第652話 チームだったと言うのか!?
文字数 2,307文字
リンカはケンゴを捜してヤマを張った旧校舎を歩く。文化祭の終わりが近づく中、本校舎へ帰る生徒達とスレ違う。
「うーむ。外したかな?」
これはもう見つけられないか。そう思っていたら、
「む? リンカか?」
「エイさん」
美術部での一仕事終えたエイは肩に上着を担ぐ様にリンカと遭遇した。
「今日は妙にスレ違ってたな! お前の接客も受けてみたい所だったが!」
「そう言えば……そうだったね」
来ている事は知っていたが、本日の二人はコレがファーストコンタクトだ。
「まぁ、良い。私はヒカリの可愛い姿が見れた! 今度の特別号の舞台は完璧に決まったぞ!」
「どこに?」
「城だ!」
「……え?」
「キャッスル!」
「いや……それは分かるけど……」
どこでどんな写真を撮るつもり何だろう……。
「む? おお! シャークではないか!」
「JK!」
「あ、サマーさんとテツさん」
エイの後ろから本日顔見知りになったサマーが歩いて来る。エイは声のした方を振り向くと彼女を見た。
「……なんだ! このインパクトは!」
オッドアイに空色の髪と言うサマーを見てエイの第一声がソレである。リンカは、あっ化学反応が起こる、と察した。
「なんじゃこの身長の高い女は? シャーク、お主の知り合いか?」
「なんと言う力強、さ!」
「えっとね……ヒカリ……谷高光のお母さんだよ」
「谷高影だ! “身長の高い女”などと言う呼び名は止めて貰おうか!」
胸を持ち上げるように腕を組んでサマーとテツを見下ろす。
エイはテツよりも身長が高い。サマー側で言えばビクトリアと同じくらいだ。
「と言う事、は! 夫様はポリスです、か?」
「私の家族構成を知っているだと!? 君は一体何者だ!? 後、語尾に句読点を挟むな! 普通に喋れ!」
「すみません……」
ド正論で上から叫ばれたテツは素で謝る。すると、サマーが前に出た。
「わしの名はサマー・ラインホルト。覚えて置くと良い、シャドーよ!」
「なんて喋り方をしている!」
いつもの調子でドヤるサマーは思わぬエイの声圧に本能的にビクッとした。
「まだ幼いと言うのに! 一人称が“わし”だと!? それと、人を変なあだ名で呼ぶんじゃない! 癖になるぞ!」
「な、ななんじゃ!?」
たじたじのサマー。
エイさんの声って昔から力あるんだよね……。とリンカはエイが本気で注意している事を察する。
「そこの中年! 君とサマーの関係は触れないでおく! だが、図らずとも身内ではあるだろう?! 大人の君が、なぜきちんと注意しない!」
「え!? う……はい。すみません……」
「何を謝っとるテツ!」
「サマー! 何がお前をそうさせた!? 過去に一体何があった!? そうか! 愛だな! 愛が足りなかったのか!」
「んぐっ!?」
エイは食虫植物の様に、ぶわっ! と両手を広げるとサマーを己の胸に埋める様に正面から抱きしめる。
「なんて事だ……。そうとなれば、お前の口調も強気な発言も納得が行く。大丈夫だ。この場には敵はいない。私がしっかりと抱きしめてやるからな」
「ぬが!!」
サマーはエイのホールドが完全にかかる前に、胸を持ち上げると同時に下へすぽ抜ける様に離脱する。セナの時の経験が生きた形だ。
「やるな!」
「はぁ……はぁ……シャークの母親と同じで唐突に補食しに来おってからにっ!」
「え?」
リンカはサマーと母親のセナが既に会っていた事に驚く。
「シャーク……リンカの母親……セナの事か! “ママさんチーム”でもヤツは一番の子供好きで、あのハグは愛玩の側面がある!」
「なに!? あの、おっぱいはチームだったと言うのか!?」
「チームではない! 家族であり、三姉妹だ!」
「他にももう一人居るのか!?」
エイの言っている事はメチャクチャだが、サマーはセナに窒息死させられかけた事を思い出し、ぞわっと、同じ雰囲気を感じた。
「案ずるな! 私は分かりやすいぞ! 分かりやすくお前を抱きしめてやる!」
「ここまで来るとわしを抱きしめたいだけじゃろうがぁぁ!」
「あ! こら! サマー! 廊下を走るな!」
踵を返して逃げるサマーをエイも追いかけて行った。
ぽつん、とリンカとテツはその場に取り残される。
「……なんとも……まぁ……豪快なご婦人ですな」
「……気に入った子には抱きつくのが、エイさんなので」
あたしも始めてエイさんと顔を合わせた時は食らった事があった。
そう言えば、ダイキも少し怯える様にエイさんから距離を取ってたなぁ。アレは、窒息ギリギリの抱きしめホールドの洗礼を受けたのだろう。
ヒカリの抱き着き癖は明らかにエイさんの影響だ。
「“ママさんチーム”実は相当な組織では?」
「単なる私たちの母親の集まりですよ」
「最後の一人も曲者の予感がしますぞ」
「…………」
親しみ易さと常識で言えば、カレンさんが一番かなぁ。お母さんって言うよりもお姉さんって感じだし。
「そう言えば、鳳殿をお捜しだったりしますかな?」
と、リンカが旧校舎に居る様子から行動理由を察したテツは先読みで問う。
「え? そうですけど……見かけました?」
「占い部に居りますぞ。間も無く文化祭も終わりですし大した話は出来ないと思いますが……」
「いえ、ありがとうございます」
すると、テツのスマホが鳴る。相手はサマーだった。
『テツ! さっさと帰るぞ! わしはシャドーの追跡を撒く為に塀から外に出た! 受付でわしのパンプキンマスクを受け取って来てくれ! “この塀の向こうに居るな! サマー!” なんじゃ!? 天から声が聞こえる?!』
「我らがリーダーが危険なので小生も帰路へつ、く!」
「文化祭を楽しんで頂けたようで何よりです」
「鳳殿によろしく、だ!」
「はい」