其の六十八 リンフォン

文字数 871文字

カランっと半透明のヒンヤリとした氷は音を奏でた。

「美味いじゃねぇの。嬢ちゃん。」

鹿島は額から流れる汗を、白いタオルで拭き上げながら、はにかんだ様子で言った。

「――本当に来てくれるなんて、思いませんでしたよ。」


実のところ、8月末に彼女は文化祭へと誘ってい。
一方には、助けてもらったお礼を。
一方には、羽を伸ばしてもらいたいという思いを以て。



「……俺としても、本部に缶詰状態じゃあ頭が腐っちまうからよ。

お、これも注文できるかい?」

注文表に指された指を、ナナは確認する。

「チーズケーキ――思ったんですけど刑事さんって甘い物がお好きなんですね。」
くすりとナナは微笑んだ。

「おうよ。考えるためにゃあ糖分が必要だからな。」





「しかし、さっきのおっちゃんは警察なんか?

アロハシャツ着てて、

。」

ガチャガチャと調理器具を使いながらキンは呟く。

ナナは目を細めて、
「あの人たちにも、何か…あるんじゃないの?」
トクトクと冷たいオレンジジュースを注いだ。





ナナとキンが教室に戻ったとき、鹿島は一枚の資料とにらめっこをしていた。

教室内は、母親と子供、おじいちゃんおばあちゃん、男女の若いカップルなど、一層にぎやかなになっていた。


ただ、刑事の席は、空気の無い、真空のように、音がなかった。



「あの――お持ちましたけど……」
とりあえず二人は、オレンジジュースとチーズケーキを静かに置いた。

鹿島の目は、さっきとは異なってヌメヌメとして、突き刺すような鋭さをしていたのを
、ナナは見逃さなかった。

「うん?おお!!こりゃ美味そうだ!!」
気づけば、近所のおじさんのような、見慣れた目に戻っていた。

「んふふ、ではさっそく――」
押さえきれないといった感じに鹿島はフォークを持った。


「刑事さんや?これはなんです?」
皿の横に置かれた資料をキンは指さす。
ナナもまた、同じように目線を向ける。


数行の説明文の下に、どでかく『真っ黒な本』の写真が印刷されていた。


刑事に促されて、キンとナナは二人して手に取った。


刑事は渋々といった感じに口を開いた。

「お前ら、『リンフォン』ってわかるか?」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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