其の七十六 雨宿スイと諫早ナナ
文字数 981文字
あの夏――俺はとにかく走ったんだ。
片腕で、頭を打ち付けて気を失ったハチミツ を
折れたもう片方の腕で、泣き叫ぶ早妃カズミを抱きかかえて。
『娘を――カズミをお願い。』
早妃カズミの母の言葉を噛みしめながら、俺は病院へと走ったんだ。
――――――
――とても怖かった。
でもそれ以上に俺は
スイの希望により、二人は学校の奥へと移動していた。
普段は生徒が行きかう廊下ではあるが、文化祭の都合上『立ち入り禁止区域』に指定され、二人の乾いた息遣い以外に音は存在しなかった。
「………。
…。」
彼女は戸惑いを覚えた。
不良たちから助けてもらったときから、違和感を覚えた。
余りに感情のままと。
殺す勢いで殴り倒し、そうかと思えば、刑事にギャグを飛ばしたりと
それが、冷夏事件での『信じたくなかった』というセリフによるものだとしたら。
『事件』を信じたくなかった、というニュアンスなのだろうか。
それとも全く別の
『なにか』を信じたくなかった、ということだろうか
「すまないね。
こんな情けない姿を見せちゃって………
『魅力 』をモットーにしてるってのにこれじゃあ……」
スイは両手を揉んで、ゆっくり息を吹きかけていた。
冬をイメージするような動作であった。
「………」
「!?………」
ナナは、そんな彼の両手に、己の真っ白で華奢な手を被せた。
「私には、スイ君が必要とする言葉は分かりません。
ただ暖かさぐらいは与えられるかなって。」
「う、うれしいけど、
き、きもちだけでじゅうぶんだよ。」
うれしさと恥ずかしさからか、スイの顔は赤く染まっており、
彼女の手を振り払おうとした。
が、彼女は頑なに手を放そうとはせず、逆にスイの体を抱き寄せた。
「あ――あ………」
彼の目には、彼女の肌色一色のうなじが視界を染め上げていた。
彼女のメイド服の衣装らしき、黒色がチラチラと見え隠れし、
彼の頭を――
脳みそを
その中枢を支配するように、『女』の匂いが彼の中になだれ込んできた。
「スイ先輩は
でも……、
私は、『あなたを助けない私』を許してくれないみたいです。
私 の気が済むまで抱き着いても、いいですか?」
「―――――」
彼女は、彼の服の隙間から体を覗きみた。
思ってた以上に小柄な身体を
打撲傷と引っかき傷、切り付けられたような生々しい傷を
「ねぇ先輩。
この後、私と踊ってはくれませんか?」
片腕で、頭を打ち付けて気を失った
折れたもう片方の腕で、泣き叫ぶ早妃カズミを抱きかかえて。
『娘を――カズミをお願い。』
早妃カズミの母の言葉を噛みしめながら、俺は病院へと走ったんだ。
――――――
――とても怖かった。
でもそれ以上に俺は
信じたくなかったんだ
。スイの希望により、二人は学校の奥へと移動していた。
普段は生徒が行きかう廊下ではあるが、文化祭の都合上『立ち入り禁止区域』に指定され、二人の乾いた息遣い以外に音は存在しなかった。
「………。
…。」
彼女は戸惑いを覚えた。
不良たちから助けてもらったときから、違和感を覚えた。
余りに感情のままと。
殺す勢いで殴り倒し、そうかと思えば、刑事にギャグを飛ばしたりと
それが、冷夏事件での『信じたくなかった』というセリフによるものだとしたら。
『事件』を信じたくなかった、というニュアンスなのだろうか。
それとも全く別の
『なにか』を信じたくなかった、ということだろうか
「すまないね。
こんな情けない姿を見せちゃって………
『
スイは両手を揉んで、ゆっくり息を吹きかけていた。
冬をイメージするような動作であった。
「………」
「!?………」
ナナは、そんな彼の両手に、己の真っ白で華奢な手を被せた。
「私には、スイ君が必要とする言葉は分かりません。
ただ暖かさぐらいは与えられるかなって。」
「う、うれしいけど、
き、きもちだけでじゅうぶんだよ。」
うれしさと恥ずかしさからか、スイの顔は赤く染まっており、
彼女の手を振り払おうとした。
が、彼女は頑なに手を放そうとはせず、逆にスイの体を抱き寄せた。
「あ――あ………」
彼の目には、彼女の肌色一色のうなじが視界を染め上げていた。
彼女のメイド服の衣装らしき、黒色がチラチラと見え隠れし、
彼の頭を――
脳みそを
その中枢を支配するように、『女』の匂いが彼の中になだれ込んできた。
「スイ先輩は
強い人
ですから、周りの助けはいらないのかもしれません。でも……、
私は、『あなたを助けない私』を許してくれないみたいです。
「―――――」
彼女は、彼の服の隙間から体を覗きみた。
思ってた以上に小柄な身体を
打撲傷と引っかき傷、切り付けられたような生々しい傷を
「ねぇ先輩。
この後、私と踊ってはくれませんか?」