第482話 君に色仕掛けか!

文字数 3,298文字

『久しぶりだね。ケンゴ』

 公民館に戻ったオレは謎に玄関近くに設置された固定電話を使って圭介おじさんに連絡をしていた。
 国際電話料金は滅茶苦茶かかる為に使わせてもらった。スマホでかけるとパケットが死滅する。

「久しぶり。おじさん……最初に言うけどさ」
『はは、何だい?』
「アヤさん、滅茶苦茶可愛い」
『ふっふっふ……はっはっは! そうかい。自慢の娘だ。そう言ってくれると私も嬉しい』

 おじさんの大笑いを取れたな。オレの一挙一動に喜んでくれたおじさんは今も健在らしい。
 おじさんと再会したのは海外赴任している時だった。しかし、あちらも仕事だった事もあってあまり会話をする事なく別れたのだ。
 少し声が低くなって、重厚感が増した以外は昔と変わってない様子にオレも親しみが戻る。

「自慢の娘なのは良いけどさ。許嫁って送り込んで来るのはちょーっとやり過ぎじゃない?」
『そうかな?』
「そっちじゃ婚姻は難しいの?」
『引く手数多だよ』
「相手があまり良い人間じゃない感じ?」
『皆、上流階級として紳士な振る舞いと礼節を備えた者達ばかりだ。『白鷺剣術』の達人も何人かはアヤの事を好いている』

 海外でも家柄も性格も問題ない相手や、武道に長けた者もアヤさんに好意を示している様だ。
 まぁ、里でも即効でジジィs'のアイドルになってたから、地元ではさぞ女神な事だろう。

「じゃあ、何でオレ?」

 まず、根っこがわかんないだよなぁ。アヤさんからすれば、それらの者達よりも数段劣る、会った事もないオレを選んだ理由が本当にわからぬ。

『さぁ、私に聞かれてもねぇ。アヤが決めた事だ。あの子に聞くのが一番良いだろう』
「いやさ……何か、ちょっと引っ掛かるんだよね」
『何がだい?』
「アヤさんの行動。積極的過ぎると思って」
『例えば?』
「……昨晩、二度も貞操を散らしそうになってさ」
『君から誘ったのかい?』

 圭介おじさんも意外だと言わんばかりの声を出す。

「ばっ様の策略にはまった形だけど、アヤさんから誘って来たんだ」
『アヤ……が?』
「そうだよ」

 あ、これあんまり言わない方が良かったかなぁ。と、オレが心配していると、おじさんは更に大きな声で笑いだした。

『ハッハッハッハ!! あのアヤが! 君に色仕掛けか! フッフッフッ……アッハッハ!』

 いや、今の話のどこに笑いのツボがあるのか、全くわからないんたけど……

『ふっふっふ……すまない。ふー、そうだね。どうやらアヤを『神ノ木の里』に行かせて正解だったようだ』
「いやいや、悟ってる場合じゃ無いって。オレなんかよりも、もっと良い人が沢山居るでしょ?」
『アヤは関わる者を“純粋”に等しく見ている。家族以外で誰かを特別だと思わないよ』
「おじさんがそう言う風に育てたからか……」
『いや、あの子の生まれ持っての気質だ。あの子はいつも妻の膝の上が定位置だったくらい母親っ子でね。私たちが与えたのは愛情と歩み方と教養だけだよ』

 彼女の“純粋”さは心の中の土台部分の更に下の地盤そのものであるらしい。

『ミコトさんからの背中押しがあったとは言え、『神ノ木の里』へ行く事も、君の妻になると言うことも、最後は全部あの子が自分で判断したんだ。少しでも嫌な素振りを見せれば私はどんな手を使っても止めさせるつもりだったよ』

 それくらいの力は持ってるつもりだ、とおじさんは海外で積み上げたモノを全て使ってでも家族を護る決意を電話口で語る。

『それに『神島』は『白鷺』を許すと言ってくれた。しかし、それは『白鷺』だけだ。私ではない』

 その辺りの詳しい話は知らないが……ジジィとおじさんの亀裂はそう簡単には埋められないのか――

「――そっか。だからか」
『ん? どうかしたのかい?』

 オレはようやくアヤさんの行動の意味がわかった気がした。考えてみれば単純な事だったが……それでも後一押しさせる理由がわからない。

奏恵(かなえ)おばさんはいる? オレ話した事は無いけど電話変わってくれない?」






「じゃあ、ここに打ったらどうする?」
「ソイツは、ここだろ」
「ゲンさん、そこ、角が効いてるよ」
「なに? 確かに……じゃあ、こっち――」
「そちらは飛車が列を睨んでおいでです」
「むぅ……逃げ場ねぇな」
「そう言うときは持駒を使うの!」

