其の百五 汚れるから触らないで

文字数 2,595文字

【北通り】

「これは……」

あたりには北通りを警備していた隊員の遺体が散らばっていた
腕やら足やら胴体がバラバラになっていた状態で。

ルシフェルは空を仰ぐ。
木々にぶら下がっている腸と肝臓、心臓ごしに夜空からキラキラと欠片が落ちている。

(次元が破れた。
だが、目標の気も超鳥の気も感じない……

ったく、何がどうなってやがる。)

状況把握に努めつつ移動を再開しようとする。

「――何者だ。」

そんな彼の背後から大人子供男女、6人が姿を現した。

「―――――――――――」

「そこをどけ。」
諭すように一言発する。

「―――――――――――」
返事は返ってこない。代わりに12の目が朱く光った。

「そうか。
生きたまま精神を壊されたか。」
拳を握りしめた。

「―――――――――――」
合わせて3歳ぐらいの男児が幼児アニメのぬいぐるみが握りしめる。
その兄はバットを。
父親と思われる人はハンマーを。
母親と思われる人は包丁を。
祖母と祖父の者は農具ようの鎌を。

糸をひくようにぎこちなく態勢を取り始めた。

「悪いが時間がない。

声亡き祈りもまた神は拾い上げてくださるだろう。」

救済の代行者は一歩踏み出して拳を振り上げた。

――――――――――――――――――――――


【24区 三島班】

わーわーきゃーきゃー助けてー助けてーなにがおこってるのーカラスたいじじゃなかったのかーーわーーんわーーんさむいよーさむいーおかあさんおとおさんどこーーー

「しっかりなさい!!

まだ、まだ生きている人が大勢いるのよ!!」

三島が血まみれの手で男性警官の肩をゆする

「---し、しかし、三島けいじ、こ、これは、、」
体全体に返り血が滴るなか、警官が声を振り絞る。

三島の手にはベッタリと血がついたナイフと
地面には銃を持った老人が倒れていた。

ふと三島のスーツが引っ張られる。
「ねぇねぇお姉ちゃん。あそぼ」

「は……」

「あそぼあそぼあそぼあそぼーーーー====」
足元にいた女児の口が耳までさけてミミズのような触手が出始める。

「――ひ、、ぃやああぁぁぁあああ!!!」
女児の鼻と口に掛けてナイフを突き刺した。

確実に仕留めるため女児の馬乗りになって顔全体に指し続ける

「しね!!しね!!!平穏を乱す害虫はしんでしまえぇぇぇえッッ!!!

触手は脳みそと混ざってミンチへ、顔が穴だらけになった女の子はビクビクと指を震わせていた。

住宅街外れからワラワラと朱い眼が歩を進めてきていた

「はー、ハぁー……

早く動きなさい!!

私たちが取り乱したら警察どころか24区の市民全員が死ぬのよ!!

しっかり避難誘導しなさい!!」

恐怖かまたは寒さからか、白い息を吐きながら三島は叫んだ。

…………

…………………


わたしは、人を殺すために警官になったわけじゃないのよ……


力が抜けて片膝をつく。


――人命を優先して死ぬか、守るために相手を殺すか。
どっちを選ぶかって楽しみにしてたけどあなたには自明だったみたいね。


住宅街には生きた人間はもういない。
三島隊によって住民は避難したか、逃げ遅れて化け物たちに殺されたか。
辺りには住民と警官と化け物たちによって生まれた、肉塊が血液と体液のソースとともに散乱している。

――パニック状態とはいえやるべきことを部下に伝えて、一人で足止めするなんて
並みの人間にはできないわよ。

体液と血液のソースをレッドカーペットかわりに、
コツコツと真っ白なハイヒールと赤いドレスと華のような仮面が目に映された。

「う、そ……」

「ホント。

や、久しぶり。どうしたのそんな疲れた顔しちゃって。」



女教師は刑事と目の高さを合わせるよう、ドレスのすそをずらして座り込み、
ペタリと真っ白な手が三島の顔に張り付く。

熱っぽい顔にヒンヤリとした冷気が漂う。

「――それでどうしたのその顔は?」
はぐらかすように宮城キョウコは尋ねる。

「正しい選択したんじゃない?もっと喜びなさいよ。」

「ただし、い?」
三島が辺りを見渡す

「そうよ。

あなたがブレずに敵を殺して、部下に何をすべきかを伝えて一人足止めをした。
おかげで大半の警官隊と住民は避難行動ができた。

何も間違ってないわよ。」

はあぁあ……と三島は低いため息をついたあとナイフを振りかざした。

「なにが、『正しい選択』よ。

おまえたちがこんなことをしなければ、私たちがこんなに苦しむことも無かったのよ!!!」

ナイフは難なくキョウコに捕らえられる。

「そんな、そんな、、汚れた悪魔どもが、気安く触るなっっ!!!」
華奢な手を叩き落とし、立ち上がって後ろへ下がった。

「おまえのような、悪人がいるから、、頭のおかしいやつがいるから!!

周囲の人間が不幸になっていくのよ!!!」
腰につけた拳銃をとりだし、4発発砲する。

「産まれてこなければ良かったのに……!!」


三島の放った銃弾は、周囲から発生した水球によって阻まれた。

そしてキョウコは体を震わせている。

「産まれてこなければ良かった、か。」

刑事は弾を銃に込める。

「産まれてこなければよかった。産まれてこなければよかった。産まれこなければ良かった。

うふふふふふふふふふふふふふふふふ。
あっハハハハハはハハハハハハはハハハハハハ!!!!!!!!!!!!♡♡♡♡

わたしが!?わたしか!!!!そうよねそうだよね!!!!私ってたくさん人を殺したんですものね!!!そうですよあなたってやっぱり正しい人よね!!!!!だったら私は悪人になるわよね!!!!ね!!??ね♡♡♡♡」

「なん、なの、、」
星空を見上げながら饒舌となった彼女に対して一種の狂気を感じた。

あれは彼女自身なのか、それとも――

「っ――あぁああああああアアあああ!!!」
太ももに焼けるような鋭い痛みが襲い掛かった。

両足に二本の氷柱が突き刺さっている。血を吸っているのか徐々に赤く染まっていく。

「『自分よりも幸福な人間と不幸な人間が気に入らない』

超鳥にそういったけれど、他にもいくつか理由はあってね、『【正義】を壊したい』のよ」

「フうぅう……!ふうぅぅう――!!!!」
身体はあつくそして冷たい汗が滝のように流れる

「でも~~概念なんて壊せないじゃない?

だ~か~ら~【正しい人間】全て殺してまえば良いんじゃないかって思ったのよ!!!

そしたら必然的に【悪】なんてものも無くなって、悪人でも【正義】に追われない平和に暮らせる日々がやってくるのよ♡♡!!!」

そうしてキョウコは魔女のような鎌を氷で作りあげて三島刑事の首へ振るい落とした―――
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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