第644話 泉『なに? トラックにでも轢かれた?』
文字数 2,425文字
本郷元親ちゃん。彼女は中々の雰囲気を持っている。
オレは26年の人生において、トップに立つ者が保有する“カリスマ”に幾度と接触してきた。
まずはウチのジジィ。知る人ぞ知る『
次に黒船社長。ふっはっはっ! 無限転倒スキル持ち。フィジカルも相当強い。議員相手に笑って喧嘩を売る。声がでかくて助かってる。(聞き逃す心配が無いので)
不本意だが女郎花教理。ショウコさんを狙うロリコン。光中毒。世界に展開する大企業『プラント』の社長。変態。
人の上に立つカリスマと言う点では他にもいるが(クラウザーチーフや鬼灯先輩とか)中でもトップ3を上げるならこんな感じだ。
そして、上記三人と同じ雰囲気を本郷ちゃんにも感じたのである。
「本郷ちゃんって生徒会長とかだったりした?」
「おや? “本郷君”から随分と可愛い呼び方に変わったね」
「あ、馴れ馴れしかったかな? 不快にさせたなら元に戻すけど……」
「構わないよ。生徒会長と言う話しだね。僕は風紀委員長だったんだ。その方が楽しそうにだったからね」
風紀委員って楽しいモノなんだっけ? オレのイメージでは生徒のふしだらな点を朝の校門前に立って注意する役職って感じだ。総じて真面目な生徒がやってて、その生徒は身内に警察官とかがいたりする正義マンな――
「僕の身内に警察官はいない。父は会社員で、母はヨガ教室を運営してるくらいだよ」
「……あれ? オレ、今声に出してた?」
「いいや。鳳さんはとても解りやすいね」
クスッ、と後ろ眼で微笑む本郷ちゃん。鋭い……オレの僅かな表情とニュアンスで心を読まれた……のか?
「風紀委員と口にすると誰しもが“堅物”“正義感”を想像する。それは社会に根付いたイメージなのだから仕方の無い事だ。故に、“風紀委員”と聞いて鳳さんがそう考えるのは至極当然の事さ。後は、そのつもりで話しかけて反応を見れば正解かどうか解るってこと」
つまり……オレが心を読まれたと思って返答するまで本郷ちゃんにとっては確定してなかったと言う事か。
なんなのこの
「本郷ちゃんの前では嘘はつけないね……」
「ふふ。鳳さんは解りやすいからね。僕でも読めない人間はそれなりに居るよ」
「例えば?」
「それは弱点を教えるのと同じだから、返答は出来ない、と答えておこうかな」
うむむ……手の平でころっころだな、オレ。しかし、その方が楽しめるってモンよ!
「それに僕よりも生徒会長に適した人間は居たからね」
ほほう! この学校の生徒会長は本郷ちゃんを越える傑物と言う事か!
「フォッフォッフォッ」
その時、ガララ、と横の教室が開き一人の老人が出てきた。
うぉ!? なんだ……このダン○ルドアみたいなジィさん。身長もオレよりもあるし、まんま、ハリー・ポッ○ーの世界から出張してきたようなキャラだ!
「これはこれは、大古場校長先生。漫研部にご贔屓ですか?」
「フォッフォッフォッ」
「え……校長先生であられますか?」
「フォッフォッフォッ」
オレの質問に校長先生はフォッフォッフォッと立派な髭を弄りながら笑う。
「えっと……鳳健吾です。身内が通ってまして」
「フォッフォッフォッ」
さっきからフォッしか言わないな、このジィさん。どうしよう……今まで無いタイプの異界人に遭遇した。今までの経験が全く役に立たねぇ! とりあえず……
「そ、そのお姿は……ハ○ー・ポッターのダンブル○アですよね? 凄い完成度だなぁ」
「フォッ?」
「鳳さん。校長先生はこれが標準の姿ですよ」
「ほ?」
「フォッフォッフォッ」
マジ? 世界には似ている人が三人は居ると言うが……もうコレ本人じゃん! やっべ……写真撮らせて貰っていいかなぁ?
「あの……良ければ写真を撮らせて貰っても?」
「いいよ」
「やったぁ!」
てか言葉……話せるんかい! と言うツッコミは心の中でやっておいて、撮影会っと。
校長先生にスマホを持って貰って吟遊詩人のコスプレをした本郷ちゃんも一緒に上からパシャリ。
中々のファンタジーに撮れたじゃなーい? この絵面だけ見ると、完全にオレが異世界召喚された図にしか見えねぇな。
“ダンブルドアと吟遊詩人♪”
ってタイトルで会社の同期組のLINEにその画像を載せたら、
加賀『お前、今どこに居るんだよ? USJ?』
泉『なに? トラックにでも轢かれた?』
ヨシ君『鳳殿は中々にファンタジスタですな』
等と返ってきた。
「フォッフォッフォッ」
と、手を上げて校長先生は歩いて再び徘徊へ。とんでもねぇ学校だぜ。て言うか、濃いキャラ多すぎだろ!
「鳳さんは流石社会人だね。校長先生があんなに上機嫌なのは初めて見たよ」
「え? アレ上機嫌だったの?」
「相当ね」
髭によって表情は解らず、音程とニュアンスが同じフォッフォッフォッは素人には全く心情が解りづらい。
本郷ちゃん並みの洞察力が無ければ関われない別の階層にいる存在……か。となれば――
「この学校の生徒会長は相当に曲者なんだね」
「そう思うかい?」
「そりゃもう」
本郷ちゃんが、自分よりも相応しいと称する程の人間だ。さぞ、英雄と言えるほどの存在なのだろう。オレも心して置かねばならぬ……
「ふふ。そんな北斗の○みたいなビジュアルじゃなくても結構だよ。生徒会長はとても親しみ安い人だからね」
「ッシャース! マジで助かりまーす!」
「気にするな! 私は私の使命を果たすのみ!!」
と、別の扉がガララと開く。そこから出てきたのは、チャラい雰囲気の男子生徒と――
「……エイさん。なにやってるんですか?」
バスローブ姿のエイさんが出てきた。
「ケンゴか! 見て解らないか?!」
「解るわけねーっすよ……」
こんな場面を見るとヒカリちゃんが卒倒するぞ……