其の十二 遠足(結句)
文字数 2,197文字
現在地 ( 学校 )
「それでなんで集合時間に遅れたのか、教えてくれません?」
「……。」
「一時に集合して、それから学校に戻るって分かってましたよね。」
「……はい。」
「もしかしてまた、自分に酔ってたから、って言いませんよね?」
「――」
「これ資料室に持って行って下さい……‼」
ここにドンっと待ち構えた風貌を錯覚させる資材がある。それを職員室前の机に残したアヤカはビシッと吉田を指さしたあと、ツカツカと夕日が乱射する廊下を歩き去っていった。
吉田は前髪かき乱すように、右手を髪ごと額に押し付けた。
「あぁ…、やっちまったーー…。」
一人愚痴をこぼす。職員室はチマチマと教師がいる程度だった。資材を運ぶためにすこし膝を曲げる。反射した夕光が目に刺さる。指を下に潜り込ませて、
「エイやっ!」
気合を入れて持ち上げた。
「~~~~‼」
よたよたと、もたつきながらも資料室へと歩を進めた。上に乗っている荷物を落とさないように慎重に運ぶ。
「~~。フゥ。」
ドアの前にはついた。あとは中に入って資材を置けばこの事(ばつ)は終わるだろう。
(どうやって開けるべきか。)
わざわざ下に置くのも面倒だった。しかし、それ以外の選択肢がないのは分かってはいたため仕様がなく置こうとした。
「先輩、手伝いましょうか?」
硬い声が聞こえたため、吉田はふと左を見た。
薄いプリントを片手に持ったカズミがマネキンのように立っていた。
「……お願いしても?」
そういうと、カズミはドアをガチャりと開いた。そこに吉田が駆け込んでドスンッ‼と資材を振り落した。
室内は電気がついておらず、ろうか同様に、夕日が差し込んでオレンジ色に彩色されている。
「――っああぁぁー……重かったぁー…」
吉田は手をぶるぶると振って、肩を回す。
「……ありがとね。」
吉田は芯のないお礼を言った。
「いえ、では私は行きますね。」
そのまま出ていこうとする彼女に対して、吉田は待ったをかけた。
「なんです?」
普段通りの声ではあったが、それは吉田の申し訳なさを搔(か)き立てた(たてた)。
「……ご、」
喉の奥から絞り出すように吉田は言う。
「…ごめ、」
「……。」
カズミはそれを無言で見守る。
「ごめんなさい……。」
言い切った脱力感のまま吉田は頭を下げた。
しばらくの沈黙
「もう気にしてませんよ。」
手に持っているプリントを、整えるように撫でながらポツンとカズミは言った。
「あのとき、カッとなったのは私の身勝手な行いでしたから…。」
「お遊びが過ぎたのはこっちだから大丈夫だよ。
じゃあこれで仲直りって感じかな……?」
こくんっとカズミは頷いた。
「――っシヤぁ!」
よほど嬉しかったのか吉田はガッツポーズした。
(そんなに喧嘩っぽいことしたかな……)
カズミはそう思いながらも質問した。
「そんなに、嬉しい、のですか?」
「もちろん。」
間髪入れずに吉田は答える。
「せっかく後輩の女学生と仲良くなったんだもの、このまま気まずい空気に関係になって蒸発されちゃったらぁ…オレ泣いちゃうよ‼」
男の矜持(きょうじ)を微塵(みじん)も感じさせないくらいに、手足を慌ただしくさせた。
「でも、これでスッキリとさせたし気兼ねなく物理室へと誘えるよ。なっていったってあんな無機質の部屋に男と…よくても黒猫の二人しかいない状況って……。だから君が必要だ。」
「告白ですか?」
「誘ってはいるな。」
「殴りますよ。」
ははは、嬉しそうに顔をほころばせながら吉田は部屋をでた。
「っ…。ホントに…‼先輩は、死んだのですか……?」
廊下を歩き去っていく吉田に、言葉が喉から出ていた。
吉田は振り返りカズミのいる方向を見た。その表情は逆光で予測はつかなかった。
午後十時四十九分
ある港付近の海岸で、屈強な九人の男たちは血まみれで地面にころがっていた。
「うぅ……」
「いてぇよ…だ、だれか、たすけてくれぇ……」
うめき声が散らばっていく中、ただ一人立っていた男は地面に倒れてる人間を、羽虫を踏みつぶすように歩いた。
そうしてリーダー格と思われる男の首を、その剛腕な腕一本で掴み上げた。
「おい、吉田ミョウという名を聞いたことがあるか?」
「誰だそりゃあ……。き、きいたことねぇ…よ…」
「そうか。」
返答をきくと、その男を真っ黒な海に投げ落とした。
「ガ――~~~た、たすけ――」
大窄カイは一度も振り返らず去っていった。
小学、中学、そして高校とカイにとって闘争は身近な存在だった。
故にこそ昼時の吉田ミョウに違和感を持った。
あのときの拳はやや本気の一撃だった。だが吉田は両手とはいえ正面から受けきった。
であれば、強者と認めるのはやぶさかではない。
だからこそ、今までの闘争(せいかつ)のなかで『吉田ミョウ』という名前を聞かなかったことに違和感があるのだ。
「わからんことは考えても仕方ねえか。」
ぼうっと幽霊のような光を放つ煙草をくゆらせながら、街灯のない闇夜の道を歩く。
「しかし、まさか生徒会なるものに久木山レンがいるとは考えもしなかった。どうりで最近鳴りを潜ませていたわけだっ…!」
ニヤリと口元を歪ませる。
「わざわざ散策なぞに出向いたかいがあった!今後が楽しみだぜえッ…‼」
