其の六十一 男の子のカッコつけ……!

文字数 1,084文字

9月16日 20区中央病院

「なんだか、遠くまで来た気がするのよ。

『ほこり!』とか『かりすま!』とか意味も分からず叫んでたのが

ずっとずっと昔のよう――そうは思わない?

スイ?」

薬液臭い廊下に、ひっそりと置かれている自動販売機に二人は座っていた。

「……。

 …。

昔の話だぞ、レン。

――やさしい人を演じるために「ハチミツ」などというふざけた名前をつけたんだろ?」

「スイこそ、学校では上手いこと聞きの良い後輩をやれてるじゃないの。
ところで分かったんだ。私のあだ名の理由。」
「六月にそれを聞いて――夏に入院したとき暇だからずーっと何かしらを考えてた。
どうでもいいことから、――……。」


「あー、ハチちゃんだぁ!ハチちゃんハチちゃん!!」
点滴をがしゃがしゃと鳴らしながら、小柄な女の子が無邪気に走ってきた。
「ユキちゃん…。」
ユキと呼ばれた女の子はそのままハチミツの膝に座り、頭をゆさゆさと嬉しそうに振った。
「ねーねー、またおはなしして?おはなとか、むしさんとか、お祭りのこととか!
それから、えーと、えーと――」
そうやって、やせ細った体でありながらも少女は元気よさそうに見せかけていた。

そんなユキの頭を、ひび割れたガラスに触れる想いでハチミツは撫でた。
「――そうね。せっかくここに来たんだし、あっちでお話しましょ。
夏の続き、聞かせてあげる。」
そういって、ハチミツはユキの小さな手を握ってその場を立ち去っていった。

一人、スイは取り残される。

「わかってはいても、そういう風に繰り返すんだな。」

カコンっとスイは、飲み切った缶をゴミ箱に捨てた。







「いででででッ!!
じっちゃん先生!わかったからこれ以上きつく包帯をしめないでえええ!!」
「まったく、最近の若いもんはすぐに音を上げ追って。わしのわかい頃は~~」
そう老人の医者はクドクド言いながら、ソウマの包帯を巻きなおしていった。


「こっちとしても『まったく』と言いたくなるわ。泉君。」
そして、そよ風に髪をなびかせながら、ベッドの横に宮城キョウコが座っていた。
「明日には、文化祭があるっていうのにここまで派手にやる?」
キョウコはため息まじりにコメントした。
「ははは、返す言葉もありませんね。」
キラキラと真っ白な床が金色に輝く。
「ただ、なんか我慢できなかったんです。
なんか……、なんででしょうね~。」
ソウマは、ヘラヘラと笑って誤魔化した。

「男の子っていつもそうよね…。」
キョウコはいつしかの『男』を目で追った。

「大丈夫ですって先生!明日の文化祭には必ず行きますんで!!」

ガラスように

彼女の瞳に映るように、
ソウマは包帯まみれの手でグッドサインを作った。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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