第643話 昔からあそこは魔界だろ?
文字数 1,923文字
「いらっしゃいませー。一名様ですねー」
世間的には女子高生と言う存在は腫れ物の様に扱われたりしている。それに関しては自覚あるし、あたし自身も彼が帰ってきた当初はソレを盾に彼へキツイ言葉を投げ掛けた事もあるくらいだ。
「注文はコーヒーセットですねー」
あれは今考えれば少しやり過ぎたか……でもなぁ……当時の彼は本当にこっちの気持ちなんか考えていなかった。色々と事情があったとはいえ……能天気な顔して再会した時、昔のように頭を撫でてきたのでつい手を払ってしまった。
「少々お待ちくださいー」
あの時、彼に対する苛立ちを抑えていれば、今でも“お兄ちゃん”って呼べていただろうか? ……お兄ちゃんって今呼ぶと結構ヤバいニュアンスな気がする……が……
「お待たせしましたー。コーヒーセットでーす」
じゃあ、何て呼ぼうかな……
ケンゴさん? これはショウコさんと被る。
ケン兄さん? ヒカリがそう呼んでるし……
ケンゴって呼び捨てにする? いやいや、それはちょっと……もうちょっとあたしが成人してからで……
普段から攻撃的な口調なのに今さら間は強いが……やっぱり、ちょっと特別な呼び方が出来ればなぁ。
「ヒカリ」
「どうしたの? リン」
「お隣さんの事、なんて呼べば良い? あたし的には距離が近くて、特別な感じが良いんだけど」
「リン……平然と仕事しながらそんな事を考えてたの?」
「え? そうだけど……」
「器用なモノね……」
とにかく、さっきのタイミングを逃したのは結構致命的なのではないだろうか? 文化祭が終わるまでにもう一回、顔を会わせたい所だが、流石に……
「そろそろね!」
「どうしたの? 水間さん」
商品の数を確認していた水間さんが唸る。
「そろそろ今日の分のお茶請け菓子が無くなりそうよ! 初日に比べて随分とペースが早いわ! あの時のオッドアイ幼女……サマー・ラインホルトが無料券と1000円札で店内の全員に私たちも含めて一杯ずつ奢ったのが原因ね!」
「あー、アレすごかったよね」
わしの奢りじゃあ! と、サマーさんは見た目以上に破天荒な振る舞いをして旧校舎へ行ったらしい。
徳道さんはお父さんを良い感じに接待出来た様で、あたし達はソレに手を出さず、ほっこりして眺めていた。
ほあほあした家族の在り方って感じを全員が思い出し、親父の肩でも叩いてやるかぁ、今日の茶碗洗い私がやろー、等と親孝行の精神を一部のクラスメイトが掘り起こされた。
サマーさんと徳道さんで正反対の現象が起こっているが、それが何か周りにウケた様で来客の興味が止まらなかったのも早期閉店の要因だろう。
「てことは?」
「後、二、三人で今日は店仕舞いね!」
商品が無くなるのであれば仕方ないか……不謹慎だが、これも文化祭の醍醐味と言うヤツなのかもしれない。
「じゃあ、今日はもうちょっとで終わりかー」
「今日は濃い客が多かったよなー」
「神父とか、サマー幼女とか」
「アレは完全に特異点のキャラだろ? 街中で見かけたら絶対に話しかけないヤツじゃん」
「幼女の方は前にユニコ君の商店街で見た事あるぞ?」
「マジ? どこに居たんだ?」
「ストレジェで64連勝してた」
「ゲッ、あの連勝スコアの記録、あの幼女だったんか」
「多分、商店街でジャック・オー・ランタンのヘルメット被って徘徊してるのも彼女だぞ? 入場する際にその被り物で現れたってさ」
「ユニコ君商店街の七都市伝説がどんどん解明されて行くなぁ。魑魅魍魎の集まりじゃん」
「昔からあそこは魔界だろ?」
「じゃあ神父もあの辺りを徘徊しとるんか?」
「可能性はあるな」
等と、クラスメイトは本日の混沌めいた客層を振り返る。
あたしは、家の関係でバイトはしないのだが、赤の他人を接客すると言う行為は、少なからず常識から外れた人と対応する必要性があると感じた。
社会人になるとコレが必然になるのかぁ。彼は毎日、この環境で頑張っているのであれば……
「やっぱり、親しみやすく“お兄ちゃん”が良いかな? どう思う? ヒカリ」
「……ケン兄とリンの距離が近くなって私も嬉しいけどさ。そう言う事は直接本人に確認すれば良いじゃん。反応を見れば、どう呼ばれると嬉しいかわかるっしょ」
「そんなものかな?」
「そんはモノじゃない? でもケン兄は、何て呼んでも喜びそうだけどね」
店が閉店したら捜しに行くかな。
本郷君の案内で旧校舎へ足を運んだオレは――
「……エイさん。なにやってるんですか?」
「ケンゴか! 見て解らないか!?」
バスローブ姿のエイさんと
ホントにさ……これって一般的な学校の文化祭だよね?