其の二百 青い風の希望

文字数 1,935文字

地に踏みしめる感覚は久しぶりだった
硬かったり、柔らかかったり、ゴツゴツしたり、ぺったりだったり
顔にあたる寒風さえ、生きているという実感を与えてくれる

「……。
私の地元を、よくもまぁここまで荒らしてくれたなぁ。
キョウコ先生にラック。
……。
もういないか。」

早妃は土砂くずれの起きた川沿いで腰を下ろす
感覚を奪う水を手のひらにすくい上げて、ぐびっと飲み干す
濡れた手は乱雑にスカートで拭き上げた

「11区か。
ハハハ。
無駄ね。
もう誰もいないもの。」

彼女はフワッと風に乗った――



-―――――――――――

24区

「共通テスト?」

「そうですよメアリーさん。
ご存知じゃありません?
なんか去年から大学の試験が変わったんです。
それも、はぁ…。
いままでと問題方向が変えたんですよ…。」

ナオミは顔をへこませながらため息を吐く

「おかげで、高校生全員とんでもないめにあいましたよ。
イライラしてくるぅ。
なんで、国語のテストで食われる豚肉の気持ち考えながら、ジジィって言われて…
数学では、イラストの男がカッコつけて黒マスクつけてくるし、
はぁ…。
心配です…、私って大学行けんのかなぁ。」

「大学かぁ。
私も行ってみたいなぁ。
聞いただけだけど、すっごく自由なんだよね?
単位とか大変って聞いたけど…。
でも無理だよね。
私、普通の人じゃないし。
目だって蒼いし…。」

「まっさか。
メアリーさんなら大学くらい行けますよ。
だって――
スッゴイ人なんですもん!」

メアリーの湿った顔に、ナオミはにこやかな笑顔を向ける

「あれだけ酷いことがあって、
いまいる24区だって廃墟になったのに、
メアリーさんたちがずっと手伝ってくれたじゃないですか。
べつに地元の人でもない…。
そんな人が、汗を流して一日中働いてたから、
私たちも下を向いてられないって思ったんですよ。
ここにいるみんなが、助けられたんです。
頑張っている人は報われるべきなんですよ。
次はメアリーさんが助かるべきなんです。」

「わたしが……。」

ナオミがふとスマホに目を向ける

「実はここに私の友人が来てくれるんです。
精神的にやられちゃって、入院してたけど退院したって聞いて。
あ、ここよ――
ここよーーーー!!!!

彼女が遠くのほうに向かって手を振り始める
その仕草だけで、どれだけ待っていたか分かってしまうほどに。

影が見え始める
揺れるているのは、束ねていない黒髪ロングのストレート
服装は25区高校の制服
首元にはアナログの赤いリボンが。
寒くないように着圧の黒タイツ。
シンプルなローファー

「久しぶり。
もう元気になったの…?
ラックもアヤカもいなくなって、寂しかったんだから…。」

「迷惑をかけましたナオミ先輩。
もう大丈夫ですよ。
この通り元気いっぱい!!
不満なのは…ブラが合わなくて、
おっぱいポジションが定まらないことですがねぇ。」

あはははと二人の女子高生が笑い合う

「カズミ、紹介するわね。
この人が私たちを手伝ってくれているメアリーさん。
めちゃくちゃ強くて、カワイイ人よ。
青い瞳が特徴だから、覚えやすいでしょ。」

ナオミの紹介に合わせて、
早妃はメアリーに近づいて目を合わせた
女性特有の分泌されるフェロモンは代行者となっても顕在なのか、
彼女は匂いを楽しんでるようだった

「………。
あなたがメアリーさんね。
はじめまして。
実はずっと前から会ってみたかったんだ。
でも都合が合わなくって。こうして会えたのはすっごく嬉しいの。」

「―――。
そう、あなたが早妃って人ね。
はじめまして。
こうして会えてすっごく驚いているわ。
わたしと会ってみたかったんでしょ?
2人で、すこし出かけない?」

ナオミは早妃とメアリーの距離感に戸惑う

「出かけるの?
すこしここでゆっくりしていけばいいのに…。」

ナオミの寂し気な声に、
メアリーは微笑みを浮かべ、

「心配しないで。
そこらへんだから。
すぐに戻ってくるからね。」

そして早妃に対して、空を顎で指した


………

……………


島の端っこに位置する【大瀬崎灯台】
剥き出しの自然の断崖絶壁、
そして隣国へとつながる太平洋が遮蔽物無くして広がっている

二人の女は、空中で向かい合った

太陽を背にした
早妃の表情は真っ黒な影に覆われていたが、
【慣れ親しんだ瞳】だけは、
メアリーをウンザリさせるのに十分だった

「さっきは、
ナオミさんを心配させたくなかったから言わなかったけど、
あなた【早妃カズミ】じゃないでしょ。」

早妃は、見下すよう顎を上に向ける

「ええ。
早妃カズミはすでに、
この世界を見限りましたから。」

彼女の肉体に熱を伴った気が集まり始める

「―――!?

焼き尽くす熱気は一瞬にして、
メアリーをさらいあげて、絶壁を真っ二つに縦断させた
大地が転がり落ち、
大海は荒波となり崖を侵食し始める

「だから、ここからは――
(オレ)による復讐の続きを始めしょうか。」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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