ハハハハ‼と無邪気にだが獣のように笑いを上げた。
「それでなんで集合時間に遅れたのか、教えてくれません?」
「……。」
「一時に集合して、それから学校に戻るって分かってましたよね。」
「……はい。」
「もしかしてまた、自分に酔ってたから、って言いませんよね?」
「――」
「これ資料室に持って行って下さい……‼」
ここにドンっと待ち構えた風貌を錯覚させる資材がある。それを職員室前の机に残したアヤカはビシッと吉田を指さしたあと、ツカツカと夕日が乱射する廊下を歩き去っていった。
吉田は前髪かき乱すように、右手を髪ごと額に押し付けた。
「あぁ…、やっちまったーー…。」
一人愚痴をこぼす。職員室はチマチマと教師がいる程度だった。資材を運ぶためにすこし膝を曲げる。反射した夕光が目に刺さる。指を下に潜り込ませて、
「エイやっ!」
気合を入れて持ち上げた。
「~~~~‼」
よたよたと、もたつきながらも資料室へと歩を進めた。上に乗っている荷物を落とさないように慎重に運ぶ。
「~~。フゥ。」
ドアの前にはついた。あとは中に入って資材を置けばこの事(ばつ)は終わるだろう。
(どうやって開けるべきか。)
わざわざ下に置くのも面倒だった。しかし、それ以外の選択肢がないのは分かってはいたため仕様がなく置こうとした。
「先輩、手伝いましょうか?」
硬い声が聞こえたため、吉田はふと左を見た。
薄いプリントを片手に持ったカズミがマネキンのように立っていた。
「……お願いしても?」
そういうと、カズミはドアをガチャりと開いた。そこに吉田が駆け込んでドスンッ‼と資材を振り落した。
室内は電気がついておらず、ろうか同様に、夕日が差し込んでオレンジ色に彩色されている。
「――っああぁぁー……重かったぁー…」
吉田は手をぶるぶると振って、肩を回す。
「……ありがとね。」
吉田は芯のないお礼を言った。
「いえ、では私は行きますね。」
そのまま出ていこうとする彼女に対して、吉田は待ったをかけた。
「なんです?」
普段通りの声ではあったが、それは吉田の申し訳なさを搔(か)き立てた(たてた)。
「……ご、」
喉の奥から絞り出すように吉田は言う。
「…ごめ、」
「……。」
カズミはそれを無言で見守る。
「ごめんなさい……。」
言い切った脱力感のまま吉田は頭を下げた。
しばらくの沈黙
「もう気にしてませんよ。」
手に持っているプリントを、整えるように撫でながらポツンとカズミは言った。
「あのとき、カッとなったのは私の身勝手な行いでしたから…。」
「お遊びが過ぎたのはこっちだから大丈夫だよ。
じゃあこれで仲直りって感じかな……?」
こくんっとカズミは頷いた。
「――っシヤぁ!」
よほど嬉しかったのか吉田はガッツポーズした。
(そんなに喧嘩っぽいことしたかな……)
カズミはそう思いながらも質問した。
「そんなに、嬉しい、のですか?」
「もちろん。」
間髪入れずに吉田は答える。
「せっかく後輩の女学生と仲良くなったんだもの、このまま気まずい空気に関係になって蒸発されちゃったらぁ…オレ泣いちゃうよ‼」
男の矜持(きょうじ)を微塵(みじん)も感じさせないくらいに、手足を慌ただしくさせた。
「でも、これでスッキリとさせたし気兼ねなく物理室へと誘えるよ。なっていったってあんな無機質の部屋に男と…よくても黒猫の二人しかいない状況って……。だから君が必要だ。」
「告白ですか?」
「誘ってはいるな。」
「殴りますよ。」
ははは、嬉しそうに顔をほころばせながら吉田は部屋をでた。
「っ…。ホントに…‼先輩は、死んだのですか……?」
廊下を歩き去っていく吉田に、言葉が喉から出ていた。
吉田は振り返りカズミのいる方向を見た。その表情は逆光で予測はつかなかった。
午後十時四十九分
ある港付近の海岸で、屈強な九人の男たちは血まみれで地面にころがっていた。
「うぅ……」
「いてぇよ…だ、だれか、たすけてくれぇ……」
うめき声が散らばっていく中、ただ一人立っていた男は地面に倒れてる人間を、羽虫を踏みつぶすように歩いた。
そうしてリーダー格と思われる男の首を、その剛腕な腕一本で掴み上げた。
「おい、吉田ミョウという名を聞いたことがあるか?」
「誰だそりゃあ……。き、きいたことねぇ…よ…」
「そうか。」
返答をきくと、その男を真っ黒な海に投げ落とした。
「ガ――~~~た、たすけ――」
大窄カイは一度も振り返らず去っていった。
小学、中学、そして高校とカイにとって闘争は身近な存在だった。
故にこそ昼時の吉田ミョウに違和感を持った。
あのときの拳はやや本気の一撃だった。だが吉田は両手とはいえ正面から受けきった。
であれば、強者と認めるのはやぶさかではない。
だからこそ、今までの闘争(せいかつ)のなかで『吉田ミョウ』という名前を聞かなかったことに違和感があるのだ。
「わからんことは考えても仕方ねえか。」
ぼうっと幽霊のような光を放つ煙草をくゆらせながら、街灯のない闇夜の道を歩く。
「しかし、まさか生徒会なるものに久木山レンがいるとは考えもしなかった。どうりで最近鳴りを潜ませていたわけだっ…!」
ニヤリと口元を歪ませる。
「わざわざ散策なぞに出向いたかいがあった!今後が楽しみだぜえッ…‼」
ハハハハ‼と無邪気にだが獣のように笑いを上げた。