の一つだった。
「ナツ、よ! 完璧に仕上がった、ぞ!」
「おお!」
庭で
「完璧じゃテツよ。これ以上の米はこの世に存在しないわい!」
「ふっ、造作もな、い!」
ちなみに炊飯器はあるのだが、今回は可能な限り質の良いモノを用意する為に、皆が得意な腕前を振るっている。
「カレー出来たよー。ホントにさ、日本のルーで美味しいよね。何て言うか、万人ウケする味?」
ビクトリアは主菜となるカレーの調理を完了させていた。無論、彼女によるアレンジも入っている。
「良い匂いだ」
「お? ショウコわかる? これね、昔イグルーに教わった味付けなんだー。塩とか胡椒なんかで基本を整えて、現地の調味料で色んな美味しさが出るの。
「食欲をそそるな。後で私にも教えてくれ」
「いいよ、手取り足取り教えちゃう~」
カレーは万国共通で好かれる食べ物であると全員が納得する。匂いが周囲に広がるのはマズイので、ビクトリアはきちんと蓋をして換気扇も回した。
「今回はエージェント“ブルー”も来るからのう。後『フェニックス』も来る」
「げぇ、アイツは何の用なのさ」
「何でも話したい事があると。わしらとショウコにじゃ」
「私にか?」
「うむ。見せたいモノがあると言う事で詳しくは来てからと言う事にしておる」
「そう……か」
ショウコは嬉しさから自然と笑みが浮かぶ。
「アタシもメストレに会うの久しぶりだよー。久しぶりにガチのホーダーやろうかなぁ。フェニックスも巻き込んでさぁ」
「止めてやれ」
明らかに獲物を仕留める眼をしたビクトリアをサマーは諌める。
ビクトリアにとっての師匠でもある“ブルー”の来訪はマザーが来る事と同じくらい嬉しい事だった。
「で、ミツはどこに行ったのさ? アイツ、ドリンク担当でしょ?」
「む? そう言えば姿を見ないのぅ」
各々が料理に集中する中、いつの間にか姿を消している人物を気にかける。身長は高く、司祭服を着ているので見失う方が難しい人間なのだが。
「ミツか? さっき出かける所を見かけたぞ」
ショウコはミツが出かける所に声をかけたらしい。
“マイゴッド。“掃除”に行って来マース”
「って、言ってたな」
「なんじゃと?」
ショウコの言葉にサマーは訝しげな表情を作る。
「くふふ。掃除……ですか」
「ナツ、よ! ミツの任務、は! 日本で何かあるの、か?」
「いや……そんな報告は何も受けとらん」
「?」
「…………」
そんな面子の中、ビクトリアだけが何か思い当たる節があるように眼を反らす。その様子をサマーは見逃さない。
「カツよ。言わなければならぬ事があるのではないか?」
「な、なんの事かな~♪」
ビクトリアは口笛を吹きつつサマーの追求から逃れる。
「お主……よもや、『フェニックス』の事をミツに話したのではあるまいな?」
「その事なら私から話をしたぞ」
ショウコは、ちょくちょくメンバーの中で出てくる『フェニックス』と呼ばれる人物の事をミツから聞かれた事があった。
「頼れる人だと説明しておいた」
ケンゴに言われていたので、添い寝や混浴うんぬんの事は伏せて、二度の救出劇を得て、信頼に値する人間だと言うことを伝えている。
「ふむ。して、カツよ」
「んー? なにー?」
「お主……まさか余計な事を言ったのではないか?」
「んー、んー」
「雑に誤魔化そうとするな。お主も『ハロウィンズ』におけるミツの役割は分かっておるじゃろう?」
「ふむ。状況は良く分からないが……ビクトリア、何かマズイ事でもやらかしたのか?」
ショウコの言葉にビクトリアは更に眼をそらす。
更に、じっと視線を向けてくる淡々としたショウコの圧力に負けてビクトリアは、ケンゴがショウコと裸の付き合いをした事を伝えたと白状した。
「だってさ。真実をちゃんと伝えなきゃでしょ~? 『ハロウィンズ』に嘘偽りは無し!」
「なんと言う事を!」
よりにもよって、ミツをフリーにするとは!
サマーはスマホを取り出すとミツのGPSを確認する。反応は駅にあった。
「動いて、いない、な!」
「くふふ。これはターゲットを待ってますねぇ」
「カツよ! 今すぐ駅にフェニックスを迎えに行け!」
「大丈夫だって。マザーも来るし、流石に日本じゃ仕事しないっしょ」
「ミツを一般的な常識で図るな! お主が一番良く知っとるじゃろう!?」
ショウコが見るにミツはケンゴを迎えに行った様に思える。しかし、ミツをよく知るメンバーからすれば彼がどういう目的で動いているのかが分かっている様だ。
「わかったよぉ、もー」
「ダッシュじゃ! ダッシュ!」
靴を履いて、たったった、とビクトリアは駅へ駆けて行った。
「レツ、ドローンを飛ばせ! ミツのスマホに直接連絡を入れる! テツ! マザーに連絡し、状況を伝えよ!」
「くふふ。時間との勝負ですねぇ」
「余裕、が! 無くなった、な!」
「サマー、いまいち状況が掴めないんだが。最低限の説明を頼む」
急に慌ただしくなった面々にショウコは説明を求める。
「ミツは『ハロウィンズ』の
「掃除人って?」
「くふふ。組織内の裏切り者を粛清する者達の事です」
「掃除人、は! 時にマザーの命令を待たずに! 殺意与奪の権利を持、つ!」
「詳しい理由は追々説明するが、今の標的はフェニックスじゃ!」