第647話 黙れよブタ

文字数 2,670文字

 結局の所、本郷ちゃんと鬼灯ちゃんの王子、姫様構図は当人の二人が乗り気じゃ無かったので、最終的にはエイさんの『考える人』のポーズで落ち着いた。

「本郷先輩~。写真撮っても良いですか~?」
「いいよ。一緒に写る?」
「はい! あ……肩なんか寄せたり……」
「こうかな?(グイッ)」
「きゃー!」

 『考える人(エイさん)』を全員が10分ほど、クロッキーを行ったが、流石に誰も完成していない。皆、下書きの途中だ。

「これ、谷高さんの写真っす! 一枚10円でーす。完成させたい人はお求めを~」

 ジャラ浦君はここぞとばかりに動いていた。彼なら社会に出てもやっていけるねぇ。ちなみに、ジャラ浦君のクロッキーをちょっと覗いたら、なんかゲルニカみたいな解読不明のエイさんが描かれていた。うーむ。これは高度な芸術……なのか?

「良い仕事をした……これは完成させねば」

 そんな事を言う会長君のクロッキーをチラッと見る。すると、彼の絵は『考える人』のポーズをしたエイさんではなく、さっき前屈みに胸を持ち上げて谷間を見せてる構図を描いていた。
 マジか……彼、瞬間記憶能力でも持ってるのか? 普通に絵は上手いし、普段から色々と描いてそうだ。
 加えて『聞いているのか? 遠山!』って台詞が吹き出し付きで追加さられてるし。結構脚色入ってるな。

「かーいちょ、こんな所に居たんですねー」
「……」

 そして、後ろからツインテールの女の子に声をかけられ、会長君は時間が停止したように凍りつく。

「文化祭のMVPを選定する為に今の時間は生徒室に来いって言いましたよねー? 残りたく無いから早めに始めるって言ったの会長ですよー?」

 影のある笑みを浮かべてツインテール女子は会長君の肩を掴むとミシミシ握力を入れる。

「……辻丘よ」
「はーい♪ 何て言い訳……するんですか?」

 するんですか? で、どこからかハリセンを取り出して、手の平でパンパンする。
 そんな彼女にオレは何となく、リンカを思い出して少し背筋が冷えた。

「これを見ろ!」

 あ、会長君が谷間を強調するエイさんの絵を見せた。
 それはイカン! 絶対にイカン! 殺されるパターンだぞ! 案の定、ツインテール女子はゴミを見るどころか、ヘドロを見るような眼で、

「あ? 仕事から逃げて、こんな絵を描いてたんですか?」

 と声を低く罵る。しかし、

「“こんな絵”……ではないぞ!」

 クワッ! と会長君が吼えた。その圧にツインテールハリセン女子はちょっとだけ圧されて、すぐに剣幕を戻す。

「何を言って――」
「俺はここに芸術を求めて来たに過ぎん! 確かに形的にはサボったと言われてもしょうがないだろう。しかし……しかしだ! 無意味にサボったワケではない! 見ろ! 目の前のモデルに囚われずに想像を形にすると言う神の技術を! つまり、俺は絵師として更にランクを上げたワケだな! 今なら可能だぞ? あらやる映像を脳内で合成させ、巨乳な辻丘を描く事も――」
「黙れよブタ」

 会話を中断するように、縦に振り下ろしたハリセンがスパンッ! と良い音を教室内響かせる。ソレを食らった会長君は、ブブゥ……と前のめりに倒れた。
 しゅぅぅぅ……と頭から湯気を出して沈黙する。

「タケ、ガク。生徒会室へ運べ」
「イエッサー! 辻の姉さん!」

 と、後ろからガタイの良い生徒二人がマッスルポーズで二人現れて、会長君の脇を固めて持ち上げる。そのまま、ずるずると連行して行った。





「生徒諸君! 皆の完成品を私は是非とも見てみたい! 良ければSNSを相互フォローしないか!?」

 会長君の連行事案は生徒達の間ではデフォルトの用なモノらしく、皆全く意に返さない中、『考える人』ポーズを解除したエイさんがそんな声を上げた。

 “いいですよー”と始まった、エイさんと生徒達によるふれ合い交換会が微笑ましい。

「鬼灯先輩! 写真いらないっすか!?」
「いらないわ。構図は覚えたから」
「パネェ……」

 おっとオレは――

「あ、ちょっと良い?」

 鬼灯先輩の妹と思われる美少女に声をかける。

「鬼灯未来です」
「あ、鳳健吾です」

 ペコリと先に挨拶する鬼灯ちゃんにオレは返すように挨拶する。

「何かご用ですか?」
「用って程じゃないんだけど、あ、ナンパでも無いからね。鬼灯ちゃんってお姉さんとかいる?」
「います」
「名前は、鬼灯詩織さん。だったりする?」
「そうですが?」

 凄いなぁ。この子、表情筋が全く動かない。口だけが動いて淡々と言葉を放つNPCみたいだ

「えっとね。オレは君のお姉さんと同じ会社で世話になってるんだ。家族の君にも挨拶をって思ってね」

 謎に包まれた鬼灯先輩の家族。先輩から語らない以上、踏み込むべきではないのだが、目の前に身内の方が居るなら誰でも挨拶するっしょ。

「そうですか。姉がお世話になっています」

 ……鬼灯先輩の妹さんなだけあって、ビジュアルはシズカ(イトコ)に匹敵する域なんだけど、感情を感じられない口調は、面倒事をさっさと片付けたい雰囲気がチクチクくるなぁ。

「い、いや……お世話になってるのはオレの方だよ。ははは……」

 AI音声の様に声のトーンまで変わらない。何なんだろう、この子……本当に人間なのか? 無表情も相まって、感情が全く読み取れねぇ。ポーカーフェイスってレベルを超えて、他の表情がバグで用意されてないまである。

「おや? 鬼灯君。ナンパかい?」
「ナンパなのかしら?」
「いやいや! ナンパじゃないよ!」

 ミーハー女子生徒との会話を終えた本郷ちゃんがこちらへ声をかけてくる。
 話題が続きそうになかったので助かったが……校内で未成年へのナンパは事案になりそうなので全力否定せねば。

「そうかい? なら、そろそろお暇しようか、鳳さん。次のお客さんが来ているし。そろそろ僕の店に行こうよ」

 エイさんも大丈夫そうだし、オレも本来の目的へ向かうとするかね。

「姉は会社ではどんな感じなんですか?」

 それじゃあね、と一言告げようとしたら、機械アナウンスの用な一定のトーンで鬼灯ちゃんが聞いてくる。
 オレは会社で鬼灯先輩がどんな立場なのか教えてあげた。

「凄く皆から頼りにされてるよ。上と下の人、皆からね。なんて言うかな……そう、頼れるお姉さんみたいな感じ」
「――そうですか」

 お、少し嬉しそうな雰囲気を感じ取れた。すると、鬼灯ちゃんは頭を下げてくる。

「鳳さん。姉の事、今後もよろしくお願いします」
「それはもちろん。でも、オレの方が世話になりっぱなしなんだけどね」

 なんだ。マシーンじゃないのか。普通に家族の事も考えてる良い娘じゃない。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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