其の二十 ヒーローを救う存在とは……?

文字数 1,280文字

 ――四歳のときに父が死んだ。


 『神様はね、この世界に価値の無いものなんて生み出さないのよ……。
  皆、なにかを成し遂げるために生まれてくるのよ。もちろんあなたもね。
  でも、そのなかの

はね……人々を苦しめるの。それも自分ではなく周りの人たちをよ。
  ――あなたはそうなってはいけないのよ。あなたはこの世界に生まれてきてくれた、お母さんと、お父さんの自慢の娘なんだから。だから……どうか強くなって……強い人になって周りの人を、困っている人を助けてあげて……。どうか、お父さんのように、一人で勝手に逝かないで……。』
 お父さんは車にひかれてなくなったみたい。あいての人はお酒をのんでいたんだって。
 お母さんはないてた。わたしにしがみついてなみだをぽろぽろおとして、ずっとないてた。
 わたしはそれをみるのがきらいだった。おむねがいたいの。どこもおけがしてないのにおむねの内側がいたいの。いたいのをとりたいのにそこには何もないの。
 だからね、わたしはいたみも、お母さんも、どうすることもできなくて――


 いっときの時間は経ったけれども、この胸の痛みは治らなかった。うじゃうじゃと湧くアリを殺した。芝生にいるバッタを、土に潜っているミミズを踏みつぶした。八つ当たりとして蟲を殺したのだ。何度も。何度も…。
 ――そして私は、父から貰った手鏡を割った。父から貰ったぬいぐるみを壊した。父から貰った日記帳を破り捨てた。
 その後、深夜に家をこっそりと抜け出して、マッチに火を付けそれらを燃やした。
 新月だったのか、雲一つないのに辺りは闇に包まれていた。そのおかげか、炎が生み出す光の波はとても幻想的だった。――唇に塩辛い雫が染み込んだのを覚えている。
 それ以降私は強くなった。テストで満点を取り続けた。運動だってトップとはいえないけれど上位層までは入れた。
 母は喜んだ。今夜はご馳走ね‼、と言ってくれていっしょにキッチンに立った。それがとても嬉しかった。いっしょに料理をするのが、いっしょにテレビを見るのが、この上なく嬉しかった。
 勉強した、練習した、――部活に入ってエースになった。先輩に褒められ、後輩に慕われ、同級生には――
 『将来の役にも立たないのに、勝つことってバカみたい。』


 ある疑問を抱いた。たくさんの勉強をした。たくさんの練習をした。点数をとるために、チームを引っ張る存在へと為るために。
 ――ではそのあとは?
 高得点をとった、エースになった、……それで?
 私……これから何をすればいいの?
 ――繋がれたボールを打たなかった。飛んできたボールをとらなかった。
 ごくあっさりと高総体は終わっていた。
 ――コンコンと目の前のドアが小突かれた。
 「真っ当な生徒は、今頃自教室で放課後自学をしている。
  ――なぜお前たちはここに来た?」
 ……わからない、わからない――。
 どうしてだっけ?
 ねぇ……だれか私に教えて――?


 アヤカは物理室を通り過ぎていった。
 光を探す蛾のように歩き去った。
 どこへ向かったのか彼女にしか分からない。
 理由は――彼女にしか知りえない。
 
 
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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