 ジョージは空腹感から目を覚まし、広間に出るとゲンがユウヒ達から将棋を習っていた。年齢差8倍以上の教授である。

「ん? よう、ジョー」
「あ! じぃ様!」
「おはよう、じぃ様」
「おはようございます。譲治お爺様」

 ゲンが気がつき、他三人も各々挨拶をする。

「食えるものはあるか? 腹が減って敵わん」
「トキお婆様がご用意されておられます。温め直しますね」
「すまんな」

 アヤが席を立ち台所へ。ジョージは空いた席に座った。

「6割って所か?」
「調子は良い」
「じぃ様。手は……」
「ちゃんと動く。ヨミでなければ使えんくなってたな」
「よかった……」
「ガハハ! アイツを連れてきた俺に感謝しろよ」

 右腕の傷はかなり深かったが、ヨミの腕前と即日の安静によって快方に向かっていると解る。

「将棋か」
「ゲンじぃちゃんが弱いから教えてあげてるの!」
「くっ……」
「どうしたの? ゲンさん。急に泣き出して」
「なに……ユウヒがようやく馴れてくれたのが嬉しくてな」
「え……あ、ごめんなさい」

 ユウヒは最初にゲンの威圧に怯えて居た事を思い出し、悪いことをしたと謝った。

「ユウヒ。気にするな。コイツは昔から小さい奴には怯えられていた。お前の反応は至極真っ当だ」
「おいおい、ジョー。人が気にしてんのを……相変わらずストレートなヤロウだぜ!」
「その様子だと、瑠璃にも最初は怯えられただろ」
「何故わかった!?」
「瑠璃って?」

 二人の会話から出てきた知らない人物の名前にユウヒは尋ねる。ゲンはスマホを取り出すと孫娘が歯を見せてVピースしてる写真を二人に見せた。

「うわっ! 可愛い!」
「ゲンさんのお孫さんかい?」
「そうとも! これが世界の宝であり、獅子堂家の天使であり、俺の孫娘でもある瑠璃だ! いずれ連れて来るから、お前達も世話を焼いてくれよな!」
「まっかせて! アタシが立派なレディにしてあげるわ!」
「元気そうな女の子だね。大和達と仲良く出来そう」
「ガハハ! 瑠璃はなぁ、園じゃ一番泳ぎが達者で最速なんだぜ! ありゃ、将来はオリンピックに出るぜ!」
「素敵なお孫様ですね」

 アヤがトキの用意した、食事を温め直して持ってくるとジョージの前に丁寧に置く。

「手をお貸し致します」
「いや、一人で食える」

 片腕でも利き手は無事なので、ジョージは箸を持つ。しかし、普段はお椀を持ち上げて食べるスタイル故に意外と不便だった。

「はいはーい! じぃ様! サポートしまーす!」
「片腕は不便だよ、じぃ様」

 ユウヒとコエはジョージの両脇に椅子を寄せるとスプーンやらを手に持つ。

「ガハハ。モテモテだな、ジョーよ」

 拒否すれば良いのであるが、何かと双子には目をかけているジョージは半ば強引に口の中へ食べ物を突っ込まれる。

「おかずとご飯は一緒がいいよ!」
「喉に詰まると危ないから、味噌汁もはい」
「お前達……少し間を置――」

 食べて食べて、と椀子蕎麦の様に、されるがままのジョーを見て、ゲンはガハハと笑い、アヤも微笑ましく見守る。

「あらま、珍し。じっ様が虐められるわ」

 そこへ、圭介との通話を終えたケンゴが玄関前に置かれた固定電話の前から戻ってくる。場の様子を見て、写真を撮ろうとスマホを取り出した。

 うけるー、写真とっておこっと。

「ケンゴ様。お電話はもうよろしいので?」

 スマホを取り出したケンゴを制する様に、アヤが絶妙なタイミングで話しかけた。
 ちなみに誰に電話していたかはアヤに伏せている。
 おっと、ジジィの面白い映像も貴重だが、アヤさんの方が優先だ。

「うん。アヤさん、それじゃ行こうか」
「はい」
「お? 二人してどこ行くんだ?」

 ゲンが気になって尋ねる。

「神ノ木ツアー」
「ガハハ! めっちゃ懐かしいな! おい!」

 ケンゴはジョージにも目を一度目を合わせて、軽く手を振って広間を後にする。
 アヤも場に一礼してその後に続いた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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