第246話 全員参加OK!

文字数 2,282文字

 夕闇に河川敷が包まれ始め、皆はいつまで待つのかと疑問を抱き始めた。

「おせーな」
「何かあったのかしら?」

 七海課長と鬼灯先輩は社長と轟先輩の入った登山ルートを見る。
 すると、一羽のカラスが対岸の木に留まった。

「うお。何かめちゃくちゃデカイ個体が居ますよ」
「なんだあの化物……」

 オレと加賀が現れたカラスにリアクションしていると、

「ロー?」
「どうした?」

 鬼灯先輩がカラスを見て声を上げ、それに真鍋課長が寄ってくる。

「ねぇ、あれってローレライじゃないかしら?」
「……ここまで飛んできたのか」
「……あれってお婆さんの所に居たカラスですか?」
「え? リンカちゃん知ってるの?」

 リンカまで割り込める話であることにオレは驚きだ。

「お母さんにブレスレット作って貰った店にいたんだよ。あのカラス」
「確か……『スイレンの雑貨店』だっけ?」
「うん」

 街からここまで相当な距離がある。カラスの生態にはあまり詳しくないが、空域みたいな縄張りは無いのだろうか。

「あの子はローレライって言うの」
「うちの祖母さんが飼ってるカラスだ。放し飼いに近いが」
「カラスを飼ってるんですか……」

 『スイレンの雑貨店』。リンカの話では魔女が経営してるとか言っていた。何かの比喩かと思ったが真鍋課長と鬼灯先輩の(げん)からカラスを手懐けるヤバいヒトらしい。イッヒッヒ、とか笑ってそうだな。

「……鳥類は夜目が効かないので夜間に飛ぶ事は無いと思ってましたけど……」
「ローは特別だ。飛ばない時間帯は存在しない」
「昔から妙な所にあの子は現れるの」
「妙な所?」

 リンカが鬼灯先輩に聞き返す。それはオレも思う事だった。

「心霊的な現象の場所にね」

 鬼灯先輩の言葉に合わせる様に、ザザァ……と枝を揺らす風が吹き抜け、河川敷にいる全員の背筋を冷やした。
 ちなみにローレライは枝が揺れたにも関わらず微動だにしない。マジもんの妖怪とかじゃねぇのかアレ。

「すまないね! 皆!」

 懐中電灯を持った社長と轟先輩が戻ってきた。

「長く待たせて申し訳ない! ラストイベントを始めるよ!」





 外に設置した電子ランプが明るく感じる程に闇が濃くなった時間帯。
 山から帰ってきた社長は全員に向けて説明を始める。

「最後はズバリ、肝試しをやろうと思ってね!」
「はぁ? 肝試しだぁ?」

 さんざん待たせてコレかよ。と七海課長が怪訝そうな顔をする。

「昼は肉体を駆使した。故に夜は自らの精神を駆使するのだ! 甘奈君!」
「皆さんにはこの山道を進んだ先にある霊碑に行って、そこに置いたキットカットを取ってきて貰います」
「霊碑ですか?」

 オレは聞き覚えのないソレを社長に聞き返す。

「うむ。山は昔から死の象徴だからね! 少なからず事故が起こるし、ソレを供養するための霊碑はどこの山にも存在する!」
「でも……それを利用するって結構罰当たりな気が……」
「旅館の方にも確認しましたが、遊んで欲しいそうです」
「誰がです?」
「彼らが」

 轟先輩が、そう言うと風も吹いていないのに、ガサガサと木や茂みが揺れ、ローレライがカーと鳴く。
 やべぇ……今、背筋が超冷えた……

「おい、コラ! お前ら!」

 すると七海課長が声を上げる。

「キットカットをなんだと思ってやがる! ふざけんなよ! お前ら! キットカットをよぉ……何て所に……くそ!」

 え? なんだ? 七海課長まさか……

「ふっはっは! 大丈夫だよ! 七海君! 脱落者が出てもきちんとスタッフで頂く予定だ! 取るのは一人1個までだよぉー」
「そう言う事を言ってんじゃねぇ! お前ら絶体楽しんでるだろ! そもそもキットカットじゃなくて良いだろうが!」
「キットカットの方が良いのだよ! 彼らはお菓子の方が好きらしいからね!」
「だー! もー! そう言う事を言うんじゃねぇ!」
「七海課長……もしかして……」
「鳳……それ以上言うとぶん殴るからな!」

 若干涙目の七海課長に可愛い一面があるなぁ、と思ったが口にすると間違いなく拳が炸裂するので黙ってる事にする。

「辞退はアリですか?」

 加賀が手を上げて質問する。

「うむ。全然問題ないよ! しかし、この程度の恐怖は社会の荒波に揉まれた我々からすれば子供騙しも良い所だろう? 思い出したまえ諸君! 社会人生活において! 経験した修羅場は、目の前の闇に比肩するモノだったかね!?」

 ズバァン! と社長は腕を振って大袈裟なリアクションで皆に問いかける。
 新人の岩戸さんと高校生のリンカ以外は、確かに……言われて見ればそうだなぁ、と微妙に納得出来る理論だった。

「ここまで着いてきてくれてありがとう! 旅行最後のイベントだ! 全員参加と言うことで良いかな!?」
「…………」
「良いかな!? 七海君!?」
「うるせぇ!!!!」

 あ、社長はめちゃくちゃ楽しんでるな。何とか七海課長から言質を取ろうとしている。

「大丈夫だよ、ケイちゃん。二人一組で行くようにしてるから」
「遭難は恐いからね!」
「…………」
「おや? 七海君。怖――」
「行きゃ良いんだろ! 行きゃあよ!」
「OK! 全員参加OK!」

 何がOKだよ……クソがぁ……
 と、あからさまにテンションが下がった七海課長に鬼灯先輩が、大丈夫よ、と優しくフォローしていた。

「皆さん、こちらのクジを引いてください。同じ番号の人がペアです」

 皆が轟先輩の持つ箸立てから割り箸のクジを順番に引く。
 オレは正直誰とでも良いが、リンカは怖がりだから出来れば心臓の強い人間と組んで欲しいところだ。

「先にトイレに行っておきたまえ! “出る”らしいからね! 漏らしたら一生の恥だよ!」

 あ、これ相当ヤバいな。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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